見出し画像

半年足らずで10kgの脂肪を育てた話

まずい。非常にまずい。

結婚してからまだ半年足らずで、10kgも体重が増えた。
筋肉ではない。
純度100%であろう、脂肪が増えた。
いや、増やしたと言った方が正確だ。
脂肪には意志がない。
勝手に増えたりはしない。
全ては私の甘えと軟弱さが原動力となり、日々の食事から必要以上の栄養を蓄え、今や脂肪は身体内において爆速で勢力を拡大したのだ。

入籍と同時に夫とは同居が始まった。
夫は一人暮らしだったが、台所は狭く、あまり料理が得意ではなかった。
大学時代から一人暮らしを続け、料理も好きな私が必然的に料理担当となった。
その代わりに、夫は洗い物をやってくれる。
家事の中でも、この洗い物がダントツで嫌いだ。
そんなものを、嫌な顔をせず、進んでやってくれる夫は仏である。

しかし、仏な夫にも煩悩がある。
『もうちょっとむっちりした体型が好み。』
お分かりだろう。
この一言で私の脂肪がスタートラインに立った。

料理担当なので、カロリーは私の匙加減一つで決まる。
高カロリーな食べ物は美味しい。
そして私はお米派だ。
BMI19をキープしていた婚活も終え、夫好みの体型になるという免罪符を手に入れた私の脳味噌は、脂肪育成に完全にシフトした。

間食に罪悪感が無くなった。
お気に入りのお店の季節限定タルト、美味しい。
新作のコンビニ菓子、最高。

ご飯美味しい。おかわりしちゃう。
二人分作るの難しい。多くなりがちだ。
おかず残すのもったいない。食べちゃう。
ほぼ水だけだった飲み物が、お茶やスタバに代わった。

脂肪は着々と育った。
むちっとした二の腕を、夫が嬉しそうにプニプニ触っている下で、腹がスカートの縁に乗っていた。
横になると三段腹が完成したが、食事の後だし、と気にしなかった。

徐々に着れない服も増えたが、元々ゆったりめな物が多かったので買い直すまでには至らなかった。
だが、身体にフィットしていた婚活服は駄目だった。
高かったワンピース。綺麗なレースのスカート。
首元のフリルが可愛らしいブラウス。
それらは全てクローゼットで眠っていたが、気にしなかった。 
婚活は終わったからだ。
このことも、危機感の欠如に繋がった。

人間は、やらない理由を探しがちだ。
夫好みの体型だし良いよね、と、重い身体に気がついているのに、生活を変えようとしない。
冬場だったのもいけなかった。
コートを着れば、皆着膨れするから分からない。仕方ない。これも甘い。
そして、バスにもよく乗った。
地下鉄の最寄り駅とバスの最寄り駅とでは、徒歩にして10分程度の差がある。
雨でもないのに、その距離を歩くのが億劫だった日は気にせずバスを利用した。
典型的な運動不足だった。
愛するペットの散歩は、焼け石に水だった。

夫は日々成長していく二の腕にご満悦だった。
そんな夫は胃下垂で、太れないことが悩みだと言う。
日本人のおよそ半分を敵に回しそうな発言だが、
本人は真剣であるし体質はどうしようもないため、私も何も言わない。
言わないが、内では歯軋りが止まらない。
そこをぐっと堪える。
なにせ新婚。毒吐くにはまだ早い。

我が家には、夫が引越時に持ち込んだデジタル式の体重計がある。
普段は脱水所の横に立ててあり、薄くてスタイリッシュ故に存在感が希薄なため、ほとんど活用しなかった。
先日、電池が切れたというので入れ直し、
ふと、ほんの気まぐれに、久々に測ってみようと乗った結果。

世界から音が消えた。

体感的には10分、実際には1秒足らずだろう。
過去最高値の数値が、堂々と表示されていた。
故障?否、電池も入れ替えたばかりのまだ新しいものだ。
服のせい?否、暖かったから薄手のものだ。
食事?否、昼食から3時間は経っている。
記憶にある数値より10kgも超過したものを、信じるしかなかった。

嘘でしょ!?

声が出た。悲鳴に近かったかもしれない。
俺も乗ってみる、と夫が来た。
夫の数値は、私よりも2kg上なだけだった。
身長差は15cm。
今度こそ、現実が私を都合の良い世界からはたき落とした。

入らないスカートも、入浴中の三段腹も、半年前には無かった。
無かったのに。

何故筋肉は育ちにくいのに、脂肪はすくすくと育つのだろう。泣ける。

一念発起。
夫に痩せると宣言し、徒歩1分のジムに通いだした。
大好きなお米も半分にした。
飲み物も水にしている。
半年で育てた脂肪を、今度は半年かけて巣立たたせる。 
またあのワンピースにスカート、ブラウスを着るために。
コンビニ菓子も断った。
誘惑には負けない。

夫が私の二の腕をプニプニする。
その表情は、少し悲しげな気がする。


誘惑には、負けない。



いいなと思ったら応援しよう!