趣味は「映画と読書と音楽」と言っても良いですか? vol.064 映画 黒沢清「岸辺の旅 」
こんにちは、カメラマンの稲垣です。
今日は映画 黒沢清さんの「岸辺の旅 」(2015/日=仏)についてです。
大好きな黒沢清監督の作品。
とっても黒沢さんらしい、死んだ夫と旅する不思議なお話。
原作があるのでいつもよりわかりやすく、浅野さん深津さんという良い役者さんなので、より黒沢さんが自由に好きなように演出しているように思います。
死者も生きている人間も境界線がほとんどないところが、目新しいでしょうか。
ホラーテイストはほとんど抑えて、愛に溢れるロードムービーでした。
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物語は、ピアノ教師の主人公の女性、3年間失踪していた夫が突然帰ってきた。
前と全く変わらない夫だったが、自分はもう死んだ身だと告げられる。
そして3年間お世話になった人たちへ会いに行こうと旅に誘う。
まずは新聞配達のおじさんを訪ねる。仕事を手伝いながら一緒に生活し主人公も次第になじみ始める。
ある日そのおじさんは消えてしまい、彼も夫と一緒の死者だった。
次に夫婦で経営している食堂を訪ねる。
またそこで手伝いをしながら、ある日主人公は二階にピアノを見つける。
そのピアノは食堂のおばさんの死んだ妹さんが弾いていたもので、
主人公は死んだ妹さんの霊の演奏を聞く。
死んだ夫へ宛てた手紙をきっかけに喧嘩してしまい、夫は消えてしまった。
また大好きな夫のぜんざいを作ると再び現れ、夫の旅を最後まで付き合うと誓う。
最後に農村で塾を開いていた村へいき、そこへ夫と同じ様な境遇の夫婦の姿を見て、旅の終わりを覚悟する様になる。
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まあ、ざっとこんな感じ。
夫が死者だという以外は、もう普通のロードムービー。
普通に会話して、食事も食べ、睡眠もして、周りの人も普通に生きている人と同じように接する。
その死者の扱いがとっても面白い。
生きている人間と死者の境界を曖昧にしている!
ただ、少しづつ役者の演技、光の演出などで、不思議な雰囲気は漂っています。
そこはもう黒沢節が冴えまくっています。
窓からの光が暗くなったり、明るくなったり、天井から音がしたり。カーテンが風で揺れたり、
ちょっとタルコフスキーを彷彿させました。
そう、黒沢さんは物語で演出するより、こういう映画的な演出で表現された方がいい様な気がします。
もう抜群です。
そして俳優陣が素晴らしい。
朴訥とした幽霊が似合う浅野さん、
そして深津さんが本当に透明感があって魅力的、
大好きな死んだ夫が帰ってきて嬉しさと戸惑いがないまぜになった素晴らしい演技で、この映画は深津絵里さんを堪能できる作品です。
そして蒼井優さんもワンシーンですが、夫と不倫していた女性を演じて、生きている人間の怖さをまざまざと見せられました。
映像も俳優も良し、物語もわかりやすく、演出も黒沢さんらしい。
昔のように残虐な怖い黒沢さんも大好きですが、
このような愛に溢れるお話も良いですね。
今日はここまで。
「死者と生者の関係を描きつつ、物語としては常に現在進行形で進んでいく。昔を取り戻そうという話ではなく、先へ先へと進んでいこうとする物語に最も魅かれました。本当に映画的だと思いますね」/黒沢清