踏切_8
佇む男
立ち止まって何かを見ている。何も見ていないのだろうか、ただただ立っているだけだろうか、「ただ立っている」とは何事だ!?
そのうち歩き出すだろうか。
妻はいつも何かしら本を読んでいたように思う、それがマンガのことも当然あった。部屋にはコンビニで買って来たような老眼鏡がいくつも転がっていて、どれもどこかが少し壊れていた。私は毎月すでに読み終わったであろうFEEL YOUNG(レディースコミック)をよく読んでいた。ちょくちょくページを覗く妻に「まだそこ読んでるのぉお!?」といつも驚愕されていた。遅過ぎるらしい。「何を見ているのか?」と聞かれるのでいつも「絵を見ている。」と答えた。へぇー、と感心したような馬鹿にしたような顔をされた。絵は見ないのか? と問うと絵は見ない。と言う。漫画なのに。そういうものか。と私は思った。
自分でも思っていた。「私は漫画を読むのが遅いのではないか?」と。いや漫画だけではない、ずっと「自分は本を読むのが異様に遅いのではないか。」と。
知っていた。それを思うと少し悲しかった、のろまなのだ、うすのろ。自分はたぶん馬鹿者なのだろう、「何を見ているのか?」と問われ「字を見ている。」と答えるつもりだろうか。そりゃあ字を見ているだろうよ、けれど普通、字は見ないものだ。本なのに。
遅いヤツは何を見ているんだろう?、何かを見ているはずだ、じゃなきゃこんなに遅くなるわけが無いじゃないか、いったいオレは何を見ていたんだろう。