シンガーソングライター・サトウリュースケ×楽宴2018
猛暑日が続く夏真っ盛りの7月下旬、松川町出身のミュージシャン・サトウリュースケは「イイダミュージックウェーブ2018」にゲストとして出演。アツイ歌で会場を沸かせていた。
そして9月に故郷・松川町で開催する音楽イベント「楽宴(らくえん)2018」に出演するに留まらず地元の有志と共に裏方でも奮闘している。サトウの松川町への思いがアツイ。
下伊那郡松川町出身のミュージシャン・サトウリュースケ。現在は東京在住で、関東を中心に全国の音楽イベントに出演。各地で熱狂的なファンの心を掴んでいる。
そんな多忙な中でも生まれ育った松川町には1~2カ月に一度は帰郷する。
それぞれの人の持つ、環境が違っても共有できる切なさや懐かしさがある小さい頃の思い出の風景を歌う彼にとって「地元」の存在は大きい。
幼少の頃から音楽と遊ぶように関わりながら、自分のフォーマットを見つけた彼に、彼のルーツと松川町への想いを聞いた。
ーー サトウさんが音楽に興味を持ち出したのは、何歳頃?どんなジャンルを聞いていましたか?
僕はもの心ついた小学3年〜4年頃から、CDラジカセの前に正座してヘッドホンして、歌詞カードを見ながら絶妙な歌詞やメロディラインを見つけては鳥肌をたてる・・・なんて遊びをずっとしていました。今でもやっています(笑)。
そういう遊びをしているうちに、自分でも作りたくなって 歳の頃にはギターを持ってオリジナルを作るようになりました。
当時は洋楽だとレッチリやクラプトン、ジェフ・ベックとか、60〜70年代ロックやブラックミュージックが大好きで。邦楽だと奥田民生や井上陽水、山下達郎とか・・・歌詞をすごく聞いてましたね。
彼が入学した松川高校には、当時軽音部がなかった。
ライブハウスに通う毎日。
そして、高校一年の時に母親を亡くす。
そんな悲しい出来事を乗り越え、高三の時にはバンドを組み「文化祭でライブをやりたい」と自ら全校をまわって署名運動をし、ライブ開催を実現させた。文化祭での役割は「ライブ長」。
この頃から「将来、音楽で食べていこう」と思っていた。
高校時代から「ブラウンシュガー」というバンドで活動。卒業後解散し、サトウ自身は19歳で上京。活動の拠点を東京におく。
ソロ活動の間二枚のアルバムリリースとライブを精力的に行う。2004年、新メンバーで「ブラウンシュガー」を再結成し、自主制作CDを発表。2006年に解散し、再びソロへ。
現在はソロでの活動と「上上ブラザーズ」という3人編成のバンドでの活動を行っている。
ーー 現在はソロとバンド、それぞれ活動されていますが、曲を作る上でのこだわりや大切にしていることは?
僕の歌は初めて曲を作った頃から今まで、ずっと一貫性がありますね。歌詞やメロディライン、そこに風景が見える・・・ということを大切にしています。生まれ育った松川町の環境や思い出が、自分の作る歌に大きく影響していますね。生まれ育つ中で見てきたこと、感じたこと、音や匂いとかよく覚えてて。人の家の匂いはよく覚えています。
それと、亡くなった母親がよく三味線を弾いていたので、どこにいても三味線の音を聞くと懐かしい気持ちになります。「秋田大黒舞」という曲がとても心に残っていて・・・。こういう故郷の思い出や、小さい頃に感じた事って、歌を聞いてくれている人たちとそれぞれ環境は違っても、共有できるんです。せつなさや懐かしさ、そんな風景が想像できる歌が僕は好きで、これからも歌っていきたいと思っています。
ーー ふるさとの景色や匂い、思い出は、サトウさんにとって切り離せないものなんだなと感じますね。
そうですね。僕は基本は『松川町』。東京にいてもこっち(松川町)のアタマで東京のこと考えてる。
こっちはのどかで一人になれる場所、たくさんあるじゃないですか。道歩いてても周りに誰もいなくて一人の時、多いですよ。東京は人が多すぎて本当に一人になれる場所は部屋の中だけ。でも東京は面白いものや見たいものがすぐ近くにあるし、やりたいことが身近でとても便利だとは思いますね。そこには切磋琢磨している感じがあって、とても刺激になる。
僕にとってはどちらも大切だけど、気持ちが疲れた時は「自然」が一番の薬で、松川に二ヶ月以上帰れないと心身バランスも崩れがちです。松川が【静】なら東京は【動】。どちらも必要。将来的にはいつか松川に戻ってこっちを拠点に活動したいですが、まだ先かな・・・。
ーー 普段はどんな風に曲作りをされているんですか?
曲を作る時は、集中しだすとA4用紙が文字の海になるくらい一気に真っ黒になっています。言葉のおさまりの良さって情景描写に必要なので、そこからすっとハマる言葉を見つけてパズルみたいに組み合わせていくんです。①歌のメロディー ②ギターのメロディー ③歌詞。この三つのパズルをずーっとやっている感じですね。
ーー パズルですか。リラックスした雰囲気で、なんだか楽しそうですね。
僕は昔から俳句が好きで、言葉を収めるというか、言葉遊びが好きなんです。そういう言葉遊びで間をとったり、人との距離感はかったりして冗談を言うような余裕って良いですよね。
音楽にもそんな【お互いを楽しめる余裕】がもっとあると良いと思います。例えば、ゆるやかな音楽が好きな人ってデスメタルを聞くと「なんだこれ!」って受け付けないとか・・・。そうじゃなくて、『こういう音楽の楽しみ方もあるんだなぁ〜』って思えるくらいの余裕ですね。
ーー 全国各地でライブをしている中、ミュージシャンとして活動を始めた頃と今までの間で、何か感じることや変化はありましたか?
そうですね、ずっと音楽やってきて、ライブハウス、バー、カフェ、イベントはもちろん、クラブや公民館、老人ホームや保育園など色んな場所で歌わせてもらっています。
色んな場所でやってきて感じたのが、ライブって人がいて成り立つもので、【自分が一生懸命やっていれば、どんな場所で歌っても楽しんでもらえる】ということ。それが今は僕のモットーになっていますね。
誰かと比べているうちは、自分に自信がなかったけど、フォーマットが【自分】であれば、どこへ行っても感謝できる。そう思えるようになったし、そういうことを実感する現場が多いんです。
今回、9月に故郷・松川町にある温泉施設「清流苑」で開催される音楽イベント「清流苑プレゼンツ・楽宴2018」には、サトウ自身アーティストとしてだけでなく、実行委員の一人として裏方でも参加する。自身の気持ちと運営側の思いが、タイミングよく合ったからこその参加のようだ。
このイベントにどのような気持ちで関わっているのか。彼の正直な思いには、たくさんの感謝の気持ちが溢れていた。
ーー サトウさん自身も、松川町で音楽イベントをやりたいと思っていたところ、ちょうど清流苑さんから企画が持ち上がったということで今回は実行委員としても参加されていますが、個人的にはどのような思いで関わっていらっしゃいますか?
もうちょっと市民に気持ちが寄った音楽祭があると面白いなぁと思っていました。演歌やポップス、ロックやソウル、ジャズなど、ジャンルは様々でも上質で良い音楽が流れている音楽祭。その人が有名だとかすごい肩書きがある・・・とかではなく、単純に【いいもの】でみんなで楽しみたいなって・・・。
それと、東京と松川ってそんなに遠くないと思うんですが、なにかと『東京のやり方は〇〇〇だから、東京と同じように〇〇〇やろう』みたいに【東京のフォーマット】をこっちに持ってくることは、したくないです。東京って確かに国の中心だし都ではあるけど、全国色んなところで歌っていると、本当に様々なその土地の魅力を感じるんです。この地域にもここでしか出せない魅力はたくさんあると思っています。僕の大好きなミュージシャン仲間にもいつか松川へ来てもらいたいし、アーティストの活動の場を広げる意味でも、僕は地元の人たちとアーティストとのパイプ役になれればと思っているんです。演奏中はみんな集中してステージを見るけど、そこ以外の交流の場を設けて、お互い垣根なく気負わない時間を過ごしたい。もし今後学生ボランティアスタッフがいたとしたら、一時間でも必ず交流したいですね。
ーー 全国の様々なイベントを渡り歩いているサトウさんだからこそ「東京のフォーマット」ではなく、より地元ならではの魅力を大切にしたいんですね。若い方たちとの関わりも、何か思いがあるんですか?
高校時代、飯田のライブハウス『CANVAS』に外国人のジャズピアニストが来て、すごく聞きたくて行ったんです。そしたら終わってからその場で打ち上げに誘ってもらえて。それだけでも感激だったんですけど、僕がジュースを飲んでいるすぐ近くにそのアーティストさんがいて、話ができたんです。もう一言話しただけで、すごい感激したのを覚えています。感激しすぎて話したかったこと、全部忘れちゃうくらい・・・。そういう経験は感謝してもしきれないですね。だから今度は僕が返す番。そういう気持ちは、若い子たちがきっと受け継いでいってくれると思います。
ーー 今回は「楽宴2018」の裏方として実行委員会に出席する中で、どんなことを感じていますか?どんなイベントにしたいですか?
今回のイベントの実行委員会にもできる限り帰郷して出席していますが、実行委員のみなさん、僕よりもよっぽど柔軟な考えで、みんなで面白いことやろう!って・・・自分よりずっと年上の人たちがもっと楽しもうとしている。そんな仲間に出会えたことも、これからの楽しみに繋がりますね。楽しみです、高校以来の裏方ですから。
今までも全国のいろんな音楽フェスやライブで活動してきましたが、このイベントも純粋に音楽や美味しいものを楽しんでもらえる素朴でホッとするような雰囲気になると良いなと思います。小さい子供たちにもたくさん来てもらいたいです。
ーー 「楽宴2018」の開催まであとわずかですが、とても楽しみですね。今後の活躍も期待しています。ありがとうございました。
※このインタビューは2018年7月に行われたものです。楽宴2018は終了しております。
取材・写真:北林 南
協力:メケメケ食堂