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「今を生きる姿」をゴキゲンに”日本のこころ”を舞台で表現【GOKIGEN Nippon 代表・北原太志郎】
生きる姿をゴキゲンに描いていきたい
自然の恵みに感謝をし、過去と未来への意識を持ち周りの人との共創を大事に自律して
松川町の国道から、少し脇に入った穏やかな住宅地に、約350年の歴史を持つ古民家がたたずむ。
屋号は「市場(いちば)」。ここの14代目当主となるのが、北原太志郎さん(39)。
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北原さんは、松川町で生まれ3歳までこの地で過ごし、その後東京へ。
新しいものや流行りものより、時代を感じられる古いものに惹かれることが多く、多感な高校生活を友人たちと暮らす中では、自身のマイノリティな考えに苦しさを感じたこともあったという。
大学時代は文化人類学を専攻「人間とは?生きるとは?」と考えながら暮らす中、彼はミュージカルによる表現を通して多様な価値観を認め合える社会の実現を目指す、NPO法人コモンビートに出会う。
そして、表現をして人に何かを伝える楽しさを覚えていくことで、その答えのヒントを見出していくこととなる。
社会人になり、日本の様々な地域の人たちと関わるなか、「日本とは?日本人とはなにか?」という新たな人生の問いに行き着くことに。
「日本って面白い!」全身で感じた伊那谷での光景
そんな中でも、3歳まで祖母と暮らした松川町のことを思い出し、いつかは帰る場所、とぼんやりと考えていたある時、伊那谷に息づく大鹿村の「大鹿歌舞伎」と、清内路村(当時)の「秋季例祭奉納煙火」に参加。いわゆる「地域の伝統芸能」に初めて触れた。
村の人々が生む祭りのエネルギー。村の人々が、何百年と続く伝統の1ページを更新していく。
「日本って面白い!」と、北原さんは、たちまち興味を惹かれた。
大鹿歌舞伎、清内路の秋季例祭奉納煙火は、ともに300年以上の伝統を誇る。
それは、村人自身が主役となり、神への奉納を謳い、地域の老若男女にとって、アイデンティティを醸成し、絆を確かめ合う大切な機会となっている。
こうした時空間が存在している祭りの現場は、都会のな生活に慣れた北原さんにとって、あまりに新鮮すぎる光景で、まるで宝物を発見したかのような衝撃と興奮の連続だったという。
そして、日本の片隅で「日本」を全身で感じ、「日本人」としての自分を意識した瞬間でもあった。
その後、2005年の愛・地球博で新日本館で上演された群読叙事詩劇「一粒の種」を観割。
日本人性を喚起する舞台の面白さに触れ、北原さんは「若者が地域社会との実体ある交流を通して関係性を構築しながら『日本のこころ』を掘り起こし、舞台芸術を通して世にメッセージを発信するプログラムを生み出したい」と考えるようになった。
以来、阿智村、大鹿村にて、地域の方々と都市部在住の若者との交流プロジェクト「もざいくプロジェクト」を5年間にわたり実施し、社会的なニーズと意義を感じてきた。
そのように活動を続けながら、東京で地域活性のコンサルタントの仕事をしていた30歳の頃、コンサル先の地域(東京・品川)の方から「あなたはコンサルではなく、地域に根を張って汗をかく人だ」と言われたことをきっかけに、30歳で松川町ヘUターン。
その後は地域に関わる仕事をしながら、2018年に「もざいくプロジェクト」を拡大発展させる形で、「GOKIGENNippon」を立ち上げる。
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感じて 語って 凍としてたくましくゴキゲンな舞台表現を
GOKIGEN NiPPONでは日本各地への旅を通して、若者が生き方を探る、旅✕舞台創作プログラム「Discover8」の構想を練り、実際にプログラムを実施する前のプレ企画として、2018年から2年間かけて「①旅企画②旅語り③百年踊り」の3つの企画を実施した。
①旅企画は、週末を中心に、日本各地の7つの小さな集落(パートナー地域)へ足を運び、農作業やお祭りのお手伝いなど、地元の方々との交流を重ね、地域の暮らしを肌で感じてきた。その地に生きる人たちが感じている地域の魅力や目指していること、どのような想いを持って暮らしているかなどを、訪れるたびにたくさん教えてもらったという。
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②旅語りは、旅企画に参加した人が、旅先で感じたことを東京でシェアするワークショップ。地域の魅力、出会った人、うかがった話や心に残った言葉を、写真や映像を交えて共有した。
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③百年踊りは、舞台創作の第一歩としてGOKIGENNiPPONのテーマダンスを、水城賢二さんに作曲、振付と踊りの指導をR-ART-WORKSの吉田快さんに依頼。団体のビジョンを表現した「凛としてたくましくゴキゲンな」踊りが生み出された。20名ほどのメンバーが月1回、約半年間練習を重ね、昨年は3度、発表の機会があった。
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夢中になった踊りでの表現と地方への関心を掛け合わせて
北原さんが舞台で表現することにこだわりたいのは、大学時代に出会ったYOSAKOIソーランの経験が大きなきっかけだった。
初めてよさこい踊りを見たとき、声・表情・身体を使って全力で伝えてくる踊りに、大きなショックを受け、その日のうちに参加を決意。
150人でひとつの群舞を創り上げていくなかで、大切なことを学んだ。それぞれが「自分がかっこいい踊りを踊りたい」と思っているうちは、観ている人には何も伝わらない。
チームとして「自分たちの踊りで観ている人々を元気にしたい」という意識に立ったときから踊りが爆発的なエネルギーを帯び始めた。
自分本位から他人本位へ。個人プレーからチームプレーへ。踊りを通じて、目の前の人に想いが伝わっていく。そのライブ感に、北原さんは惹きこまれていった。
また、地方に関心を持った時期と、表現に関心を持ったのが同じ時期で、いつかこれらを掛け合わせて何かやりたいと思うようになっていたという。
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旅をとおして気づいた地域活性の原点 伝えていきたい「日本のこころ」
各地に「旅」する中で、北原さんはこう語る。
「地域の方の言葉をはじめて自分が受け取った、原点となる瞬間があります。『私たちにとっての地域活性は、まず自分たちが楽しむことです。』地域活性というと、都会の人材やお金を地方に投入してあげる、というイメージがありました。
しかし、地元目線の地域活性の原点は、そこに住んでいる方々が楽しんでいるかどうか。他力本願ではない、自分の中から湧き上がるものが大事なんだと気づきました。大事なことは地域にこそある、と思い、実際に地域を担っている方々の具体的な言葉を聞き、伝えていくことを意識するようになりました」
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出会った人との言葉やすごした時間を、大切に噛み締めているような口調で、北原さんは続ける。
「旅の中で、地域の方々はその一瞬一瞬ををみんな楽しんでいて、とても力強い。今を楽しむことが、過去も未来も意味あるものにする。GOKIGENNiPPONも、自分自身も、そんな風でありたいです。『凛々しさ、たくましさ、ゴキゲンさ』。これは日本各地で出会った、その地に愛情と誇りをもって生きる人々の姿そのもの。
これからの時代を担う若者が受け継ぐべき生き様がそこにあるとじています。
それぞれの地域への「旅」で、歴史や自然、人との豊かなつながりをもつ方々に出会い、暮らしに息づく日本のこころを感じ取っていく。
そして受けとったそのこころを、歌と踊りと芝居に乗せて社会に伝えることで、日本のこころを持った若者を育んでいきたいと考えています。毎年参加者を変えながら、百年間続けることで、百年先の世界に日本のあり方、日本人のあり方の片鯖を伝えていきたいと考えています」と、自らに課したミッションを語ってくれた。
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祖父母が生まれた百年前、そして孫世代が生きる百年先の世界。前後1世紀を背負う責任と使命をもった若者が、ゴキゲンに生きる日本を創っていきたい。そんな百年後の未来への想いを胸に、北原さんは創作し、活動している。
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取材:北林 南
協力・写真提供:GOKIGEN Nippon
イラスト:大宮のぞみ
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