ゆうしゃ かずにゃんの冒険 ※身内ネタ

 東の国 ベルアミー。
音楽を愛する国。
勇者 かずにゃんは城の王の前に膝を付けた。
王は玉座に深く腰をかけたまま、某RPGの要領で口を開く。

「ゆうしゃ かずにゃんよ。 城の姫、なちゅ姫が女帝まゆりんに拐われてしまった」

「かずにゃんの手で、 なちゅ姫を救い出して欲しい」

王の命は単純明快だった。
かずにゃんは王の言葉を受けると、顔を上げ、キリリとした眼光で真っ直ぐ前を捉えた。

「王様……!」

はきはきと凛々しい声色で続ける。

「最近ホイッスルボイス練習してるんで聴いてください!」

「それは今言う話ではない」

「あ!このカーペット、モコモコですね!うちのと手触りが全然違~う」

────────────

「ゆうしゃさま。なちゅ姫を助けに行ってくれるのですね。薬草、たくさんサービスしておきますね」

道具屋のうにちゃん。カウンターの向こう側でやくそうをせわしなく袋に詰める。声色は鈴のように優しい。

「ありがとう、うにちゃん!うにちゃん特製の薬草は世界一美味しいからね!」

「食べ物じゃないんですけど……」

困ったように目を細めるうにちゃん。うにちゃんの作る物は何であれ美味しくなってしまう特性があるので仕方がない。

「ねえうにちゃん。ももちゃんはいないの?」

やくそうをバリバリ頬張りながらかずにゃんは辺りを一瞥する。

「いるよー!」

うにちゃんと共に商人をしているももちゃん。うさぎのようにぴょこん、とカウンターから顔を出す。ツインテールが耳のように揺れる。

「ももちゃん!そこにいたんだ!」

バリバリ。やくそうバリバリ。かずにゃんは薄味を好む。何故なら勇者だから。

「やくそう食べすぎじゃない!?怪我もしてないのに!」

ももちゃんの大きな目がもっと大きく開いた。

「なんでももちゃんの方が私より驚いてるの?」

やくそうで膨らんだかずにゃんの頬は咀嚼でモゴモゴ動く。その様は開かれた目を虚しくさせた。

「ええ……」

いくら町一番のしっかり者でも絶句する他無かった。

「ゆうしゃさまは、一人で行かれるのですか?」

やくそうを詰め終えた袋をかずにゃんに向け、うにちゃんは首を傾げる。
言葉を追うようにももちゃんが続ける。

「絶対仲間つれていった方が良いよー!心強い人いーーっぱいいるよー!ももちゃん教えてあげるー!」

「な、なんて良い道具屋なんだ……!!この店は売れる……!大企業に発展すれば良いのに……!!」

───────────────

 「君が武力で名を馳せる戦士 きぃちゃんだな!!!!!」

「……いや声のボリュームおかしくない?」

人の家の前で溌剌と叫ぶかずにゃんの熱意は本物だった。教えてもらった特徴と照合して、不安は無かった。
だが突然向けられた熱意はきぃちゃんの眉をしかめさせる。

「きぃちゃんだな!!!!!!!!!!!!????」

「でかいでかいでかい、川の向こう側の人と話すときのボリュームだからこれ」

指で耳を塞ぐ。しかし勇者は怯むことなく続ける。何故なら勇者だから。

「共に!!!!!!!!!!!!なちゅ姫を助けに行かないか!!!!!!!!!!!!」

「共にぃ!!!!!!!!!!!!共にあーるき!!!共にわーらい!!!!共にちーかいぃ!!!!!」

「どこのデュオの歌だよ!!!!!!!!!!」

かき消さんと声を重ねるきぃちゃんだが、かずにゃんは怯まない。そう、勇者だから。

「どっちもうるさいから」

熱を帯びた空間にピシャリと冷や水のような声が刺さった。

「!?」

声の先に目をやると、腕を組む美人が口角を下げこちらを見据えていた。

「あ、あーさくら。す、すみません」

きぃちゃんがたじろぐ。

「パズル集中できない」

謝罪を認めず続けるさくら。

「ごめんて……」

「行きなさいよ。なちゅ姫助けに」

宥めも虚しかった。

「行きなさいよ」

「その通りだ!行こうぜきぃちゃん!!ゲットだぜ!」

かずにゃんはそのチャンスを逃さない。鷹のように拐う。何故なら勇者だから。

「人をポケモンみたいに……」

────────────

「ゆうしゃかずにゃん!大変だ!」

国軍の兵士が慌ただしくかずにゃんと隣に歩くきぃちゃんの背を止めた。

「なんだ!?どうした?敵襲か!?」

兵士は呼吸を整えた。

「女帝まゆりんが……!!」

「な、なんだってー!?!?」

─────────────

「は?」

戸惑いを浮かべるのはきぃちゃん。
兵士の知らせにより城へ急行した。
周囲は緊迫していればしているほど、きぃちゃんの戸惑いは増幅していく。

「女帝まゆりんとZoomが繋がっている!!」

「ず……Zoom……」

「ゆうしゃかずにゃん!こちらへ!」

「あ、ああ」

兵士はゆうしゃかずにゃんをMacの前へ導いた。

「!!」

「お、お前が……女帝まゆりん……!!」

画面に映されているのは、ボンテージを身に纏った、美しい黒髪と長い睫毛を妖艶に揺らす美女だった。
艶やかな唇が動く。

「ふん、お前が勇者か」

余裕を持て余しながら斜に見つめる姿に、かずにゃんは戦慄いた。

「す、すごいプロポーションだ……。全身を見せてください!!!」

「たまにいる変態の配信リスナーか」

「全身見たいなぁ?」

「寄せんでいいわ」

勇者と女帝の言葉の応酬にギャラリーは震えた。
耐えられずきぃちゃんは口を開く。

「いや、女帝のツッコミの間絶妙だな!!」

「っていうかなんでZoom使ってんの!!もっと脳に直接話しかけるとかそれっぽいのあるだろ!」

その声に女帝の小首が動く。
気を悪くしたか、と緊張に何人もの兵士が生唾を飲んだ。

「ごめん、Wi-Fiわるいわ。何言ってるかわからんかった」

女帝は配線を確認しているようで、画面がカタカタ揺れる。

「きぃちゃんもう一回言ってくれる?」

気を効かせた勇者はきぃちゃんの方へ顔を向ける。

「いや同じテンションで言えないわ!!」

気遣いとは受けとる人間の状況一つで変わるのであった。

「あ、直ったわ」

女帝の声。

「女帝まゆりん!!なちゅ姫を返せ!!どこにやった!」

かずにゃんは熱意の宿る眼差しで口火を切る。
たとえZoomであっても。勇者なのだから。

「仕方ない、声を聞せてやろう。なちゅ姫を捕らえている部屋と繋げてやる」

「は?」

画面がひとつ増え、気品ある白い肌に、可愛らしい瞳をぱちくりさせた美少女の姿が映し出された。

「なちゅ姫……!!」

「いやZoom便利だな!!」

姫は悲しげな表情を浮かべ語りかけた。

「ゆうしゃかずにゃん……。女帝まゆりんは強すぎます……」

「ゆうしゃかずにゃんを危険な目に合わせる訳には行きません……!どうか私のことは構わず……」

姫は目を伏せる。

「なちゅ姫……!そういう訳には!!」

その先は言わせまいと勇者は姫の言葉を遮る。
しかしなちゅ姫は続けた。

「私のことはいいから!それよりマイスタにチアしてください!!」

「なちゅ姫……!!」

なちゅ姫はわりとボケたいタイプだった。

「ククク……」

女帝まゆりんは不敵な笑みを浮かべる。

「このなちゅ姫をなぁ……!高音厨に育てて第2のクリスタルキングにしてやるよ!!!フハハハハ!」

「な、な、なんだってーーー!!?」

「立派な『ユーは ショーック!!!』を言わせてやるよぉ~!あと大都会もなぁ!!」

今まで強い姿勢を崩さなかった勇者も、あまりの鬼畜にとうとう愕然とした。膝がガクガクと震える。

「や、やめろ!なちゅは清純派で正統派の歌姫なんだぞ!!ぜったいにそんなことはさせない!!!

「あ~~果てしねえ事言いやがって。愛で空が落ちてくるわ」

勇者の啖呵すら女帝は、掌の上で遊ぶように軽く払う。

「何上手いこと…………いや上手いのか……?」

きぃちゃんは数々の情報に頭を抱える。

「なちゅ姫!待っていてくれ!!必ず!!」

勇者の声に力が入る。
姫は涙ながらに首を振る。

「ゆうしゃかずにゃん……!いけません!あなたを失うわけにはいかないのです!」

「私の事はいいからマイスタにチアチアしてください!」

「なちゅ姫……!マイスタもチアチアするし絶対に助けるぞおおお!!!」

かずにゃんの叫びは大きく木霊した。

「はん、はたしてお前はここまでたどり着けるかな?やれるもんならやってみるがいーさ」

鼻で笑う女帝。長い爪が怪しく光る。

「待ってるぜゆうしゃかずにゃんよ。せいぜいがんばりたまえ~」

女帝はからかうような手つきで爪をギラつかせ、Zoomを切った。

「!!」

「まっ、待て!!!くっ、くっそおおおお!!!」

項垂れるように床を拳で殴る。モコモコのカーペットが指を包む。いくら感情的になっているとはいえ画面は殴らない。何故なら勇者だから。

「絶対助けてやるからな!!!こうしちゃいられない!行くぞ、きぃちゃん!」

「い、良いんだけど、良いんだけど感情の置き所が終始わからない事ってこの世に存在するんだな……」

はやる気持ちを乗せたせいで、足早に踵を返す。
スタスタと音を立てていると、急に勇者が立ち止まる。

「はっ!!」

「何、どうした?」

勇者はスマホを取り出す。

「チアチアする時間だ!!!!」

「!!」

「みんなで送ろう!!!!!マイスタのチア!!!!!!!!」

みんな、なちゅ姫のマイスタの応援、よろしくね!!!

次回、『ぴよちゃん村をたすけて!踊り子らいきゃんと伝説の双子しずか&ももか』

おたのしみに!!!!!

いいなと思ったら応援しよう!