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〇〇住宅のT・I氏~第三話
僕ら夫婦が今回引っ越す物件。
大家さんの敷地内に隣接しているその物件は、1階は車庫・物置として大家さんが使用する。
2階の住居が僕らのスペースとなる。
キャンピングカーで旅をしながら生活をする。
このことを中心に考えているため、間取りの中心は妻のサロン営業に使用するつもりだ。
リビングとお風呂場やトイレさえ使えれば十分だと考えていた。
家の前に車1台分の駐車スペースが備えられており、もう1台は家の横にある芝生スペースに駐車できる話しになっている。
大家さんの母屋と、お借りする離れの家の間にある芝生スペースは15畳ほどの広さであろうか。
隅には物干し竿が置かれてあり、大家さんは使用していないようだった。
この物干し竿を外してもらえれば、キャンピングカーのタープも張れるスペースが確保できる。
大家さん家族とそこでBBQをして交流してもいいだろう。
僕はそんな理想の景色を思い浮かべながら内見の当日を迎えた。
12月19日内見当日。
僕ら夫婦は待ち合わせ時間の20分前に到着し、駐車場の広さなどを確認していた。
10分前に工務店の方が到着。
カギを持っている〇〇住宅T・I氏は時間ちょうどに現れた。
10分前行動でしょ、普通。。
隣で妻がささやいた。
僕も同じことを思ったが、彼は僕ら夫婦よりひと回りも若いわけで…。
T・I氏はカギを使い玄関を開けた。
1階は倉庫スペースのため、玄関を開けたらすぐに階段がある作り。
僕らは階段を上がり2階へと進んだ。
事前に写真で拝見していた室内の風景。
実際に見たときに写真より印象が良いか・悪いかという感覚は大切だと思っている。
僕も妻も同じ印象で、写真より劣って見えていた。
まぁしかし、壁紙やその他リフォームをする予定なので問題ではないだろう。
そこから工務店の方と図面を見ながらの打ち合わせが始まった。
しばらくして僕は気づいたのだが、T・I氏が見当たらない。
階段下にある玄関を覗くと、彼は玄関に立っている。
なんでそこにいるの?
僕が訪ねると彼は答えた。
自分の分のスリッパを忘れまして!
彼はにっこり微笑んで、そう答えた。
はい?スリッパを忘れた?今仕事中ですよ~
これは僕の心の声だ。
よく年配の方が言う。『最近の若いやつは~』
この言葉を使う大人になりたくはなかったのだが…呆れていた。
僕は彼に質問した。
大家さんは母屋かな?
電話してるのですが繋がらないんですよ。自宅に行ってみます。
そう言って母屋へ向かった。
それからしばらくの時間、リフォームについての提案を繰り返し、寸法を測るなどの作業をしていた。
どうも大家さんは連絡が取れないらしい。
どこまで手をかけてよいかを相談したかったのだが、また後日にするしかなさそうだった。
通常の内見より時間がかかっていたため、T・I氏は次の予定があるという。
彼からカギを預かり、終わったら〇〇住宅へ持っていく約束をして別れた。
その際、彼へ物干し竿の件を訪ねたのだ。
まだ確認できてません!
T・I氏はそう答えながら、その物干し竿を手に取り、引き抜く素振りを見せたのだ。
これ、簡単に抜けそうですよね!?
それを聞いた僕ら夫婦も、工務店の方も呆れていた。
自分の会社が管理しているお客さんの私物を平気で抜こうとしている。
そしてそこは、目の前にいる僕らが契約している物件だ。
なにより物干し竿の件は1週間以上も前に伝えていたことなのだ。
それを内見の当日までも平気で確認していないT・I氏。
コイツ大丈夫か…。
僕の心の声だ。
T・I氏を見送ったあと、母屋の縁側からおばあちゃんが見ているのに気付いた。
窓口になっている息子さんは不在のようだが、おばあちゃんはいるようだ。
おばあちゃんは僕らを手招きして呼んだ。
挨拶をして近寄った僕らにこう切り出したのだ。
ここの芝生には車を停めないでね。下にガス管が入っているから危険なのよ。
僕は瞬時に悟った。
芝生のスペースであるもう1台の駐車場。ここはまだ話しがまとまっていないようなのだ。
そうでしたか、わかりました。
僕ら夫婦がそう言うと、おばあちゃんは家の中へ消えていった。
ここ辞めようよ。絶対モメるよ。
妻の意見に僕も賛成だった。
すぐに工務店の方にも事情を説明し、いったんキャンセルをさせてもらうことができた。
駐車場は2台の契約である。しかしその1台は大家さん宅で話がまとまっていなく、停めるな!と直接言われたのだ。
妻のサロンをやることも伝えている。
お客さんも利用するその駐車場を、よく思ってない人がいるわけだ。
僕らはカギを返すために〇〇住宅へ向かった。そして今回の物件をキャンセルすることも伝えるために。
僕は車内で考えを巡らせていた。
しかしあのおばあちゃんの感じ…。退去された前の人達は、なにかのトラブルがあったのではないだろうか。
T・I氏には退去理由を尋ねていた。前に住んでいた方が2年も経たずに引っ越しをすることを聞いていたからだ。
新しくお家を購入したと聞いてます!
彼がそう答えたことを思い出す。
そのときは彼の言葉を信じていたが、もしそれが嘘だとしたら…。
近隣トラブルのある物件を平気で紹介しているとしたら…。
若いということで気に留めていなかったT・I氏の行動だったが、改めて不信感が湧き出していた…。
そしてここから、T・I氏の様子が変貌していくことになる…。
つづく…。