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〇〇住宅のT・I氏~第四話
〇〇住宅へ着くと、他のお客さんを接客しているT・I氏が目に入った。
軽くお辞儀をし、アイコンタクトで繋がっているかのような視線を送っている。
受付の女性にカギを渡し、少しでいいのでT・I氏を呼んでいただけるようにお願いした。
すぐにT・I氏が現れる。
わざわざありがとうございます!どうかされました?
T・Iさん、ちょっと問題が起きてね。
僕がそう言うと、T・I氏の表情が変わったのが確認できた。
T・Iさんが帰ったあとに大家さんのおばあちゃんが来られてさ、芝生のところに車を停めないように言われちゃったんだよ。
たぶん駐車場の話があちらでまとまってないと思うよ。
するとT・I氏はこう答えた。
あのおばあちゃんですか。少しおかしいみたいなんですよね。
そう言いながら右手の人指し指を、自分の頭部へと持っていくジェスチャーをした。
僕は続けた。
そうなんだね。いずれにせよ、この段階で直接言われてしまった以上、あそこには駐車できないじゃない?サロンの営業にも支障があるしね。
この物件はキャンセルさせてもらうよ。
一応大家さんにも事情を伝えてみてよ。
彼は顔をしかめている。そして思い出したように反応した。
わかりました!では大家さんに状況を確認してみます!
僕らはお礼を言って〇〇住宅をあとにした。
ホントに良かったわよね。リフォームなどの費用がかかる前にわかって。
そうだな。ラッキーだったな。
でも気になるんだよな、彼。
T・Iさん?
妻の質問に僕は答えた。
そう、T・I君ね。
前に話したときに大家さんの息子さんが担当だと聞いてはいた。しかし電話でしか話したことがないと言っていたんだよ。
でもさっきおばあちゃんのこと知ってたじゃん?
息子さんと電話で、おばあちゃんの話しなんかしないと思うんだよ。不動産屋と物件オーナーの関係でさ。
確かにそうよね。頭がおかしいって言ってたものね?
あぁ。
もしかしたらあの物件、隣人トラブルがあったのかもしれないな。以前から…。
うそ~?それを言わずに紹介してきたってこと?許せなーい。
そしたら尚更ラッキーだったわよね。
今となっては真実はわからないけど、俺たちは運が良かったな。
僕ら夫婦は運が良かったのだ。
リフォーム費用も数十万円はかかる。
完全に引っ越しを終えてからでは損害が大きすぎるのだ。
しかし未然に回避することができた。
いや、回避できたと思っていた…。このときまでは。
つづく…