(f)or so long ... 第2話
はじめに
この話は tel(l) if… の卓実視点の話です。時系列はvol.17以降です。
本編はこちらからどうぞ。
登場人物
千葉 咲恵
主人公。進学コースの女子生徒。伊勢のことが好き。「tel(l) if…」の主人公。
伊勢
特進コースの社会科教師。毎週火曜日、咲恵の勉強を見ている。
麹谷 卓実
特進コースの男子生徒。本作の主人公。
本文
伊勢先生と別れたあと、帰りの電車で、メッセージを送った。居ても立ってもいられなかった。
先生と大したことは話していないけれど、彼女は気になって、きっと何か返すはずだ。
家に帰っても、返信はない。
もしかしたら、文章だから不穏に思われたのかもしれない。勢いで電話をかけてみる。
出ない。折り返しも無かった。
そうこうするうちに、夏期講習期間が終わってしまった。
こんなに会えないことってあるのか。
たとえ好き同士でも、気持ちがすれ違ったりするものなのか。
もしかして、咲恵は俺のことを好きじゃない?
結果は予想できていたけれど、誘わずにはいられなかった。
「図書館」だよ? 絶対、好きだよね。
小樽の時みたいに、私服で来てほしい。
いいかげん、会いたい。声が聞きたい。
こんなことになるなら、もっと写真を撮っておくべきだった。
やっぱり返信はない。
もう、いいや。
咲恵が何か思っているにしろ、何か事情があるにしろ、いま俺にできることは無い。
別に彼女にこだわらなくても、俺には男女問わず友達がいる。
本当は今だって保留にしていた誘いがいくつもある。
念の為、女の子のいる誘いは断っておこう。
もしかしたら、咲恵が急に連絡してくるかもしれない。
学校祭の時、有志バンドとしてライブをした。
後夜祭でトリを務めたあと、ベースが狙っていた子が、俺に告白をしてきた。
もちろん、断った。
ベースはその子と思い出を作るために、ゲストボーカルとして入れたいと言い出し、仕方なく一曲だけ、昼間に歌わせることにした。
後夜祭で演奏する、学校祭のテーマ曲の練習もあったから、本当は嫌だった。
バンド経験がない子で、なおかつ、俺たちと慣れていない人と合わせるのはかなり大変だった。
あまりにも仕上がりがひどかったから、俺からいろいろと教えたのだが、それが元で勘違いされてしまったらしい。
ベースでさえ、彼女が女子だからと遠慮して何も言わないから、俺が憎まれ役を買って出ただけなのに。
それ以来、少し気まずくなっていたけれど、俺から声をかけて、メンバーと集まった。
もちろん、男子しかいない。
サポートのキーボードも呼んだ。
楽器を触っていることが、何よりのストレス発散になった。
一応、受験生だけれど、息抜きも必要だろう。
名前は出さなかったけれど、咲恵の話もした。
好きな子がいるけれど、俺のことはどうやら好きではなく、無視されるようになってしまった。
理由が全くわからない、と。
「思い当たる節ないの?」
「普通、一個くらいあるよね」
「モテるから、案外、初歩的な所が抜けてるのかもな」
メンバーからのコメントを受け、少し考えてみるけれど、さっぱりだ。
「俺じゃなくて、その子が変わってるんだよ」
そのあと、女子の存在を気にせずに遊んだ。
勉強も妙に捗った。咲恵に会える期待がなくなった分、煩悩は消えていた。
でも、咲恵には俺しかいない。
文芸部に何人かはいるようだけれど、クラスではたいてい、ひとりだ。
遅かれ早かれ気づくだろう。
俺は優しいから、その時は何も無かったみたいに接してあげよう。
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