飲食物から04:乳酸菌飲料

任意の飲食物から四方山話をするという趣旨の記事です。今日は、乳酸菌飲料です。

乳製品乳酸菌飲料は「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」(昭和二十六年厚生省令第五十二号)の「別表」内の(三)「乳製品の成分規格並びに製造及び保存の方法の基準」で、次のように定められているらしい。

(26) 乳酸菌飲料(無脂乳固形分三・〇%以上のもの)
1 成分規格
乳酸菌数又は酵母数(一ml当たり) 一〇、〇〇〇、〇〇〇以上
ただし、発酵させた後において、摂氏七十五度以上で十五分間加熱するか、又はこれと同等以上の殺菌効果を有する方法で加熱殺菌したものは、この限りでない。
大腸菌群 陰性
2 製造の方法の基準
a 乳酸菌飲料の原液の製造に使用する原水は、食品製造用水であること。
b 乳酸菌飲料の原液の製造に使用する原料(乳酸菌及び酵母を除く。)は、保持式により摂氏六三度で三〇分間加熱殺菌するか、又はこれと同等以上の殺菌効果を有する方法で殺菌すること。
c 乳酸菌飲料の原液を薄めるのに使用する水等は、使用直前に五分間以上煮沸するか、又はこれと同等以上の効力を有する殺菌操作を施すこと。
(e-Govポータル https://www.e-gov.go.jp 2021年1月18日閲覧, 太字は引用者.)

また乳製品乳酸菌飲料に関しては国際食品規格委員会(略称はCAC、またはコーデックス委員会。ラテン語Codex Alimentariusに由来)で規格化されるようにとの働きかけが近年まで続けられていたようだ(2010年開催の第33回コーデックス委員会(CAC)総会で「CODEX STN 243-2003」修正案が採択されるまで、地域によっては「乳製品乳酸菌飲料」の法的根拠が確立されておらず、乳製品として扱われない場合もあったらしい。そのことは国内外での食品表示や課税に関わる問題として関係者に認識されてきたようだ。 一般社団法人全国発酵乳乳酸菌飲料協会・発酵乳乳酸菌飲料公正取引協議会のHPに掲載されている、久間嘉晴「乳製品乳酸菌飲料のコーデックス規格化の現状」と久保田康史「第33回コーデックス委員会総会報告」などを参照)。

また「乳酸菌飲料」という表現自体は省令の出される1951(昭和26)年以前の文献にもしばしば確認でき、例えば美濃部達吉は1939(昭和14)年の『国家学会雑誌』(第53巻)8月号に「商品の類似性:商標法に所謂清涼飲料類と乳酸菌飲料」と題する文章を載せていたらしい。

私はこうして記事を書こうとしなければ、ふだん嗜好品として飲用しているそれらが何である(べきだと規定されている)のか、知らないままであっただろう(調べようと思えば、おそらく5分もかからずe-Govポータルの当該の記述へとたどり着けていたはずだったのに)。知へとアクセスする手引きが充実しても、知にアクセスする欲望が同時に供給されるとは限らない。それだけでなく、知を活かして(あるいは知を重んじる限りで)言語をやり取りするとも限らない(もちろん、乳酸菌飲料が何を指しているかが定められている省令の内容は、知の有無で人間を選別する以上のことに使えるはずだし乳酸菌飲料を商品として生産し流通させる事業に関わる人々は現に日々それ以上のことに使っているはずだし、私のような消費者、あるいはただこの語を知るだけの人であっても、知識量を競う以外のことに先の知を使うことが可能なはずだ。ただ、それが何か私はまだわからずにここで試している)。

私が乳酸菌飲料をどう入手し、どう味わい、それで何を考えさせられたり、知りたくなったりするのか書こうとしていた気がするのだが、そうした過程を準備する、言葉の定められ方や、流通の定められ方に関する知に触れたら時間がなくなってしまった。闇のブックガイド(『文藝』2021年春季号)に寄せた書評「大腸菌と受精卵」関連の話をしたかった。いずれ書きたい。

[了]


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