いま脳内に残っている日本のラップ音楽MV30
いま、自分の脳内に残っている、日本のラップ音楽MVを30とりあげ、それぞれにコメントをつけました。
とりあげた30曲の再生リストです。
MVへの各コメントは長短ありますが、ご寛恕ください。
1.Ryugo Ishida - TATTOO ON MY FACE 2021
ゆるふわギャングから名前を知った。音楽番組「Black File」でのドキュメンタリ映像が忘れがたい。声も映像も、いかつい。が、内省的な気分になる。
2.入江陽 - Summer Food (feat. なかむらみなみ) 2019
最後に入るなかむらみなみのラップを聞くたび、RYUZO - HATE MY LIFE 2012も思い出す。ここで提示されている夏との距離感を心地よく感じる。
3.BAD HOP - これ以外 feat. YZERR & Tiji Jojo 2017
いかついし、いろいろ殺伐もあるはずなのだけれど、思い出される街並みと日々は、どこかとぼけたような和やかさを帯びて輝くのだなと心にしみた。
4.CQ CREW - Drunken Forest / Moon 2018
若さが薄れていくなか、手ごたえもわからず、ぐったりした空気の中でなお消えない衝動を思い起こさせるDrunken Forest。労働し生活する日々に押し流されていくとしても生じてくる燻りに夜、思い馳せるMoon。
5.NENE - 地獄絵図 feat. NIPPS 2020
ゆるふわギャングで名前を知る。ギャルという語はネット上だと紋切型化してしまい、何かがスポイルされてしまった気がするが、このMVを視聴していると、そのスポイルされる以前の何かを感じ取れるような気がしてくる。
6.lil鉄火巻 - DANCING TONIGHT feat.Itaq 2022
いかつい感じはなく、ふわふわヘラヘラしているし、卑俗でふざけている。歌詞も身振りも、許容できなくはないが、ひどいと感じる(ほかのlil鉄火巻の曲に関して言えば、個人的には受けつけがたいものが多い)。でも、客演のItaqの真剣と滑稽とに分裂した雰囲気も含めて、この感じのものを、唾棄したら話が済むのかというと、違うのでは。との気がかりが、ずっとある。
7.PizzaLove - Good Morning Invader(Dir. lil鉄火巻き) 2022
個人的には一番おだやかな顔で見れたlil鉄火巻き出演MV。PizzaLoveに関しては、「リボで買う」と「アイマユウタ」をひとに教えてもらってから何曲も視聴してきた。「押し込め」「寿司買う」「IIKANJI」などなど。ある種、大衆消費社会が享受されており、それに魅入る。先日、7 – SEVEN ELEVEN (Freestyle) 2022をひとに教えてもらったのだが、個人的にはPizzaLoveとかNENEとのの近しさを覚える曲だった。
8.Lil'Yukichi - Kyahaha 2022
Cherry Brown名義の「でぢたる☆でぃすこ feat. ななひら」2013などで名前を知った気がする(映像がどぎついと感じる)。ただ、いわゆるオタクとストリートのあいだの距離感って、Lil'Yukichiみたいな感じの場合もあるよな、と覚えておきたいと思っている。kzm - Wolves feat. 5lack (Prod. Chaki Zulu) 2018とかの雰囲気も、自分にとっては、これと近しいものとしてあるかも。
9.Kay-on as Kwi 4 Kang - WADA AKIKO 2022
これもひとに教えてもらったMV。和田アキ子の曲だと、「あの鐘を鳴らすのはあなた」1972と「YONA YONA DANCE」2021の一節がそれぞれ耳に残っている。CHEHON -の「韻波句徒」2008も同じひとに教えてもらった。ありがたかった。歴史というか系譜を歌わんとする志を感じ、敬服する。
10.Red Eye × OVER KILL (FUJI TRILL & KNUX ) - POCKET Remix Feat. Jin Dogg & D.O 2021
冒頭のJin Doggの笑みがとても怖く、よい。D.Oも「悪党の詩」2012の最後の部分の凄みに近いムードを滲ませていると思う。ANARCHYが客演している方の「POCKET 2.0」2021もこちらとは別の怖さ(凄み)があってよい。Red EyeのMVだと、「Dangerous Original feat.D.O」2021も脳裡から離れない。「Dangerous Original」を視聴した後、連想が働いて、syudou「取扱注意」2021のMVを観なおしたりしていた。syudouはAdo「うっせぇわ」2020の作詞作曲をしたボカロPで、自分の声でも歌唱している。
11.泉まくら - エンドロール Pro.by maeshima soshi 2019
これを視聴しているときの自分のテンションは、たぶん宇多田ヒカルの「初恋」2018や「BADモード」2022を視聴しているときとわりあい近い。泉まくらだと、今年に、というか先月リリースされた「夢」2023もよかった。年月が経っても、というかむしろ年月をかけながら、淡く脆い何かをつかみ続けていることの粘り強さに襟が正される。
12.OKBOY & Dogwoods - Pyramid Track by Yung hiropon 2020
OKBOY & Dogwoodsのことは、ネットで「ZIZIOMAGANJA」2019のMVに遭遇して知った。OKBOY & DogwoodsのMVだと、トラックと歌詞的には、今のところ、これが一番、自分の好みに合う。裏返った声が、しかし強か。
13.Maddy Soma - OKE 2022
トラックのブルガリアン・ヴォイスと、Maddy Somaの冷たい炎のような低い声が耳に差し込まれる思いがする。「AMATERASU」2020もちょくちょく聞いてしまう。ただ、これは神道版のゴスペル・ラップに相当するのだろうか、といった疑問が脳裡を過る瞬間もしばしばある。
14.Neon Nonthana&Liza - bat life 2021
イントロの前のNeon Nonthana&Lizaによる笑い声が個人的にツボだった。「Good Morning Invader」2022のMVの冒頭で台所に立つPizzaLoveが皿洗いをしつつlil鉄火巻きに話しかける場面があるけれど、それに似た印象を覚えた。Neon NonthanとLizaそれぞれのバースもフックもカッコいい曲だった。
15.中王区 言の葉党 - Femme Fatale 2021
「そこ退けそこ退け乙女が通る」というフレーズが記憶に残っていた。だが聴きなおしたら、東方天乙統女のリリックは「そこ退け男ども」だった。乙統女の声を担当する小林ゆうの曲を自分は以前から聴いていた。それが自分がこのMVに没入するためのとば口となった気がする。と思っていたが、このFemme Fatale作詞を担当したのはReolだったので、Reolの「ギミアブレスタッナウ」2016のMVを視聴していた経験も加味されていたかもしれない。
16.navygomen - Electric浜崎 (dir.ippaida storage) 2021
このMVの映像は、ひとによっては見続けるのがきついかもしれない。個人的には、こういう映像も好みなのだが。浜崎あゆみの「SEASONS」2000や「Voyage」2002を聴いていた頃のことが思い起こされる。具体的なエピソードは抜け落ちてしまったが、気分とか雰囲気、空気感の記憶。リフレインされる「カットアップされた[……]」のフレーズが、MVを視聴し終わった後も脳内で響いている感じがする。
17.U-zhaan×環ROY×鎮座DOPENESS / 七曜日(Nana-Youbi) 2017
ビデオゲームのドット絵風になっているからこそ、じんわりと感じられる生活の重みがある。U-zhaanのタブラで、すぐASA-CHANG&巡礼「花」2000や「影の無いヒト」2009も聴きなおしたくなってしまうのだが、ミーハーすぎるかもしれない。U-zhaan×環ROY×鎮座DOPENESS「BUNKA」2019のMVもとても肌に馴染む。歌というものが何か様々なものを教え伝えるのだと、あらためて気づかされる。
18.MAKKENZ - 火葬 2016
このMVの映像も、ひとによっては見続けるのがきついかもしれない。84yen「はいいろさんは昼がこわい」2010とかが大丈夫なら、これも大丈夫なのではないか、と思う。MVの映像担当は球根栽培だが、Itaqの「INITIAL I」2021のMVもそういえば球根栽培だったと思い出した。ぐちゃぐちゃの畳みかけで連想されるのは、 チャップマン兄弟の絵画『Disasters oj War IV』2001。
19.daoko - Fog "映画「渇き。」ver. new mix" 2014
ノイズと電子音。かぼそい、かすれた、だけど透き通る声。すごくヒリヒリしたものに直面した。このMVを視聴していると自分はそんな状態になる。
20.小林勝行-from隔離室 2018
いつだったか、ネットで光永惇監督の映画『寛解の連続』2019の告知に出会い、それで名前をしった。映画の題名と同じ「寛解の連続」という曲も『かっつん』2018に所収されている。DJ HAMAYA「蓮の華2020(feat.小林勝行) 」2020なども視聴。圧倒されるところがあった。身を張った歌だった。
21.NIPPS & I-DeA - Rich Man, Poor Man 2018
こんな風に年を重ね生き様を見せるラッパーの声と姿を銘記しておきたい。
22.餓鬼レンジャー - 超越 feat. TWIGY & 呂布カルマ 2017
ディスプレイの使いかたが印象に残っており、またスマートフォンにイヤホンを差し込み、踊りながら街を往き、最後に屋上でタコ神様の膝の上に座って揺れたりする学生の姿が印象に残っている。
23.DJ OZMA - アゲ♂アゲ♂EVERY☆騎士 2006
ボニーM「Daddy Cool」1976を原曲とするDJ DOC「Run to you」2004をカバーした曲。2006年の第57回NHK紅白歌合戦をTVでリアタイ視聴していたので、思い出深い。変装に次ぐ変装、アダプテーションに次ぐアダプテーション、という感触があり、それはある種のオタク作品のメタメタかつネタネタでドタバタな感触と近しいものなのではないかと思ったりする。思いつくままに、記憶にあるTVアニメを列挙してみる。『はれときどきぶた』1997-1998、『キョロちゃん』1999-2001、『ジャングルはいつもハレのちグゥ』2001、『ギャラクシーエンジェル』2001-2004、『わがまま☆フェアリーミルモでポン!』2002-2005、『アニマル横町』2005-2006、『おねがいマイメロディ』2005-2006、『さよなら絶望先生』2007、『俗・さよなら絶望先生』2008、『化物語』2009、『真・恋姫†無双〜乙女大乱〜』2010、『探偵オペラ ミルキィホームズ』2010、『日常』2011、『貧乏神が!』2012、『キューティクル探偵因幡』2013、『繰繰れ! コックリさん』2014、などなど。それに加えて『こち亀』1996-2004、『ボボボーボ・ボーボボ』2003-2005、『銀魂』2006-2010。全話通して視聴していなかったものも多い。が、印象深い場面や、主題歌の流れる際のムービなどが、切れ切れに浮かんでくる。
24.RIP SLYME - 熱帯夜 2007
この頃、TVドラマ『花ざかりの君たちへ〜イケメン♂パラダイス〜』2007でORANGE RANGE「イケナイ太陽」2007が流れており、それと同じ頃にどこかで聴いた気がするのだが、詳細を思い出せなかった。こんなMVだったんだな、と今更に知った。
25.桑田佳祐 – ヨシ子さん 2017
TVドラマ『透明人間』1996の主題歌としてサザンオールスターズの「愛の言霊 〜Spiritual Message〜」1996が流れていて、たしかそれが初めて耳にした桑田佳祐の歌だった。ヨシ子さんの歌い出しは「R&Bって何だよ、兄ちゃん(Dear Friend)? HIPHOPっての教(おせ)えてよ もう一度(Refrain)」だが、もし「愛の言霊」がラップ音楽なら、これもラップ音楽だと言っていいと思う。
26.ももいろクローバーZ - ピンキージョーンズ 2010
ももクロ初の本格ヒップホップと銘打たれていたのは「5 The POWER」2013だったようなので、もうラップ音楽という括りを外れて単に自分が思いついたMVをいれただけかとも自問したが、「あっちへこっちへ旅して足ぱんぱーん/ビックな元気を補給だお口あーん」という箇所が記憶に残っていた。
27.syudou - 取扱注意 2021
たしか最初に「ジャックポットサッドガール(ft. 初音ミク)」2020.10のMVに遭遇して、そのあとしばらくしてからAdo「うっせぇわ」2020.10を視聴したのだった、と思う。さらに「うっせぇわ/syudou(selfcover)」2021.01を耳にして、何か尖りを感じた。そこから、「爆笑」2021.05、「ギャンブル」2021.07、そして「取扱注意」2021.10とsyudouが自分で声を出して歌うMVを視聴していって、変な言い方かもしれないが、ボカロPがラッパーになっていくところを目撃したという感慨を覚えるようになった。最後に、syudouがヒップホップについて語っているインタビューを、ふたつ貼る。
28.YOASOBI - アイドル 2023
この曲、というかMVについて、自分は何度も繰り返し再生し、首を振り、また体を揺らしながら曲を聴いていた。また、ブログ記事で取り扱った。
この曲について、ラップパートのラップとしてのよしあしや、それを含む曲全体をどう評価するのか、というので、話が盛り上がったらしい。個人的には、以下の記事が腑に落ちた。いくつかの箇所を引用してみる。
メロディに合わせるタイプのHipHopは平成後期から令和にかけてのEmo Rapとして流行していました。代表例としてはやはりLil peepでしょう。彼は一世を風靡したのち、死去してしまって嵐のように去っていきました。また彼に並んでXXXtentacionもEmo Rapの代表例と言えるでしょう。日本でもEmo Rapは流行していて、その代表例と言えるのがSleet Mage(よわい)氏、Gokou kuyt氏、sic(boy)氏であると認識しています。いずれにせよ、彼らのEmo Rapはメロディベースであり、ビートのみに重きを置いたものではありません。ですから、メロディに合わせてラップしているから一概に良くないと評価することはできません。[……]そもそもラップは「ノれればノれるほどいい音楽」とも限りません。たしかにHipHopの語源からしてノリが重要であることは確かですが、それに留まらない価値観や思想の表現こそHipHopの本質だと私は考えているし、第一『アイドル/YOASOBI』はあくまでもJ-popですから、そういったHipHopならではの価値観を持ち込む必要はないわけです。
また、J-pop(アニソン含む)のラップはその作品内でその作品をより良くするために使われているのであって、ラップが主体であるとは限りません。例えばいま述べている『アイドル/YOASOBI』に関しても、B子町メンバーの心境の発露としてラップ技法が持ち出されてきたわけです。実際、こういった憎悪・嫉妬・愛といった複雑な感情を表現するのにラップは向いています。それは、『27才のリアル/狐火』『Pellicile/不可思議wonderboy』などに代表されるpoetry Readingと呼ばれるジャンルのラップを聴けば納得するかもしれません。また、例えば『ふわふわ時間/放課後ティータイム』のラップパートはある種の外しとして効いてきて年頃の女の子の心境をうまく表現しています。他のアニソンの例だと、『恋愛サーキュレーション/千石 撫子』においてはサビ以外のパートが所謂「なんちゃってラップ」で構成されていますが、非常に評価の高い曲であったことを思い出すべきでしょう。『〈化物語〉』のアニメソングという文脈抜きでも支持を得ていたのは、そのラップがその楽曲内では最適に機能していたからに他なりません。
また、和田信一郎による次のような連投ツイートも、参考になると思った。
https://twitter.com/meshupecialshi1/status/1668440308345090048
ただ、自分は、ごく自然に『アイドル』のノリで揺れていた気がする。
試みに、自分がどうノリながら聴いていたか、書き起こしてみる。
・・/はい/はい/あの/こは/とく/べつ/ですッ
・・/われ/われ/はは/なか/らお/まけ/です
おほ/しさ/まの/ひき/たて/やく/びい/ですッ
・・/すべ/てが/あの/この/おか/げなッ/わけッ
自分がこの曲を聴いていると、概ね太字のところに来るたびに首を振り降ろす感じになる。ここだと冒頭と聴くのとほぼ同じ体の揺らし方でノれる。
・・/むて/きの/えが/おでぁらす/めでぃ/あぁッ
・・/しり/たぃそ/のひ/みつ/みす/てり/あす
ぬけ/てる/とこ/さえ/かの/じょの/えり/あぁッ
・・/かん/ぺき/でう/そつ/きな/きみ/わぁ
このあとが、自分でもごちゃっとする気はするのだが、書き起こしてみると概ねこんな感じになる、と思う。
なーい/しゃらく/さーい/ねたみ/しっと/なんて
なーい/わけが/なーい/これは/ねたじゃ/ないか
らこそ/ゆるせ/な-い
か-ん/ぺきじゃ/な-い
きみじゃ/ゆるせ/ないじ/ぶんを/ゆるせ/な-い
だれよ/りもつ/よいき/み-い/がいは/みとめ
ないッ!
ただ、聴きなおしたら、最後の畳みかけるようなフレーズでは「だれよりもつよいきみッいがいはみとめないッ」みたいな感じでずっと痙攣的に身体がなっていた。自分の体験を理屈で喋れるようになりたい、と改めて思った。
29.Awich, 唾奇, OZworld, CHICO CARLITO - RASEN in OKINAWA 2023
私が琉球(沖縄)の音楽の気風に触れたのは、the boom「島唄」1992からだったと思う。記憶では、初めて聴いたthe boomは「風になりたい」1994だったから、90年代半ば以降に聴いたのだと思うが、正確な日時は思い出せない。いちど、伊江島の城山(タッチュー)に登ったとき、黒田操子を顕彰する記念碑を見たことがある。それの意味について知ったのはそれから何年も経ってからで、どういうことだったのかは、まだ考え続けている。
30.RYUZO - HATE MY LIFE 2012
周りのひとが、日本語ラップを聴きはじめた頃、YouTubeを漁っていて、出遭ったMVのひとつだった。今でも、思い出すと、視聴している。
[了]