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前回
うつくし人生うつくうつくつく人いうつく人人生せいう人くしいつくしい生
ASA-CHANG&巡礼『背中』2004（Vo. 小泉今日子）
せなか。掛け時計の文字盤を読めなかった頃の感覚に、時々思いを馳せる。自分はまだ知らないが、ルールと意味がそこにあるという予感だけは抱いていた頃のこと。鈴木完吾のつくるからくり時計や花を見るとき、私はそれを少しだけ思い出しているのかもしれない。ＭＶのでの康本雅子の踊りを、私は複雑なからくり仕掛けを眺めるように眺める。自由な、機械になること。
にせんねんもんだい『B-1 (You Ishihara Mix)』2013
2000年問題。構造が変形する。循環小数だと思った無理数だった。無理数だと思ったら循環小数だった。たとえば、そんな気づきが起こる除算のようにして構造が変形する。あるいは疲れて書き間違い、計算し損ない、全てがご破算になったり、思いかけない出力に至る。たとえば、そんな事態が起こる計算のようにして構造が変形する。この”計算”などの一連の比喩的使用は、戒められるべきかもしれない。だが規則に従いながら狂う、というより規則通りに狂っていることもあり、狂いが規則の一つですらあるかもしれない。
Arca『Nonbinary』2020
ノンバイナリー。自由を解放より力の増大として捉えたい。あるいは抑圧の消去として。相反する力が、高みや低みをつくりだしはすれど、相殺されはしないように。諸力がうまくものになり、かたちをなすこととしての自由。
Miila and the Geeks『Cigarette & Water』2011
葉巻、水。すべての即興的実践は構造を持っている。どの構造が前景化するかは変わるとしても。たとえばキーボードをでたらめに叩くとキーの配置という構造が前景化してくる。方法化し、学習して、再現できることだろう。キーの配列と身体の配置などから導き出されるのに近似した確率で、任意の記号を出力していく装置すら想像できる。ひとつの方法を嫌忌して抑圧するより、複数の方法を同時に作動させること。担いきれる範疇での、多様化。
オシリペンペンズ『カリスマ太郎』2015
かりすま。頭が胴の上にあるのが自然の理だとは思わないようにすること。コンタクト・インプロビゼーションをしてみる。ひとりではムーブメントにならないだろうか。ひとりで感覚するモノになるのではなく、ひとりですらなくなり、複数のモノになり、モノたちとしてモノたちとセッションする。
MARETU『マジカルドクター』2019(Vo.初音ミク)
先生。「人生七転八倒とは言うけど／人を殺して食べる飯は糧になるのか／全てをモラルと、常識と言い張る姿はまるで／跳梁跋扈の魑魅魍魎／俺は一人では生きられないもので／気付いた時には一人だった!!!!一人きりだった!!!!／それでも飯を食べたくなるのは／俺に欲望しかないからだ!!!!!／だから素直になるのが一番で／愛おしい人は放っておいて／邪魔な人を殺しに行こう!!!!!!!／それが、ビューティフル・ライフ!!!!／それが、ビューティフル・ライフ!!!!／それが、ビューティフル・ライフ!!!!／それが、ビューティフル・ライフ!!!!」（ＳＳ「京太郎「ビューティフル・ライフ」」）。――どうすればこんな風に口にしてしまわずに済むか。「邪魔」なものでなく「愛おしい」ものに思いを馳せ続けること。抑圧や逃避ではなく。よろこび、そして愛。では、いかにして、抑圧や運命、恐懼や畏怖、狂いや壊れさえ欲するのか？
Brooke Candy『Nymph』2019
ニンフ。子どもは創造的だ、とは思わないようにして見る。大人が欲望するような創造性を、”大人になれないもの”や”大人と呼ばれえないもの”に期待するのは、何か悍ましさのある所業だ（だから悪いのだ、とは言わないし、言えない気もするけれど）。うまい模倣をしたかっただけのなのに”独創的な”蛮行になってしまったといった事態も起こるのだとすれば。おおくの蛮行が”独創的な”ものでないとされたり、問題外で論外の紋切型として処理されたりするのは、なぜで、どのようにしてか。模倣者の望まぬ独創性を言祝ぎうるのに必要な条件は何か。――”勘違い”ジャンルのキャラクターが範例？
How To Dress Well『Vacant Boat』2019
ボート、空。どんなに分裂しようとしても身体が分割されない。ということは、必ずひとつの統一性はあって、いくらでも変形できる。かもしれない。
イヤホンズ『記憶』2020
メモリー。情景の絵合わせ。神経衰弱。類似するのでなく、不精確な同じさを分かち持つ、沢山の絵札。「その時私は、未知の錯覚した町の中で、或る商店の看板を眺めていた。その全く同じ看板の絵を、かつて何所かで見たことがあると思った。そして記憶が回復された一瞬時に、すべての方角が逆転した。すぐ今まで、左側にあった往来が右側になり、北に向って歩いた自分が、南に向って歩いていることを発見した。その瞬間、磁石の針がくるりと廻って、東西南北の空間地位が、すっかり逆に変ってしまった。同時に、すべての宇宙が変化し、現象する町の情趣が、全く別の物になってしまった。つまり前に見た不思議の町は、磁石を反対に裏返した、宇宙の逆空間に実在したのであった。」（萩原朔太郎「猫町 散文詩風な小説」1935）万物照応。
Kikuo『昨日はすべて返される』2019(Vo.初音ミク)
変わる。"Look, a new day has begun." 記憶と忘却を善用する。記録と共に。
[了]