【短編】ご注文はひとつまで
「ご注文はひとつまで」
ローズ ピンク、ライト ブルー、レモン オレンジ、スカイ グリーン、ベリー パープル…
色取り取りのグラスが並ぶ
ここは最近出来たクリームソーダ専門店
同じ色はひとつもないらしい
どのグラスも美しくてうっとりしてしまう
「おひとり様一回のご注文につきおひとつまで」
どうやらクリームソーダはひとつしか頼めないらしい。
僕は透き通る上品なローズ ピンクに心を奪われ、ひとつ注文した。
微炭酸のローズ ピンク
柔らかい桜の香りが鼻から抜けていく
真っ白なソフトクリームがソーダに溶け入り、透き通っていたピンクは次第に色を変えていく
スプーンでかき混ぜる度に踊るチェリーがなんとも愛らしかった
グラスの3分の2を飲み終えたところで、隣の男性が頼んだであろうレモン オレンジが目に入った。
気になる…
男性が席を立った。
お手洗いだろうか。
10分経っても戻らない。
今にも弾けそうなグラス
どろどろと溶け出すソフトクリーム
グラスの淵に腰掛けるチェリーがこっちを見つめている
気になる…
ローズ ピンクには無い魅力が詰まっているのだろう
ただし注文はひとつまで…いや、まてよ?
「おひとり様一回のご注文につきおひとつまで」
隣のレモン オレンジは僕の注文ではない
少しだけならいいだろう
少しだけなら…
僕は気付くと席を立ち上がり隣のレモン オレンジに手を伸ばしていた。
溶けたままにしておくほうが勿体無い
バレないように、バレなければ大丈夫
少しだけなら…
口の中いっぱいに広がるフレッシュな酸味と追いかけるようにやってくる強めの炭酸。背徳感と混ざり合いやけに美味しく感じた。
鼻には微かに残る桜の香り
幸せは儚くも一瞬
口の中には、、決して混ざり合う事のないピンクとイエロー
20年経った今でもあの時の嫌な後味が僕の中に残っている。
頂いたお題:「炭酸」
お題を頂いてインスタントフィクションを書きました。今後も継続していこうと思いますので感想や考察、お題などコメント頂けたら嬉しいです。
お題も募集しておりますのでコメント欄にてお待ちしております。
インスタントフィクションとは
「自由な発想」と「気軽なノリ」で書かれた文章。自分の思う「面白い」を入れて400字以内で表現。