思い出し怒りのUFO
認めたくないことなのだけれど、どうにもこうにも過去の辛かった出来事を思い出してしまって怒りの感情が収まらなくなることがある。それが起こるのは大抵一日の仕事を終えて帰宅する途中だ。仕事を終えたという気の緩みと一人の家に帰らねばならないという寂しさのせいなのかもしれない。
元夫の暴力と暴言。結婚前には隠されていた彼のアルコール依存症。かばってくれなかった義両親。
この場所に居ながらにして感情だけは一瞬でその時その場所に戻ってしまう。そしてその時に感じた辛さや悔しさをありありともう一度体験することになる。
これも認めたくないことなのだけれど、そんな時私はとても荒れる。自宅にたどり着くと狭い部屋の中をぐるぐると歩き回る。呪いのように何度も口に出して言う。
「どうして私がこんな目にどうして私がこんな目に」
「普通に幸せになりたいだけなのに普通に幸せになりたいだけなのに」
ボロボロ涙が出る。時には嗚咽するぐらい涙が出る。
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こんな風に思い出し怒りをする自分が嫌いだった。「触っちゃだめ」と言われているかさぶたを自ら何度もいじってしまうせいで、心の傷の治りを遅くしているようだ。過去の感情にいつまでもとらわれてしまう自分が嫌で仕方なかった。
少しでも楽になるために、最近はこう思いこむようにしている。
「思い出し怒りをしてしまうのは、心がUFOにさらわれて時空を超えて過去に飛ばされてしまっているせいだ」
私の思い出し怒りは結局のところある種のフラッシュバックなのだと思う。激しい恐怖や怒りを経験した後に幾度もその場面や感情が蘇ってしまうという現象は自分自身の意志でコントロールできるものではない。それは平穏な日常生活をおくっている時に急にUFOに連れ去られて過去に放り出されるようなものだ。なんせ相手はUFOだから個人の力で回避することはできない。だから、たとえそれが何度も起こってしまっても、自分のせいだと思って恥じたり自分を責めたりする必要はないはずだ。
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原因が自分自身ではなくUFOだと判明した(思い込むことにした)ので、対UFOの戦術をあれこれ考えている。なるべく早く自分の意志でUFOから下船して、過去から現在に帰って来ることが私のミッションだ。
試行錯誤から見えてきた有効な戦術は例えばこんなことだ。
改めて日付や現在地を確認してみること。
(「大丈夫、今ここには私を傷つける人はいない」)
着心地が良くて楽な部屋着に着替えること。
とにかく甘いものを口に入れること。
キッチンに立って野菜を洗ったり刻んだり煮たり茹でたりすること。
お気に入りの動画や音楽を流すこと。
どうやら私にとっての下船の鍵は、「現在を実感するための行動(日付を意識したり今ここにあるリアルな触覚や味覚を実感したりすること)」と「悪い考えを頭から追い出す行動(作業や音楽や動画に集中すること)」の二つにあるようだ。
UFOにさらわれること自体は自分ではどうしようもないけれど、下船の技術とスピードが随分上がってきたのは間違いない。
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このUFOは大分私にご執心のようで、もうしばらくは頻繁にさらわれる羽目になりそうだ。それでも、時間がたって心の傷が回復してくればきっとUFO飛来の頻度はぐっと減るはずだ。
それを信じて今は無事に下船し帰還することだけを考えていこうと思う。なんとか帰還しさえすれば、また平穏な日常生活を取り戻すことができるのだから。