イセコイ冒頭ミュージアム #イセミュ 全感想及び投票先の保存記事

あいさつ


 こんばんは。智子です。

 皆さんいかがお過ごしですか?

 風邪など引かないようにもりもり食べて、もりもり眠っていますか?

 私は最近は自作の更新であったり、溜まったアニメを視聴したり、アプデされたゲームの感触を確かめたり、美味しい唐揚げの作り方を探求したりと忙しい日々でした。

記事について

 表題の通りです。企画作品の智子の感想をまとめています。

 基本的には祭りが動く時にだけ運用する智子のアカウントです。
 世の中が三連休に入り、暇を持て余した智子はSNSを眺めたところ、何かしら面白そうな企画をしていることに気づきました。

『イセコイ冒頭ミュージアム #イセミュです。

「名前を申してはいけない祭り」の流れを組むタイプの「冒頭を競う」といった性質の匿名企画です。詳しいレギュレーションは主催者(長岡更紗)さんの活動報告(募集締め切りました!!【イセコイ冒頭ミュージアム】企画概要)をご覧ください。


感想の残し方について


 今回はタイトル及びあらすじによる感想は残しません。企画を観測するのが遅れたという所もあるのですが、感想記事の作成も突発的なものであり、スマホで読んだり(モバイル版で読むと、タイトルより前にあらすじ(まえがき)が先にくるなど)、パソコンで読んだりと安定しないからです。タイトルも見ずに読み終えたあとにタイトルを確認する等もありました。


「名前を申してはいけない祭り」のそれとはいくらか違う要素もあるので、気をつかいながら感想を残していきます。

 私は忘れっぽいので、覚書のような意味合いも込めてこの項目を書きます。

 それにあたって公開作品の第一部分イセミュ 参加者様、読者様へのお願いです。を確認します。

【参加者様、読者様へのお願い】
・感想は感想欄をご利用ください。ただし、作者からの返信はありません。
※作品や作者を貶めたり、過度の指摘等があった場合は主催者権限で感想を削除します。

 おそらく感想についてのある程度のコントロールを主催者側が意識しているようです。
 現状SNS等でも感想を呟いている方もいるので、完全なコントロールは不可能です。
 しかし、主催者のコントロールが可能な感想欄においては一定のフィルターをかけるという宣言です。

 感想欄外(当記事のnoteやなろうの活動報告による感想等)においての、感想を残す上では主催者の意図を基本的には尊重した上で感想を残していきます。

 しかしながら、智子はあんまり人付き合いが上手なほうではありませんし、人の気持ちを慮るということが上手ではないでしょう。理詰めで話したら相手が泣いて、こっちも泣きたくなるというコミュニケーション弱者です。

 私は基本的に作者公開後の感想についてのやり取りをいつでも受け付けていますが、幸い「智子の感想気に入らないから消してくれ」とまでは言われたことはありません。

 ありませんが、今回の感想記事に関してだけは主催者の長岡更紗さんからの削除要請があれば受け付けます。その判断に準じることとします。

・Xで感想や発信をする際には #イセミュ  のハッシュタグをお使いください。

 一読したら読了ツイートを活用して、タイトルに付随するハッシュタグ付きのまま感想を用意します。

 その感想を元に、記事で引用する形で残します。当記事は、感想を一つ書き上げる度にSNSに放流します。その時もハッシュタグを忘れないようにします。

・物語を読んで何を感じるかは自由ですが、発信の際は、物語の向こう側には作者がいるということを念頭に置いてください。

 1つ目のレギュレーション(主催者による感想のコントロール)に近いものではあろうかと思います。

 基本的に感想を述べていく上での智子なりの配慮という部分はあります。

「その作品がどのような面白さを提供しようとしているのか?」という部分を拾い上げながら、感想として整理しています。それ自体が「冒頭の面白さを競う企画」としての性質を考えた時に、相性が良いのではないかと考えています。

 文章表現については基本的に「気にしない」タイプの読者です。しかし、その部分自体を表現上のギミックとしているであろう作品については触れていきます。

※本家書き出し祭り様のご迷惑にならないよう、Xでイセミュのことを書く際には『書き出し祭り』の言葉を使用しないようよろしくお願いします。

 リスク管理の一つであろうかとは思います。
 留意します。
 当記事においても「名前を申してはいけない祭り」という風に表記を変更して対応します。

・この企画では、作者以外に誤字修正はできないことになっていますので、誤字を見つけても指摘はしないでください。

 留意します。基本的に私は文章表現の巧拙を気にしないタイプであることから、同様に誤字脱字の指摘を気にしないタイプでもありました。

 おそらく主催者様の「小説は芸術作品である」という考えとは相容れないタイプの思想の持ち主です。

 私は小説は「物語を表現するための方法の一つ」でしかないと捉えているからです。故に「物語を表現する上で意味が通る文章であれば気にしない」タイプです。

 翻って「誤字脱字によって、物語性を著しく毀損する場合は指摘することにためらいを持たない」タイプでもありました。

 しかし、今回は主催者様のご趣意を尊重し、該当する事案を見つけたとしてもお口チャックで過ごします。

投票について

 投票についてもイセコイ冒頭ミュージアム投票用割烹に記載のある通りです。

読者様
  →3つの投票方法があります。
①この活動報告に書いて投票
②長岡へメッセージして投票
③X(旧Twitter)にて、#イセミュ投票のハッシュタグを使って投票

どの方法でも構いませんが、一人一回の投票ですので、一度投票したら他の方法では投票しないでください。
初めましての方でもお気軽に投票をよろしくお願いします!

 智子はなろうのアカウント名が「西向く侍」の本アカウントになっているので、集計時の混乱を避けるため『③X(旧Twitter)にて、#イセミュ投票のハッシュタグを使って投票』の方法で投票を予定しています。

 投票に関しての過程等も当記事に残していくつもりです。

感想

01.美貌の宰相様が探し求める女性は元気いっぱいの野太い声の持ち主らしい……それ私かもしれない

 Twitterでも触れていましたが。面白かったです。基本的に「女性向けのラブロマンス」でおさえておくと、安定する要素をキャラクターが発揮できている作品です。

 基本的に「女性向け作品」及び「男性向け作品」で描かれるキャラクターは「マジョリティとしての対象読者の価値観を強化し、賞賛してくれる」タイプのキャラクターと一体感を持つことを期待されています。

 そして、その「一体感」を持つ上で求められる「女性像」というのは現代的な側面から考える要素を埋めるキャラクターが描かれたりします。

 現代の女性は何を求められているのか?

「社会的に活躍し、家族となることを前提とした恋愛結婚等を達成するキャラクター」像です。

 男並みに働き、男以上に有能で、しかし、その能力は「女ゆえに」低く見積もられ、侮られる。といった女性達が置かれた不遇な環境を作品世界に投影することで、一体感を作り出す効果を発揮しています。

 正直な所。私は社会に出ての勤務の経験自体が、福利厚生のしっかりした公僕としてのそれしかないので、女性達の給与面や待遇においての不利益を被っているのを「私の目」では見たことはありません。

 もちろん、産休や育休等による休職期間中の給料の増加等による賃金差はあるものでしたが、家族を持たずに独身のまま部長を勤め上げた私の直属の上司でもある、女性部長の給料の号数は男性部長と変わりありませんでした。

 しかし、私の存じ上げないところではその点が問題になることもあり、多くの方々がそれらを物語上の一体感としての仕掛けとして提案していることは承知しています。

 そして、この作品はそういった「作品上のバックボーン」とする要素を丁寧に描いた冒頭でもありました。

 丁寧に描いていること。これはおそらくですが「ターゲット以外のための描写」としてのそれもあるんじゃないか。とは思っています。

 ある程度深度があるジャンルである時、共有できる情報等は「省く」要素があろうかと思います。女性に対して向けられる「性的な不愉快な眼差し」などについては、説明するまでもなく女性読者達は共有できる観念であろうかと思います。それをわざわざ詳しく説明している。という部分は企画向けに描写を増しているのかも。と思っています。

 Twitterでも触れた部分の「二人の恋路を阻む存在」の不在を触れたのは、文字数に悩まされた結果かもしれません。

 異世界恋愛ですし、基本的には「ハッピーエンド」を期待していますし、それらの要素を冒頭では汲み取っていきます。

 しかし、読者として知りたいのは「二人がどうしてくっつけないのか?」という恋路の障害を知りたかったです。

 本作品の提案する面白みは「ヒーローが相方の助言(野太い声! どっせい! で攻めましょう!)を得つつ、頑張ってヒロインにアプローチをかける。ヒロインはヒロインでヒーローのアプローチを断り続ける。といった「読者は両者の好意を知っている」という「早くくっついちゃいなよ!」というもどかしさとともに楽しむ作品であることは期待できます。

 更には、彼女に向けられる失礼な噂や視線等が、彼女のストレスであったりすることは理解できます。おそらくですが、それらの視線自体が「ヒロインがヒーローの好意を素直に受け取る事ができない理由」につながるのだとは予想しますが。現段階の情報量では「どうしてくっつくことができないのか?」という物語の波乱を「予想する」程度にとどまった冒頭でした。

 感想は以上です。

02.雛鳥は黄昏星の檻の中

 ラブロマンスとストーリーに関する関係性というのは基本的に「恋愛を通してどのように成長するのか」という部分がメインコンテンツとなることがあります。前段に読み終えた『01.美貌の宰相様が探し求める女性は元気いっぱいの野太い声の持ち主らしい……それ私かもしれない』においても「ヒーローからの好意を素直に受け取れない」といった課題を与えていました。

 当作の『02.雛鳥は黄昏星の檻の中』に関しても、キャラクターに明確な課題を期待できる(雛鳥ってそういうことですよね)のですが。彼女自身の「成長を必要とする要素」がまだ汲み取れない情報量でした。

 雛鳥。ヒイナ。ヒロインはまだ未熟な少女であり、成長の要素を強く残していることをイメージできる命名です。

 設定のみで見た時に、この作品の行く先や狙っている情報量としては「シャドウとしての役割を期待できる夕星(ゆうずつ)はメンターとしての役割も持っていることでしょう。彼はヒロインが許嫁と破局することを予言していました。

 それとはまた別にヒロイン自身も疑問に思うほどの「分不相応の従魔」による導きは「破滅か再生か」といった二つの不安定な結末を期待させる情報量でした。

 この「不安定さ。不穏さ」自体を作品世界の魅力の一つとして提案している冒頭だと感じました。

 個人的には「ヒロインの成長要素」と期待される「ヒロインの欠点」等を強調したイベントでの引き込みのほうが読みたかったですが。特殊な世界観であるため、そこの文字数に割かれた向きもあるのではないかと感じました。

 欠点というか。特徴的な要素として考える時。

「婚約破棄の提案」に対して、即答で拒否を叫ぶバイタリティは優しい許嫁である孤月には少々激しすぎる気性はあるのかもしれませんね。

 この作品については、文章表現や単語の選び方についても触れるべき作品であろうかと思うので、触れます。

 繊月と枝垂桜を観客に、首切螽蟖が歌う春の夜。
「雛、どうか僕との婚約を解消してほしい」
「いや! 絶対にいや‼」
 灯籠の仄かな灯りに照らされた池泉回遊式庭園を舞台に演じられていたのは、紫黒の髪に緑の瞳の青年と、濡烏の髪に金の瞳の少女の痴情のもつれ。

 冒頭の冒頭。婚約破棄のシーンを「劇を演じる」と明言しています。初見で読みながら「何かしらの舞台のシーンでも描いているのか」と素直に読んでしまったので、途中まで混乱していました。しかし、この混乱を拾い上げる描写は最後です。

「雛、どうか僕との婚約を解消してほしい」
「いや! 絶対にいや‼」
 雛の悲痛な叫びと共に、ざあっと桜の花びらが舞い踊る。
 そして始まったのは、春の夜の茶番劇。恋に酔う青年と、愛を求める少女と、歪んだ愛を注ぐ化け物の……

 同じシーンを二度書くのは好まれないとは言いますが。おそらく「二度書くために劇と表現し、茶番と繋いだ」のだと思います。

 彼女の欠点とする部分をどこで拾うか。あらすじにも「渇いている」とあるし、愛を求めるとあるので、愛情に飢えていること自体が彼女の課題として整理されているのだろうなぁ。なんてことも思います。だけど、それはあくまでも『情報』としてのそれであるので、シーンとしての描き方ではなかったです。

 情報量の多い冒頭でした。愛情についての不穏さを好む読者であれば、気になって読み続ける作品だと思いました。

 感想は以上です。

03.王太子殿下の婚約者候補に選ばれましたが、私が好きなのは従弟のほうです

 私がこのジャンルに詳しくないというのもあるんですが。

「異世界でバチェラーするんか!」

 といった舞台の整え方に舌を撒きました。

 とても素敵な舞台だと思います。ヒロインがあんまり乗り気じゃないのに、とんとん拍子に進んでしまうというのもあらすじで読みました。

 面白そうです。だけど、この「面白そう」というのは舞台の力であり、物語上の提案している課題や、今後の展開においてのフックとなるであろうヒロインの能力や決断等はまだ見えてこない情報量でした。

 まだ謎が多く、どのような障壁が飛び出すのか。は少々見えてこない。いや、いらっしゃるんですけどね。意地悪な他の参加者の登場だったりといった要素はあるので「完全な敵対者」としての「エンタメ性」に寄せているのかもしれません。Twitterでも触れた「敵対者の設置」によって、物語の色味が変わる。というのはここの部分で、彼女は「孤独」な領域で29人の令嬢たちを相手に「どう戦うのか?」という部分は非常に気になります。それを予測できる情報がないのは、冒頭としてもっと情報が欲しかったです。

 気になるなら読めっちゅうことなんですが。
 舞台の整え方が秀逸で「物語のドラマ」を期待したい作品でした。

 だって、29人もいたら腹に一物もったとんでもない令嬢たちが飛び出してくれるんじゃないか。と思っていて、ニコニコしています。

 最終的に従弟の公爵とくっつくのは既定路線なんですが、意地悪な令嬢達をギャフンと言わせてやってください。多分、29人の令嬢達の内一人が勝ち抜いていくのでしょう。だって、ヒロインが従弟の公爵とくっつくと、お見合い相手困るし。

 となると、あの意地悪令嬢と「和解する」という力をヒロインは発揮し、敵対者である意地悪令嬢をドレスアップ。トレーニングするといったようになるのかなぁ。

 気になる作品でした。

 感想は以上です。

04.永遠(とわ)を生きる聖女の、失われた記憶

 ラブロマンスって究極的には「個人的なこと」でしかないコンテンツにはなります。

 しかし、その「個人的なこと」となるコンテンツ要素と「魔王の登場」等といった。古式ゆかしいRPG(ドラクエ等)的な「共有できる敵対者」としての登場によって、ラブロマンスとハイファンタジー世界における物語軸を交差させた作品です。

 こういったことってできるんですね。読みながら新鮮でした。

 おそらくですが。彼女が「聖女」として求められる責任としてのそれと、恋を全う(失われた記憶の中にヒーローとの思い出があるんでしょ!)するか、といった「大きな決断」が今後の中で期待できる描写はいい効果だと思いました。

 女性向け作品において、コミュニティへの奉仕(聖女として若返り続けること)などをテーマとして、犠牲を強いるタイプのヒロイン像は「ヒロイックな犠牲」としてのそれであるため、珍しいタイプの作品だとは思いました。

 こういった「自己犠牲」に伴うヒーロー像を女性ヒロインが実行するパターンは珍しいのですが。そもそもですが、彼女は「どういう決断のもと薬を飲んだのか」というバックボーンはまだ不明ですよね。どうして彼女は薬を飲んで逃げたのか。どういう物語が彼女と彼にあったのか。

 過去を探求していくタイプのラブロマンスです。そして、その世界を守るために身を投じるのか。「世界なんて知らねえ」というのか。あらすじを見る限り、その決断が求められるのは先の方なんでしょう。

 ちゃんと、今後のログラインが読める作品は読者の獲得に繋がりやすいと思います。

 魅力とする作品の要素を理解した良い情報量でした。

 感想は以上です。


05.婚約者と書いて、ライバルと読む。負けず嫌い令嬢は、親友と呼ばれて複雑です

 一人称の作品としてシーンを描くことが上手な作品でした。彼女の決断に対して、周囲の人達がどよめき、賞賛の声を上げるなど「主人公がどんな環境にいるのか」というのを視点の制限から描くなど安定感がある書きぶりでした。

 書き出しの始まりの一文って非常に重要です。とても良い一文目から開始しました。一文目の話題をするに当たり、事前情報をいくらか展開します。ちょっと長くなるかもしれません。

「名前を申してはいけない祭り」の第14回の協賛として登場したフィルムアート社の『「書き出し」で釣りあげろ 1ページ目から読者の心を掴み、決して逃さない小説の書き方』から考えてみましょう。

 書籍において、書き出しの構成要素として10個あると説明されています。

(1)きっかけとなる出来事
(2)核心の問題
(3)最初の表層の問題
(4)設定
(5)バックストーリー
(6)心を捉える最初の一文
(7)ことばづかい
(8)登場人物
(9)舞台背景
(10)伏線

書籍版「書き出し」で釣りあげろ 1ページ目から読者の心を掴み、決して逃さない小説の書き方 P42から引用

 私が書き出しを意識したり、模索する上で参考とした書籍の一つです。
 各項目について、丹念に説明されたものが書籍です。
 この記事で紹介することは難しいので、控えます。

 要点だけざっくりと。

 10個の項目のうち「最も重要とされる要素」は4つと案内されています。

(1)きっかけとなる出来事
(2)核心の問題
(3)最初の表層の問題
(4)設定

 基本的には智子なりに解釈をくわえながら読んでいるので、実際に読んでみた時に「おい、智子。解釈違うぞ」と出たらまあ、許してください。

(1)きっかけとなる出来事

 物語は常に「安定と変化」を繰り返すのが特徴です。日常の生活(オーディナリーワールド)があり、ひょんなことから特別な世界(スペシャルワールド)への変化を繰り返すのが「物語」です。

 この要素としては「きっかけとなる出来事」は「主人公が変化を起こす。ないし、起こされるきっかけ」です。

 本作はどこに着目するか。でしょうが、この場合は「彼女の内心(勘違いですが)」による変化の時点ではなくて、ヒロインが身を引くことを示唆する態度によって、ヒーローの世界も激変し、ヒロインも新たな環境(婚約を辞退する)に身を投じるシーンです。

 テンプレで言う所の「婚約破棄」です。「婚約破棄」というテンプレセットは、物語の構成から考えた時にそこをおさえることができる優秀な構成です。

(2)核心の問題

 智子が勉強も兼ねて、色んな方の書き出しにコメントを残しています。よく取り上げるのが「核心の問題」です。
 それは主人公自身が「物語を通して最終的に解決する精神的な課題」を指しています。

 彼女の場合は「承認が得られること」を婚約者に求めている節があるようですね。

 両親をはじめ誰も私が剣を習うことを賛成していない。賛成してくれたのはアルベルトだけだった。

 彼女は「自分が心を許したパートナーからの承認」というそれを喜びとして意識しているのか。していないのか。わからないですが、今後出会うであろうもう一人の魅力的なヒーロー(クラーク)の登場によってそれを自覚するなど。婚約者のヒーローにとっての脅威となるほどの振る舞いが可能であるか。気になる要素です。

(3)最初の表層の問題

 核心の問題と対局にある観念です。この項目は「外部的な課題」を指しています。精神的なものではなく、眼の前に迫っているトラブルへの対応などへの描写を指します。そして、その問題を解決することが次へのトラブルないし「核心の問題」へと繋がっていくものです。

(4)設定

 シーンをつなぐ際に「次に起こるトラブルないしシーン」が想像ができる程度に情報提示すること。とあります。設定を書き散らせというわけではありません。

 上記の4つを書きました。それじゃあ、残りの6つはどうでもええんか? というと、そういうわけじゃありません。かといって全部盛ればええんか? というのも違うようです。

 謎でもってリーダビリティを担保する作品等では、必ずしも守らないほうが好ましい構成もあるでしょう。一つ前に読んでた作品04.永遠(とわ)を生きる聖女の、失われた記憶等はその事例にあたる作品でしょう。

 例の書籍も「米国のライターさんが現代向けにかいつまんだ特徴」というものです。言ってしまえば英語圏の文化のそれであるため、日本語圏のライターに向けて、完璧な流用は難しいものもありそうだとは思っています。

 翻って「日本語圏のキャラクター小説」において、もっと優先した方がいいことは個人的には「(6)心を捉える最初の一文」の項目が大事なのじゃないか。と思っています。

 その点で本作『05.婚約者と書いて、ライバルと読む。負けず嫌い令嬢は、親友と呼ばれて複雑です』について立ち返ります。

 一文目を引用します。

 幼い頃から、負けず嫌いだった。

 作品タイトルにもある要素の「負けず嫌い」を抑えています。そして、その「負けず嫌い」という性質が彼女に不利益を被らせている自覚があることも、続く文章で示されています。

 非常にバランスの取れた主人公像であることが、冒頭数行で垣間見える書き出しは「キャラクター小説」を提案する上で、適切なアプローチであると感じました。

 一人称小説であるからこその書きぶりというのもありそうです。

「物語全体を通して、負けず嫌いという性質がトラブルを引き込み、彼女自身の課題となり得ること」を期待する一文でした。

 物語の結末は一文目にあるものと捉えながら私は小説の一文目を読んでいます。

 おそらくですが。この作品の「すれ違い」の魅力の要素とする所は「婚約者から親友と呼ばれて複雑な気持ちになる」等のもどかしさを推しているところのようです。

 この負けず嫌い要素とタイトルの親友要素がどのような繋がりを持てるのか、そこまでを汲み取ることができなかったです。

 フィジカルの差による技術等の違い等を明確に描写し始めているので、男女間のそれとしての愛情をヒロインは期待しているのかもしれません。そして、その期待にヒーローが応えることができるのか? という所が物語の基本的なログラインになりそうです。

 こればっかりは、深度のあるジャンルなので、ハイコンテクスト化された領域の期待感のようにも捉えています。

 負けず嫌いの要素がどのように展開していくのか。その答えを知りたくて続きを読んでる作品でした。

 感想は以上です。

06.かつて身分差の恋で結ばれなかった恋人の生まれ変わりを見つけたら、これまで塩対応してきた王太子でした

 女性向けラブロマンスのジャンルにおいて「生まれ変わり」のサブジャンル作品です。

 昔からある設定ですよね。小説を問わず多くの物語で採用されています。

 このジャンルは根強いファンがおります。私の父のことです。
 私の父は「転生ないし時空を超えたラブロマンス大好き爺さん」です。

『時をかける少女 (1983年の映画)』がエンドレスリピートされている家で過ごしていました。

『いま、会いにゆきます』のDVDが発売された時は、この作品もエンドレスでした。

 同一世界線上の生まれ変わりは、時制に関するもの。過去の物語(革命等のバックストーリー)と、現代の時制にリンクする形で物語の提案がされていくことになります。

 構成としてやりやすい要素としては「ヘラルド(物語上の使者。今作は物語を展開するための記憶の開示)」の登場が比較的スムーズに展開されていくので、安定的にサクサクと読めました。だからこそ「もうちょっと文字数ほしかった」となるタイプの作品でした。

 同一世界転生(しかも、革命で非業の死)という要素は感傷的にならざるを得ない要素が盛りだくさんであるので、ここらへんの色味を期待している人もいると思います。

 このジャンル好きな人は好きなので、そのアピールが丁寧にされた作品です。

 近しい時制のそれであるため、非常に人称の書き方が難しい作品です。

 前世のリリィ姫としての意識のもと、人称を整理していることから読み下すのに一定のカロリーが必要でした。ターゲットとする人々の感触次第かもしれません。

 それ以外の部分では、次なる展開への決意であったり、ギミックの登場など不安なく読めました。

 どうやって、困難な壁と感じるヒーローと向き合うことになるのか。障壁は大きければ大きいほど、期待は高まるものです。王子側の視点読んでみたいですね。

 感想は以上です。

07.秘する翡翠

 面白かったです。だけじゃ、自分の力にならんので。どうしたものか。

 和風後宮ものとして、ジャンルが広いかというと、西洋風のそれと比べるとまだ少ないジャンルであろうかと思います。和風ファンタジーというジャンルは「これからやってくる」と睨んでいるジャンルなので、この力を存分に発揮して欲しいと思います。

 さて。

 この作品がどういう方向性を向かっていくのか。それはまだ見えてきません。

 しかし、女性向けラブロマンスの作品の特徴を備えています。

01.美貌の宰相様が探し求める女性は元気いっぱいの野太い声の持ち主らしい……それ私かもしれない』の感想でも触れていた。女性の活躍に関するキャラクターのバックボーンがあります。

 基本的に「女性向け作品」及び「男性向け作品」で描かれるキャラクターは「マジョリティとしての対象読者の価値観を強化し、賞賛してくれる」タイプのキャラクターと一体感を持つことを期待されています。
 そして、その「一体感」を持つ上で求められる「女性像」というのは現代的な側面から考える要素を埋めるキャラクターが描かれたりします。
 現代の女性は何を求められているのか?
「社会的に活躍し、家族となることを前提とした恋愛結婚等を達成するキャラクター」像です。

同記事感想より引用

 主人公は手に職を持つ職人として身を立てた人物です。女性向けラブロマンスに求められるキャラクターとしての「自立心のある強い女性像」が描かれています。しかし、彼女は「金剛后にそっくりだ」といった要素で入内しております。探せば似たような方はいらっしゃるものなんですね。

 描写を見る限り、お子を期待するのも難しい様子だし、サクッと降嫁してヒーローと結ばれちゃいなよ。

 とはいえないのもなかなか難しく。

 やんごとなきお身分の方に関する影響力等や世界観等が、家族からの扱いや呼び方の変化から察する事ができる塩梅の作品の情報量です。上手ですよね。

 物語上の障壁の設定から「この男と結ばれることのリスク」といったようなものを明確に示すことが大事ですが。現状の情報量では「案外いけんじゃね。王は優しいっぽいし」とか「いやいや、王は優しくても周囲はカンカンですよ。物事ってそう上手くいかねえよな」といった理屈がせめぎ合うバランスです。

 鈍感系主人公等を設置することで、ヒロインとヒーローのすれ違いを提案するのがエンタメラブロマンスの定石ではあるんですが。
 こういう風にド直球なアプローチから始まる作品もいいですね。

 一点突破の魅力で見ると、胸を撃ち抜かれた一作です。しかし、続きというものを考えた時に「先の展開が不安定」なのは、連載時に少なからぬ読者離れを起こしそうだと思いました。

 舞台が不明です。

 彼女が後宮の生活に不満を持っている。ストレスに感じている。という現状は示されていて、それらの環境を変化させてくれるであろう幼馴染からのアプローチによって、物語の舞台が拡大しています。

 あらすじには「和風後宮ロマンス」と明言しているのですが、幼馴染のアプローチで引くと「ええ! 旅出ちゃう? でも、この熱意ある告白をいなせる!?」みたいな驚きの読後感でした。

 今後のログラインが不安定になってしまっている印象でした。いや、でもこの告白は熱い。

 私は好きでした。

 感想は以上です。

08.妖精くれた魔法の指輪

 どこかの芸人さんが妖精に扮していませんか? 世界で大活躍する方ですからね、そら、ファンタジー世界にいてもおかしくありません。

 キャラクターの一人称視点の語彙に寄せて、ヒーローを賞賛したりするなどの作品上の提案するムードや進行を示しつつ、助けた妖精から「魔法の指輪」を受け取る。といった「日常の世界から特別の世界」への変化のきっかけとなるシーンから冒頭は開始しています。

 書き出しとして動きのあるシーンからチョイスし、その指輪を通して、二人のラブロマンス空間を構成したあとに「芸人の顔が浮かぶ魔法の言葉」でフルスイングされました。

 面白かったです。

 さて。物語として見るならば、アクションのあとのリアクションまでを読み、今後の展開や、ムードを確定させて欲しいという部分はありました。バチバチのコメディならコメディで引き込めるターゲット層もいたんじゃないかな。とは思いました。

 そして、大事なのが「のどかな二人」がビキニアーマーというそれこそファンタジーの産物とどのように対峙するのか。とっても興味があります。

 このリアクションにかかるシーンまで書いたら、セットとして作品の今後を期待できる要素としてまとまったと思います。

 どういう課題に巻き込まれることになるんでしょうか。マント等の縛りの話題もあったので、魔法使いとか。そういう方向性の展開もありそうでしたね。マントで変身されたら、ビキニアーマーも仕方ない。みたいな妖精の悪戯心でしょうか。

 妖精は真面目なのか不真面目なのか。
 小鬼に蹴手繰りかますような妖精ですからね。
 どんな気持ちでこの指輪を差し出したのか。案外悪戯みたいなものなのかもしれませんね。

 どっちにしろコメディとラブロマンスが反復横跳びしてくれる作品になるんじゃないかな。とは期待しました。

 感想は以上です。

09.失踪王子の代役〜片割れ王女と気づかれないまま、兄の側近から告白されそうです〜

 女性向けのラブロマンス作品というと、ロイヤルな世界観で展開される物語が基調とされるものです。この作品もその例に漏れないのですが。特徴的なヒロインです。

 基本的に「強者たる男性(金と権力と身体的強者)に愛されること」自体が女性ターゲットの希望の側面があります。
 ターゲットのパワー自体が庇護を受ける女性たちの誇りに加算される。といったような嗜好が少なからずあるものです。

 故に、女性向け作品には「スパダリ」とされる男性たちが登場するのですが。本作は厳密にはその構成とは違う要素があります。

 ヒロインのほうがヒーローよりもパワー(幽閉された姫ではあるものの……権力)があり、彼女自身が強い自立心をもっていて、安定しています。彼女は自分の立場に不満を持っておらず、今回の冒険(兄の代役)についても「兄が困っているから」といったように行動を決める位には決断力があります。

 女性向け作品にある「男性の庇護を求める女性像」からは離れた存在として、非常に均整の取れた人格として表れています。彼女自身に成長をする要素や、欠点とされるものが見当たらない主人公です。

 こういった主人公のときは「主人公の成長」ではなく「主人公の周囲に対して成長を促す」といった性質を表すものです。触媒(カタリスト)ヒーローと言います。主人公のことをヒーローと指しているので、厳密にはヒロインですが。目を瞑ってください。

 とっても「ヒロイック」なキャラクター像です。

 女性向け作品でここまでヒロイックで能動的なアクションや決断力、勇気を備えた主人公が読めるとは思っていませんでした。

 変装をする。というのも、古典的ではあるんですが。神話の時代からあるようにみんな大好きな設定です。次話への引きもある。文句のつけようがない書き出しでした。

『名前を申してはいけない祭り』の感想でもよく取り上げる項目があるのですが。

 主人公がどのような特殊能力をもって、物語を牽引していくのか。といった情報を提示すると、作品の方向性やムード。読者の期待感を高める事ができる。といった側面も丁寧に押さえていました。

 毒物に関する話題はロイヤルな世界観で幅の効く設定であるし、タイムリー(智子は『薬屋のひとりごと』にダダハマりしています)な特殊能力なので、ターゲットにもすんなりと馴染むものでした。

 兄はどうして失踪したのか。表向き以上の理由がありそうです。

 面白かったです。感想は以上です。

10.封印されていた竜王に見初められ嫁に来ないかと誘われたので婿に来るならいいよと言ってみた

 Twitterでも書いたように面白かったです。
 なかなかチャレンジングな構成の作品だとは思いました。
 作中において、シーンを三分割しています。

 プロローグ:エリクサーを手に入れる老人の話。
 本文:主人公を取り巻くバックストーリー、物語の動機の提示。拡大する教会の問題。
 エピローグ:主人公とヒーローの出会いを示唆する。

 それぞれのそれぞれの役割と効果が独立して、存在し、影響できているものです。物語の構成としてストレート剛速球の力があります。

 しかし「女性向け作品」のそれとして考えた時、ヒーローが不在です。このヒーローが不在の時に「イセコイ」を期待している読者達のニーズに応えられるかどうかは正直わかりません。メインコンテンツとして考えられる「ヒーロー」との対峙自体を期待している読者達は取り残されるかもしれません。

 レギュレーション的にも結構ギリギリだったんじゃないかな。とは思います。

 この企画には「内容の縛り」があります。

★内容縛りがあります★
(中略)
・4200字以内に、ヒーローを必ず出すこと。お相手がこの男だとわかるor匂わせること。(BL、GL不可)

募集締め切りました!!【イセコイ冒頭ミュージアム】企画概要

 実はここのレギュレーションのチェックもしながら読んでいたりします。

 なので、最初の読後感としては「めっちゃ面白いんだけど。大丈夫なん?」という不安でした。

 本文中にヒーローは登場しているのか?

 登場していました。最後のシーンの構成の「示唆」の部分です。

永劫の暗闇の中、その竜は眠っていた。長い長い長すぎる生を終わらせるために。光など一筋も差し込まない漆黒の闇の中で、ただただ朽ち果てるのを待っていた。

 そこに、彼女が現れるまでは。

10.封印されていた竜王に見初められ嫁に来ないかと誘われたので婿に来るならいいよと言ってみた

 ありました。竜出ました。

 ぽっと出てきたヒーローです。おそらく、レギュレーション違反を回避するために苦肉の策でシーンを三分割したんじゃないかなぁ。と思っています。

 実際のところ、タイトルとあらすじにもヒーローの情報はあるし、最後の引きの部分はないならないでもサクサク読める構成でした。

 この方が書いた作品を他にも何作か読んでみたいです。

 冒頭に後の展開や、敵対者として通じるキャラクターを設置できているというのが「物語やります!」といった勢いを感じる作品は好きです。

 弟の病気に、教会噛んでそうですね。

 主人公という考えについて、整理していきたい作品かもです。

 この作品は「世界観設定と物語」が密接に絡む物語の構成を期待できるのですが。キャラクターの成長を主軸とした作品。としてみると、情報がいくらか不足しているようにも感じました。その役割はもしかしたらヒーローにあるのかなぁ。という部分を感じ取っています。
 だって、長く幽閉されて寂しかったでしょうし。嫁じゃなくて、婿でよろしく。というのもパワーバランス的に、関係性をある種「アドバンテージを握っている女王」と「メロメロになった竜王」みたいな関係性によるエモさを拾おうとしているんじゃないか。
 この「ラブロマンスとしての関係性」を一話で分からないのは、イセコイを期待する読者達が判断できない不安定な作品として見られる可能性はありそうです。

 面白かったです。感想は以上です。

11.魔法学院の一流クズ教師が求婚してくる理由

 物語の引きの作り方として、色々とあろうかと思いますが。タイトルにある「求婚の理由」をそのまま引きとしています。

 女性向けのヒーロー(スパダリというには不安ですが……多分、スパダリになってくれるでしょう)としての要素や、役割を果たしたキャラクターです。

 女性向け読者の期待する展開ないし、予想する展開というのは次の通りです。
 ヒーローがヒロインに「権威者による保護と寵愛、付随する権威」を与えられることを期待しています。シンデレラストーリーという奴です。

 何かの機会に目にした誰かの投稿(Twitter)ですが。思い出した考え方があります。

【退屈な小説にならないよう作者が常に意識するべき点】
・読者に勇気を与える(アクション的要素)
・読者に恐怖を与える(ホラー的要素)
・読者の好奇心を煽る(探偵的要素)
・読者を笑わせる(コメディ的要素)
・読者の恋心を刺激する(ロマンス的要素)

どこかで読んだ。どこだったか。

 勘どころの良い方はおわかりだと思うんですが。エンタメに好んで触れる方々は、この5つの要素の内のどれかを期待しながら楽しんでいます。

 基本的に「イセコイ」とされるジャンルは「読者の恋心を刺激する(ロマンス的要素)」を基調に、残り4つの要素を取捨選択しながら、展開していきます。

 本作『11.魔法学院の一流クズ教師が求婚してくる理由』は「読者の好奇心を煽る(探偵的要素)」を含めた2つの要素を組み合わせて、構成されているように捉えました。

 蛇足ですが。

 女性向け作品の構成要素の中で「読者に勇気を与える(アクション的要素)」タイプの作品は、イセコイ関連では少ないように感じています。それも「需要」の問題というのもあるんでしょうが、「物語上のピンチに対して自分で切り抜けてしまうタイプのヒロイン」は、執筆時のカロリーが高いのかもしれない。とは思っています。

 どういうことかというと。

 ドアマット系ヒロイン(当作はドアマット感は薄いですが)などのように、環境に恵まれず、ストレスなどの負荷があるキャラクターは「自身の覚醒した能力等によって、自身が力を発揮し、敵対者をやり込める」といった、ヒロイン自身が何かしらの力を発揮するキャラクターは少ないです。むしろ、その役は「スパダリヒーロー」に譲るというのが「基本的な女性向け作品の構成」です。

「愛されることをカタルシスとしている」

 その力を感じさせてくれる書き出しでした。

 冒頭でもその向きがありますよね。ヒロインのピンチに手を差し伸べるヒーローの構図です。

 あのシーンで、いじめっ子達に果敢に立ち向かうヒロイン像であれば「つよつよ女子」とされるタイプの別のキャラクター像に仕上がります。

 ある程度、類例や類型で分けることができる位には物語のキャラクター像は多様性にあふれています。似たような現象は男性向け作品(ラブコメ分野)でも起きてるようですが、今回はその部分は触れないでおきます。

 さて。作品について考えてみます。キャラクターにも触れてみたいと思います。

 ヒロインの日常(周囲からやっかみを受けている)自体が、ストレスのある生活となっていて、そのストレスから開放する庇護者としての役割を期待できるヒーローの登場です。そして、そのヒーローの思惑が分からぬままに求婚をされてしまい、ヒロインはその求婚を受け入れる事ができない。

 改めて書き出してみると、二つの要素(ロマンス的要素及び探偵的要素)が二つ組み合わさった魅力として、作品が提示されています。

 顔を上げると、先生は目を丸くして私を見つめていた。

「……先生?」
「お前、俺の名前」
「はい。あっ、えっと、間違っていましたか?」
「いや合ってる。合ってるから驚いた。お前、俺のこと覚えてんの?」
「それは、もちろん。学院の先生ですので」
「……あぁ、そうか」

 そりゃそうだよな、と先生は表情を元に戻した。

本文より抜粋

 おそらく、お二人は何かしらの知り合いだったのでしょうね。先生は覚えていて、生徒は覚えていない。魔法が出てくる世界ですから。なんでもありですよ。

 この作品はあらすじがない作品なんですよね。文末にあらすじめいた煽り文としてのそれが挿入されています。

 この時の私は知る由もない。
 しょんぼりな先生が翌日にはすっかり立ち直って校門で待ち伏せていたり、しつこく言い寄ってきたり、豪快な魔法で私を助けてくれたりすることを。

 それに恩を着せて、半ば強引に私を懐柔しようとすることも。

 先生がなぜ私に求婚するのか、執着してくるのか。――その理由が実は、噂のコネ推薦の犯人が先生だということに繋がるけれど、今はそこは置いておいて。

 初めから波乱な私の学園生活は、クズと呼ばれる先生のせいでさらに波乱を極めてしまった。

 この文章の挿入で作品全体のムードであったり、今後の展開が明確に示唆されています。

 合わせて、私が興味深いと思った部分は主人公のヒロインが「タフ」なことというのは「愛されるヒロイン像」の特徴の一つかもしれない。と思っています。

「タフであり、男性の庇護を本来必要としない位にたくましいヒロイン(水をぶっかけられたら智子は悲しくて泣き出します……)を女性として扱おうとするスパダリ」という構成を満たすことで、世の中にある「強くありたいないし強くあろうとしている女性たち」の「願望」を適切にバランスよく満たしてくれるキャラクター像だと思っています。

 殴り返しはしないけど。動じてもいない。必要とあれば反撃をする気概はあるけど、波を立たせない。といった考えのキャラクターであるため、ヒーローからの求婚にも不信感を覚えるといったような「ロマンスを一筋縄でさせてくれない」キャラクター像であることも、物語の期待値に寄与したように思っています。

 ええ。『薬屋のひとりごと』にダダハマりしている智子が最近感じていた「女性向け作品のヒロイン像」のバランスというのを考えた要素を実践できたキャラクターのように思いました。

 この要素を私は汲み取れましたし、女性向け作品を読み慣れた方々はこの「ロマンス」における期待感を拾えたんじゃないでしょうか。

 過去の記憶にかかる物語なので『04.永遠(とわ)を生きる聖女の、失われた記憶』の作品とちょっと票を奪い合う作品になりそうです。

 感想は以上です。

追記:(蛇足かもですが)

 涙を持たない女性像について

 女性と男性のどちらが「涙に弱いか」というと、男の方が涙に弱い所はあります。小学校の学級会で女子たちから吊るし上げられるタイプの男の子だった智子はわかります。女の子が泣き出した途端に、理由のすべては撤廃され、そのまま石を投げつけられる罪人として処されるのです。

 反転、女性たちは「涙」に対しての耐性があるように存じます。

 この点もあって「泣いて問題を対処する」より、現実的な課題解決やタフな精神力を保持する女性キャラクターのほうが好まれる性質があるんじゃないかなぁ。と予想しています。


12.犬獣人の従僕の溺愛は、姫君には忠義と映る

 恋ってのはするより聞く方が楽しいものです。

 それと同じような楽しみ方を提案できるタイプの作品です。

 人外×人外のラブロマンスであるため、一体感(アイデンティフィケイション)的な楽しみ方より「見る楽しみ方」であることは明白な作品です。

 二人の間に今後どのような困難が存在するのか。全く見えませんが、それはおそらくですが。物語のメインコンテンツではないんですよ。

「もふもふのヒーローがヒロインに激重な愛情を示しているが、ヒロインは鈍感故か同じ重さで返さない」という要素を楽しむのです。タイトルの通りです。

 作品の世界観や「外で修行なさい」といった物語の目的の提示等、見事ではあるんですが。それ以上に「この二人がイチャイチャする物語です」という要素で全力タックルの作品でした。

「名前を申してはいけない祭り」の感想でも良く触れてはいるのですが。

「ヒーローに求められる特徴」の一つとして「性的な不快感を持たせない男性キャラクター」ということがあります。

 基本的に男性と女性というのはフィジカルに差があります。差があるゆえに男女間での「異性に対する危険度」というのは男女で明確な違いがあります。その中で顕著になるのが「性的な嫌悪感」への感度は、男女で随分と開があります。

 であれば、作品中にもそれらの「危険な男性像。不快感を与える男性像」を除外した形でキャラクター達は構成されていて、その信頼というものがキャラクターの間にある時、読者はそれを汲み取っています。

「まさか。エメリン様は羽のように軽いです。しっかり抱いておかなければ、俺が心配なので」
「そうそう風に飛ばされたりしないのよ?」
「気持ちの問題です」
「ふうん」
 ――――わかったような、わからないような。
 エメリンは、なるほど、どうやらオアシスに着くまではずっとこのままらしいと観念し、こてん、と彼の胸に頭を預けた。

本文の末尾から引用

 あい。もう、こういうことですよ。
 スパダリを書こうとしている諸君! 下心は隠したヒーローを描きましょう!

 彼の献身的(いや、ちょっとスキンシップ激しいけど!)な態度ゆえにヒロインも頭を預けてくれるのです。

 説明的ではなく、シーンによってお互いの信頼関係が見える描写はよかったです。

 もちろん、物語の展開における今後の期待とか色々触れることができる描写はあるんですが、最後のシーンですべて吹っ飛びました。

 妖精だけどパワフルなヒロインの活躍を期待しております。

 感想は以上です。

13.ガラスの花の乙女と結ばれる真の恋は「366日」前から始まりました。

 文字数に苦しんだか。もう少し先を読みたい作品でした。彼女の「怒りの理由」まで踏み込んだ一話であれば、印象は変わった作品になりそうです。

 26作品の内の13作品目です。折返しともなると、ちょっと寂しさがあります。

「イセコイ」のレギュレーション故に、主催者が狙っていた「イセコイの多様性」を担う一作であると感じています。

 ハイファンタジーとロマンスをかけあわせた作品です。ホットスタート形式とはちょっと違うんでしょうが。似たような効果を持っています。
 一番最初の独立したシーンについては「日付」を不明としています。

~???日目・真の愛を叫ぶ日~
「ロイーっ!」
「ユレイラーっ!」
私は力の限り愛する人の名を叫んだ。
ロイも私の名を最大限の力を振り絞って叫んでいるのが分かる。
瓦礫を挟んで、その隙間から私たちは手を伸ばしてしっかりとお互いの手を握り合う。
私はわあわあと泣いた。
ロイの震えるもう片手が伸びてきて握り合った手に重なる。
「ユレイラ、愛している」
「ロイ、ロイ。私も貴方を愛しているわ」
私の涙が一粒、首から下げたガラスの種の袋に落ちる。
その袋が光り始めて……。

 どこのシーンを持ってきているのか。その事自体が「作品の約束」という部分にも該当する要素だと思いました。

 愛を交わすほどの両者の関係性が示されたあと、二人が出会う「一日目」にシーンはうつります。

 あらすじにもあるようにかなりハードな世界観です。その世界観でイセコイをやります! といった、ムードを示した冒頭から始まりました。

 三日目の「大事な物の紛失」について、ヒロインが取り乱すシーン等から、両者の関係性が波乱に満ちたものである可能性を期待しました。

 おそらく大事なものというのは、冒頭でも示されていた。「ガラスの種の袋」のことを指しているようです。非常に重要な代物であり、この物語のターニングポイントになる要素であることは伺えました。

 イセコイとしての「ロマンス」等の恋心を基調とした作品というよりは「ロマンス」はサブジャンルとしてあり、ハイファンタジーとしての要素の方が強そうには感じています。

 ロマンスの物語と、ガラスの種を巡るファンタジー等がどのように絡むのか。それがまだ見えてこない冒頭の情報量でした。
 おそらく、愛情等の感情自体が物語の契機として予想できます。
 恋する乙女の涙がトリガーという意味合いの冒頭かもしれません。

 セントラルクエスチョン(物語を通して解決される課題。読者がその物語を読む理由)のロマンス要素は繋がっています。だって、序盤で愛の告白してますからね。その過程をこれから楽しませてもらえる。という約束はできました。

 しかし、あらすじを読む限り「戦争の終結に二人は寄与していない」位に思っていたので、どの方向性の期待をもって「ハードな世界観」へ没入するべきか。ちょっと迷う作品でした。

 ヒロインを含めて、アグレッシブに戦争の終結に向けて介入するのか。
 保護を受けた少女がドアマット的性質による癒やしの物語として期待するのか。

 こんな風に「情報が少ない」と私は書いておりますが。おそらくですが「意図的に情報を絞っている」と予想はしています。それ自体を引きとして構成したのだと思っています。

 情報を絞った作品とすれば『04.永遠(とわ)を生きる聖女の、失われた記憶』も該当するものです。

 それらの「絞った情報」も、ヒロインが失った記憶をたどるような感情的な物語を期待できる絞り方です。

 当作も、ロマンスとハイファンタジーを組み合わせた作品であるためハイファン要素の部分で、どのような感情(喜怒哀楽)を約束してくれるのか。彼女がガラスの種に執心する理由(ヒロインの冒険の理由につながるもの)まで読みたかった。現状はまだ、先が見えない程度の情報量にとどまった作品でした。

 感想は以上です。

14.好みドストライクな暴虐公爵様に「君を愛することはないから安心してほしい」と言われましたが、ごめんなさい、私は愛してます。

 面白かったです。いや、違うのか。「面白くなってくれるだろう」という期待感の釣り上げが上手な作品でした。

 基本的に智子は「ハッピーエンド」は好きです。大体皆さんもハッピーエンドが好きだったりします。とは言いながらもバッドエンドがお好きな方もいらっしゃったりします。そういった「アンマッチ」をなくすためにも、なろうでは「ハッピーエンド」のタグがあります。これは「作品の本文外」の補足情報にはなるので、ちょっと荒業ではあるんですが。でも、小説に限らず物語というのは「本文外」の部分でも多くの情報があります。それの一貫であると私は捉えています。

 イセコイ冒頭ミュージアム という企画は内容に縛りがあります。

★内容縛りがあります★
(中略)
・異世界転生・異世界転移系と、ざまぁ要素はNGとします
※ざまぁ要素というのは、いわゆる〝なろうイセコイテンプレ〟(バカ王子が理不尽に婚約を破棄し、そのために復讐されたり勝手に落ちていくという類のもの)です。
悪が相応の裁きを受ける話は、ざまぁに含まれません。

 読んだ方はおわかりかと思うんですが。見た目上は「理不尽な婚約破棄にかかるざまあ」だなぁ。と読めます。

 最初は「この作品もレギュレーションぎりぎりかぁ?」と不安になりながら読んでいました。実際のところ「理不尽な理由からの婚約破棄」という動きはイセコイとしてのテンプレに則った王道的な展開です。「愛することはない」というのも、契約結婚のテンプレです。

 これらを組み合わせて、ラブロマンスを展開していく。という期待感を用意しています。

 テンプレだからこそ、一定の読者が「先の展開を予想」します。これはイセコイがジャンルとしてのテンプレートや、女性ターゲット達が共有する物語体験ゆえのことです。

 大事なのは「読者に先を予想させて、予想を裏切る。しかし、ジャンルとしての期待は裏切らない」ということです。

 この作品はその部分を徹底しています。

 タイトルやあらすじにある(もったいないって……)ように「ヒロインはヒーローのことを好ましく思っている」という要素は示されていますが。
 実は本文では全く触れていません。
 本文では触れない。というのが、非常にチャレンジングな方法だと思っていました。読者としては「タイトルに期待される関係性」を確認することを望んでいます。だけどその部分が全く示されず「なにかにショックを受けている」といった様子で終始描かれています。

 ヒロインはヒーローとの初夜がうまくいかずに「もったいない」と本文でも示しているところですが。「ヒロインがヒーローのことをどのように思っているのか?」を類推できるのはこの「もったいない」のみなので、非常に今後の展開(二人の関係性)についての情報は少ないです。それを類推できるのは「あらすじ」の文章でしょうか。

このまま側にいて、壊してしまう前に逃げよう。

実はアンガスが推しの余命少ないリリアンと。
暴れる発作のせいで臆病なアンガスのラブコメ。

あらすじから引用

 あらすじや本文にも明確だったのですが。キャラクターが何かしらの課題を抱えている。ということを描いている作品でした。その部分は私が好んでいる「課題を持った主人公像」にストーリーとして期待をしています。

 序盤に課題として示されたものは、解決されることを期待します。完全な解決とまではいかずとも、その課題を起点に物語が展開されることを期待してしまいます。

 余命の少ないリリアンについては、その余命を解決するイベントが存在するでしょう。

 発作によって、人を傷つけないために人を遠ざけているヒーローはその発作に対する課題を解決することでしょう。

 本文を読んだ方はめちゃんこわかるんですが。この作品は「課題に対して」の現状のみに留めています。

 ヒロインはどうして余命が少ないのか?

 ヒーローはどうして発作が起きるのか?

 全く触れていません。しかし、それに触れている人たちは「語る」のではなくて、シーンにおいて「すこし」触れているだけです。

 この情報量で、読者は「予想」をしています。この予想をまた転がしながら、次の展開や期待へと読者を釣り上げている。という巧妙さを感じています。

 この作品については、また他にも触れてはいたんですが。すべてのシーンに「テンプレ」に則りつつも「ざまあ」要素を潰していく動きがあります。

 この要素があるからこそ「レギュレーション」に記載のある「ざまあ」禁止を担保しています。レギュレーションゆえに「期待」するといった側面もあるんですがね。

 この作品はおそらくですが。「悪魔のような妹」さんのエネルギッシュな活動力と果敢な決断力によって、姉の延命を願うための物語が展開されていることを示唆しています。

「お前との結婚はリリアン嬢本人の希望だよ」
「リリアン嬢の希望ではなく、エリザベス嬢の希望の間違いでしょう」

 姉妹の仲は有名だ。もちろん悪い方に。

「否定はしない」

 兄が苦笑した。

「このままだとリリアンは長く生きられない。長くない人生。本人の希望を優先して、好きな男と過ごさせてやりたいそうだ」

婚約の経緯(ヒーロー視点)

 このシーンは3つの要素を示すために描写されています。

 一つ、妹の願いは「姉の延命」であること
 二つ、そのような願いを持てるヒロインの妹のカップリング相手として、ヒーローの兄を用意していること。
 三つ、ヒロインの延命は「このまま」では無理なこと。逆説的にはこの婚姻自体が何かしらヒロインの課題を解決する一手であること。

 秀逸な作品だなぁ。と思ったのはこういった「叙述上の誘導と書き手の誠意(書いてたでしょ? といった伏線)」によって、読者を「テンプレ的展開」で誘導しつつも、それぞれのキャラクターの「思惑」が絡み合った形で「婚約」が成立し始めていることを読者に「語りすぎない」形で提案したことです。

 これは、お互い、ヒーローとヒロインの一人称視点による「制限」故にできることではあるし、読者もそれを汲み取って楽しんでいると思います。

 長尺にはなっているんですが。もう一点、天使と悪魔について触れさせてください。

 俺が十歳かそこらのことだ。引きこもっていた屋敷の離れに、リリアン嬢が迷いこんで来たのだ。

 天使かと思った。

 柔らかい銀髪が日の光を受けて、きらきらと輝いていた。赤い瞳は宝石のようだった。俺のことを知らなかったのか、怖がらずに挨拶をしてくれて。

 人との会話に飢えていた俺は、いけないと思いつつ屋敷に招き入れた。
 他愛もない話をしていると、エリザベス嬢が乗り込んできた。勢いよく屋敷の扉を開き仁王立ちをしたエリザベス嬢は、恐ろしい剣幕で俺を罵ったと思うとリリアン嬢を連れて立ち去った。

 悪魔かと思った。

ヒーローの過去の回想から

 このシーンで打ちのめされましたよね。多くの読者は感じ取っていたんです。「ヒロインの妹はヘイトを買うことを恐れず、他者からの悪評判も意に介さない剛の者である。それは姉を庇護する気持ちゆえ」であると。

 この物語って「複数のキャラクター」によって、展開していく。ということを約束した回想シーンにも感じ取れました。

 さて。

 感想をまとめようと思います。

「イセコイ」というジャンルはある程度「落とし穴」があるものだと思っています。ラブロマンスを必須とする考えのあまり「ドラマ」ではなく「メロドラマ」的な構成に陥りやすい傾向があると思っています。

「メロドラマ」というのは「外的な課題」のみの演出。
「ドラマ」というのは「内的な課題及び外的な課題」が合わさった演出。

 ラブロマンスにおける「外的な課題」というのは「二人の恋は成就するのか?」といった、目に見えてわかる解決の要素です。

 それでは、その恋愛を通して二人はどのような成長をしていくのか。彼らは何を課題としていて、どう向き合うのか? といった「内的な課題」の成長要素を示している作品は「ドラマ的」です。

 今回のドラマとしての高い成長要素を期待できるのは「ヒーロー」の臆病な心です。

 おそらく、ヒロインにも同様の課題を設定しているのか。していないのか。現状は不明です。彼女の好意を前にヒーローが変わっていくことを期待する「変化を促す」タイプのヒーローなのかもしれませんね。

 ドラマ的。メロドラマ的についてもですが。メロドラマ的が悪いか? というと、そんなこたないっちゃないとは思っています。

 求められるジャンル。用途においても「シンプルな構成」でアプローチするために「メロドラマ的」な構成にして、カロリーを落とすことが求められる作品もあるでしょう。

 私は「ドラマ的構成」が好みであるという話でした。

 あえて「ヒロインからヒーローへの好意」にかかる部分を表現せずに「もったいない」に集約したのは挑戦的であり、目を引いた作品でした。

 面白かったです。感想は以上です。

15.小柄な竜に恋をした、不器用な治癒術師 ~バルツクローゲン魔法学院、教師の職場恋愛物語~

『お前が竜なのかよ』という読後感が最初にやってきました。

 面白かったです。基本的に「書き出しのセオリー」から見ると、面白くなくなる筈なんですが。面白かったのがすごいです。

 私もこの語り手としての力や演出力が欲しいなぁ。と指くわえて読んでいました。

 基本的に「書き出しのセオリー」というのは何かというと「変化のあるアクティブなシーンから始める」というのが、現代的なスピード感を求める作品の構成です。しかしながら、それをせずに「ヒロインのバックボーン」の語りから始まりました。

 基本的に小説を読もうとしている人たちの「最近の需要」は「小説を読もう!」という気持ちではなくて「物語に触れるために小説を読もう!」という原点が強いと考えていて「冒頭に設置される物語るための事前説明としての語り」を忌避する傾向があります。

 本作の場合は「物語るための事前説明としての語り」のタイプの物語です。そして、語り手としての視座も「智子と似たタイプ」の書き手であるためすんなりと読み込めた。というのもありそうです。

 なので、今回の感想に限っては「レアなケース」と思って欲しいところです。
 もしかしたら、最初の説明的な要素を好まない方もいるかもしれませんね。これは私自身の自戒でもある気づきです。

 さて。

「物語るための語り」の部分でも、注目したいのは「隠す所は隠している」という技術です。

 ラストに「お前がドラゴンなんかい」というツッコミが出たことからわかるように。ヒロインは人外です。しかも、おそらくですが。人化の術かなにか使ってるんでしょうね。

 そんなヨランダへと、魔法学院で教鞭を取ってみないか、という話が舞い込んでくる。
 多少の問題はあったが、それは禁書の古代魔法でなんとかなった。そしてヨランダは、教師となって誰かの助けになりたいと願い、その話を快諾。

冒頭より

 おそらくですが。人間を相手する教職という仕事上の都合から「人化」することを求められているんでしょうか。それは多少の問題なのか……

 そして、この多少の問題を回避するためには、彼女は魔法書を常に背負う必要があるんじゃないかな。

 ヨランダは小柄な大人の女性。身長は百四十センチ、体重はヒミツ。童顔という事もあり、子供だと勘違いされそう。そして何よりも特徴的なのは、背負っている本だろう。その本はヨランダの身長よりも少し小さいくらいで、後ろから見れば本が歩いているように見える。

 めっちゃデカいやん。紙って重いんやぞ。ヒロインはどんな怪力の持ち主やねん。と、ツッコミをいれながら読んでいたんですが「ドラゴンならそういうこともできるのかな」と読み終わった今なら納得です。

 私は他の感想でも良く触れているのですが。
「物語上必須と考える以外の人物描写は必要と考えない」タイプの書き手です。

 もしかしたら、本作の作者の方も「同じ指針」で人物描写を書いているようにも捉えています。

 この不自然な魔導書を担ぐのは「キャラクターとしての特徴づけや、書き分け以外のギミック要素」が含まれているからだと読んでいます。

 魔導書を背負っていなかったら、人化の術が溶けてしまうとか。人ではないとバレると何か問題があるとか。そういった「スリリング」な要素にも転じることができそうですが。冒頭ではその要素を記載せずに、ヒーローとの出会いに注力したシーンです。

 そして、ヒロインがヒーローに惚れるんじゃなくて。

 ヒーローがヒロインに惚れる。といった流れです。

「お前が惚れるんかい」

 という、ツッコミがここでも登場です。てっきり、ヒロインが惚れるのだと思っていました。どうして、そんな勘違いをしていたのでしょうか。冒頭から「ヒロインのバックボーン」にかかる描写が多く、ヒロインへの「憧れの人物像」への期待値からそう思ったのかもしれません。

「予想を裏切りつつも、イセコイジャンルとしての期待は裏切らない」

 といった効果がちょこちょこ発生していて、末尾まで十分楽しみながら読めた作品でした。

 タイトルから考えてみればヒーローのことではあるよな。とは今更納得です。

『小柄な竜に恋をした、不器用な治癒術師 ~バルツクローゲン魔法学院、教師の職場恋愛物語~』

 ヒーローもヒロインも治癒術師であるため「読者のミスリードを狙ったタイトルなんじゃないか」とは思いました。

 とまあ、こういった感じで最初から最後まで「読者を転がして楽しもう」といった仕掛けに溢れた描写の作品でした。

 転じてキャラクターについて考えてみましょう。

 物語を展開していく上で「雛形」となるようなキャラクター同士の関係性を描くことにも成功しています。

 未熟なヒロイン(成人したとはいえ、見た目通りまだ幼いのでしょう……)を心配し、猫マフラーとしてご一緒してくれる猫の登場は、物語の展開をしてくれる上でコントロール役として機能する存在でしょう。

 メンターであり、空気感を一掃してくれる猫。
 精一杯背伸びをしているヒロイン。
 ヒロインに強い魅力を感じている強面ヒーロー。

 といったように、役者がきれいに揃った冒頭であり、今後の「ラブロマンス」の舞台が整った書き出しでした。

 どんな感じになるんでしょうね。それがまだ見えてこない部分はありました。

 ヒーローがヒロインに対してアプローチをすることに何かの障壁(自身の葛藤、自責の念以外)を二話以降で提示できるか。そして、ヒロインがその好意に答えられない(物語上)合理的な理由を示せるか。

 ヒーローの考え方をどのように転換できるでしょうか。

 チャイルドソルジャーとしての葛藤については、エスピオナージ(スパイもの)の作品でも取り扱われることがあった題材です。それをどのように描いてくれるのか。ドラマとしての高い期待を持っています。

 二話以降でイセコイ読者の動態が決まりそうな作品でした。面白かったです。

 感想は以上です。

16.好きな人にだけ発動する落とし穴魔法を身につけてしまいました…

 ハイファンタジーでこういう語りができるんですね。面白かったです。しかし、その面白さは「イセコイ」としてのそれではなくて、文章力とか、語り口、世界観への没入感にかかるものです。基本的に智子はそういった向きの力を評価しない人間です。

 だけど、ここまでやられると素直に「面白かったです」としか言いようがないというのもあります。

 この方の他の作品も読んでみたくはなりますね。

 私が「ハイファンタジー」に求める要素というのは「その世界観の中で生きてる人たち」の描写を求めている節があります。それはどんなファンタジーでもいいんです。「ふわふわな綿菓子のような甘い世界観」でも良いですし。「血飛沫舞う物騒な世界観」でも良いんです。

 私は「その世界観で人格を形成し、適合したキャラクター」を読みたいんです。奴隷制がある世界なら、奴隷制に適合した倫理観が現代人にそぐわないキャラクター達を読みたいですし。
 血族を残す。という異性愛前提の世界ならば、その世界で発生するであろうドラマを期待しながら読んでいます。

 その「智子の語りの好み」として見た時に、この作品はドンピシャなんですよね。その世界観に対して、ヒロインがどのような感情を持って生活をしているのか。家族とどう過ごしているのか。

 仔細に描いたり、書き込む必要はないんです。

 その世界で地に足ついて生きてる。そして、キャラクターとの関係の形成にも時間を掛けている(馴染むのに一年って。めっちゃ人見知りじゃないですか)。といった、ペースの部分からも作品のムードとして期待感が高まる描写でした。

 ここまでは。智子がこの作品を好きな理由です。

 あとの部分は、蛇足かもしれませんが。イセコイの作品として見た時にどんな「ラブストーリー」を提案してくれるのか。それがまだわからない部分でした。

 序盤のシーンを見るに、ヒーローはヒロインの好意を知らないのかも。いや、知ってても落とし穴に放り込まれたら怒りも湧くかも。どっちなんだろうか。

「落とし穴」というギミックによって、どんな恋の障壁が起きるのか。それを想像することが難しかった。

『好きな人にだけ発動する』といった発動条件が、誰かに知られるのか。秘匿されるのか。とにかく「ラブロマンス」のためのムードや展開においての情報は少なかったので「イセコイ読者」達はどういう期待感を持てるのかは不明です。

 人見知りという部分もあって、彼女自身の性質がラブロマンスの障壁となるのでしょうかね。

 感想は以上です。

17.幼女になった呪われ嬢は、婚約者を解放したい

 17作目に読んだ作品です。
 この作品は「イセコイという女性をターゲットにしたエンタメジャンル」において、親和性は高いが、取り扱いが難しいテーマを切り込んでいる作品です。

 Twitterでも触れた部分ですが。
「作品の目的を示す」というのはエンタメの冒頭で非常に重要な要素です。

 そして、その力を発揮するために「エンタメ小説」界隈ではタイトルが長文化する傾向があることは、その「読者の需要」に沿った結果の「淘汰圧」です。

「◯◯したい」だなんて、物語の目的がそのままですからね。ここの部分が「集客のための情報」であり、本文を読ませる方法論の一つです。

「イセコイ」限定の企画で見てみると「エンタメ小説」としてのジャンル嗜好が強いので、長文化したタイトルが並んでいます。

 この作品は二つの要素を絡めています。

 イセコイによるヒーローからの「打算抜きの愛情を示す」こと。
 エンタメジャンルに親和性がない(生々しい問題)であろう社会問題を取り扱うこと。

 まずはイセコイとしてのロマンス要素を考えてみましょう。

 冒頭のシーンについては、あらすじの時制と1年ズレていたので、一読する時に戸惑いました。身体が縮むというイベントと、冒頭は21歳の誕生日前夜のこと。というのもありました。

「最大の試練(オーディール)」の前夜におけるヒーローとヒロインのやり取りです。基本的にイセコイで「二人はこんな関係性になります!」と、示していて「一年前はこんな感じ!」といったように「イセコイ」としてのロマンス要素を前面に出しています。

 ここは安定感がある要素でした。読者が「知りたい情報」として、作品のムードを示しています。

 次はテーマやフックについて。

 本文を読みすすめると。
 テーマがテーマです。難しいですね。

 社会問題化された課題をエンタメに落とし込もうとした作品はいくらか見たことがありますが。なかなか難しいテーマだと思います。

「生母との不和」

 このテーマを取り扱う人たちはいるのですが、作品全体を通してそれと向き合っていたり、問題の解決に望んでいる作品を智子があんまり触れたことがない。という、読者故の警戒感があります。
 ちゃんと、その問題に向き合ってくれるのか。呪いに関する情報を持っているのが、生母なのか。絡んでくれるのか。以前、全く絡まないで進行した物語に連続でぶち当たってしまったことがあります。

「答えを出せないことが答え」

 といったような、結論で締めたものがあったので。ちょっと警戒しちゃっています。

 この問題の難しい所って、当事者である「生母」の視点、情報、バックボーン、障壁とされる課題の打倒といった形でもう一人主人公を登場させる位の文量の割当が必要になろうかと思います。

 しかし、親との不仲に関する物語は、多くの人々に一体感と共に受け入れられると予想しています。

 一定の年齢層より上の世代の方々であれば人々の間での「長男信仰」とも呼ばれるような、兄弟姉妹間のヒエラルキーのような考え方を理解している人々もいるでしょう。

 婚活においても「長男は避けろ」」というテキストがあるくらいですから。現代の妙齢の男女において「長男信仰」はまだまだ健在です。この信仰をご存知ない方は知らないままのあなたでいてください。

 今回の場合は、呪いや不義の恐れとありますが。擬似的な「実子間でのネグレクト」的なテーマを取り扱おうとしています。

 作中で答えをだしてくれるなら、興味を持って読みたい作品です。

 しかし。

 色々とエンタメを触れたり、書いたりしてみてわかったんですが。

「感情的な高揚を求めるジャンルのエンタメ読者の多くは社会問題に関しての描写を望んでいない」

 ということは十分に感じ取っています。

 私はそういったものを好んで書こう(現在書いているのも、ムスリムをモデルにした、中東のイセコイです)としている書き手ですし、エンタメでそれを楽しんで摂取している人たちに「僕たちが大好きな関係性は差別的なんだよ」といういやらしいメッセージを乗せるタイプの書き手です。

 そして、この嗜好(答えの出しずらい社会的な課題)は少なからず「イセコイ読者」の皆さんにも当てはまるんじゃないか。とは思います。このテーマのチョイスがどう転ぶのか。予想が付かない領域です。

 冒頭のシーンを見るに、このテーマには深掘りしないかもですね。いや、するのかな。どっちだろう。

 書き出しとしての技術で見ると、イセコイのムードを確定させつつ「ネグレクト」をフックにします。という、絶妙なバランス感覚で提案されている作品でした。

 主人公は「決意した」シーンがあります。

 変化や決意を示すことが、物語全体のムードを確定させる要素です。

 主人公が「楽しい幼女ライフを送る」と決意することは、幼少期の頃の扱いの代償行為のようなものであり、彼女がその「穴」を埋めることができるのか。どんなイベントが用意されているのか。ある種、読者の期待値を高める要素になっています。

 この決意が「あらすじにも示されていた幼女ライフ」としてのそれなんですが。この決意や、それにかかる描写が鮮烈であり、主人公自身が「ふっきれている」感があるので「ネグレクトはフックにとどまるのか」という部分も思っています。

 上記の部分でなんちゃかんちゃ言いましたが。私が読む限り「提案されたテーマがイセコイにどう絡むのか分かりづらい」部分はある作品でした。

 でも、それを吹き飛ばしてくれるのが「タイトル」による物語の目的の提示が明確なため、別れようとするヒロインをつなぎとめるヒーローとの関係を基点にすることは予想がつきました。

 ロリコンとなじられつつも、なんのその。涼しい顔したヒーローを期待しています。冒頭のシーンが幼女体であるかどうかで、読者の傾向は変わるかもしれませんが。明確な描写をしなかったのは英断です。

 感想は以上です。ぜひとも、智子好みのドラマであることを期待したいです。

18.コソ泥令嬢が皇帝陛下の初恋を盗んだら

 どうして、この作品だけこんなに読後感が変わってくるのか。というのを考えるために、時間を置いて、読み直したりしていました。

 多分、理由が分かった気がします。

「女性向けイセコイ作品」の多くは「愛されることを」を基点に物語が展開していきます。野心をたぎらせたタイプの主人公像ではありません。どちらかというと「受動的」なキャラクター造形です。

 シンデレラストーリーという言葉から考えましょう。

 継母達に苛烈な復讐心を抱いたシンデレラを想像できるでしょうか。どちらかというと、想像しづらい方が少ないんじゃないか。私も想像しづらい。「おーいおいおい」と泣いているイメージ(今どき、おーいおいおいという泣き方はあるんでしょうかね……)です。

 今作の主人公についても「泣いて黙ってるタイプ」の主人公じゃないんです。

 合わせて、男性から向けられる賛辞の言葉について舞い上がったりもしない。

 陰口しか能のない連中に対して、『彼女は本当は心優しいんだ』なんて言う男もいるけれども、色香に惑わされただけの愚か者でしかないと思う。

本文より引用

 これは彼女の生い立ちに関するバックボーンも少なからず影響していることでしょう。

 令嬢の方々と比べると、少々過激な性質をお持ちであり、ストレスに対しての耐性がある。

 ここまで強いタイプであれば「物語に従わない」という選択肢も取れそうなものですが、それをさせないために「物語の動機づけ」を序盤にしています。

 この「動機づけ」の部分が、他の作品との差別化を生んだ所だと感じています。

 恋が目的じゃないのです。

 秘宝を含めた盗みを目的として、ヒーローに近づくことになります。

 翻って、私が「毛色が違う」と感想を残していましたが。「イセコイ」じゃないのか? というと、そういうわけでも無いのです。

 先程の引用にもあるように。

「男性たちからの好意」を素直に受け取ることはできないタイプであろうかと予想しています。

「彼女は心優しい」と賛辞を受けた時に「自己評価」とかけ離れていると自覚するため、その男性達を「愚か」と断じています。

 彼女に言い寄る男性たちの多くは「ヒロインの知性や、決断力、行動力」を評価しません。彼女はその点が評価されないことを内心不満に思っている、もしくは「読者への一体感」を与えるための要素として提案されています。

 それじゃ、ヒーローはその「愚か」な男性達と一線を画し、違う性質のキャラクターであることをアピールし「ヒロイン」との相性を示すことで、書き出しとしての「イセコイ」の期待値を見せてくれます。

「能力のある女性像」としてのキャラクターです。女性向け作品で好まれるタイプの女性像です。本企画で考えるならば、似たような性質の作品は数点ありました。

01.美貌の宰相様が探し求める女性は元気いっぱいの野太い声の持ち主らしい……それ私かもしれない

 女性蔑視的世界観や境遇の中にあっても、ヒロイン自身の有能さや、仕事への責任感等、現代の女性たちに求められる理想像のようなキャラクター性を内包した主人公です。ヒロインには一般的な保守的な思想の女性らしさとはかけ離れた部分を持って、評価されています。どっせい!

05.婚約者と書いて、ライバルと読む。負けず嫌い令嬢は、親友と呼ばれて複雑です

 男女の生得的なフィジカルの差を起点にし、女性でありながらも女性らしくない技能まで手を出す(負けず嫌いゆえに)ヒロインです。しかし、タイトルを見る限り「親友と呼ばれる」ことを複雑に思う程度には、愛されることへの欲望が見え隠れするタイプのヒロインでした。

07.秘する翡翠

 手に職持った職人がヒロインです。もう自立心で家が立てれるでしょう。

 例として、前半読んだものをあげましたが。

 作品に共通するのは「愛される」という部分への期待が高まる作品でした。作品の目的に「恋愛」が据えられています。

 しかし、本作(18.コソ泥令嬢が皇帝陛下の初恋を盗んだら)は見かけ上の課題が「恋愛ものメイン」ではないように見える構成です。

 物語の動機づけも「秘宝を盗む」という彼女の能力を活かすものです。

 似たような構成や、魅力の魅せ方はあったか。というと、思いついたものが一作あります。

10.封印されていた竜王に見初められ嫁に来ないかと誘われたので婿に来るならいいよと言ってみた

 この作品もヒーローは明確には不在ですが。タイトルからわもわかるようにある程度「ヒロインがアドバンテージを握っている」と予想できる「女性優位の態度」を示せています。おそらく、ヒーローがお願いしてへりくだりながら求婚してくれると期待しています。

 更には物語の動機としては「恋愛」を目的としているのではなくて、財政の困窮を避けるための「追い立てられての動機」です。

 似たような要素です。

 この部分から考えたいのは。

「外部的な要素(スリルや危険、必要にかられての行動)によって、物語が展開する形式のイセコイ」は珍しい色味になる。

 そして、その課題に対峙する。といった形式になるので「ヒロインの能力」を評価し、ヒロインの「性質」故にヒーローが魅力を感じる。といったカタルシスを用意するのでしょう。

 さて。

 ヒロインの「貧民街出身」のバックボーンゆえに、皇帝陛下のお眼鏡に適い、気に入られることでしょう。

 そして、二人の距離を縮めるのは「無条件に愛される」イベントではなくて、彼女の能力を活用し、それをヒーローが目の当たりにするなど。

「ヒーローがヒロインに惚れる理由」を繋いでくれるのだと期待しています。

 これもある程度、予想の段階ではあるので。二話目まで読まないと、作品のムードが確定しづらかったです。二話目読みたいと思わせるのには十分成功した作品だと思います。

 感想は以上です。


19.長年の恋を諦められはしないので。覚悟してくださいませね、騎士団長様?


 2月24日時点でこの感想を書いています。色々と感想を書き連ねつつ、他の方の投票の報告や感想もチラ見えしています。

 それらを見ながら、考えているのは次のことです。

 書き手が意識したい「イセコイ読者」は冒頭に何を求めるのか。

「イセコイ」というと、メインとなるのは「恋愛要素」であり、その恋愛要素を満たすであろう、両者の登場は重要でしょう。

 それらのターゲットの需要等もあって、レギュレーションは作成されています。

・4200字以内に、ヒーローを必ず出すこと。お相手がこの男だとわかるor匂わせること。(BL、GL不可)

募集締め切りました!!【イセコイ冒頭ミュージアム】企画概要

 基本的に「男女のラブロマンス」を想定した作品を企画の趣旨としているのは、需要に沿ったレギュレーションなのだろう。と納得しました。

 このレギュレーションを再度取り上げた理由は、本作がその力を十分に発揮した一作であるからです。

 イセコイ読者は「男女のラブロマンス」を読みに来ている人が大半です。

 そして「イセコイ×〇〇」の〇〇の部分で何を組み合わせるか。という部分で、皆さん様々なイセコイをご用意していますが。その時の組み合わせ次第で「ラブロマンス」の印象が随分変わります。極論すると「対人関係の物語」でしかないので、スケールの大きなものと組み合わせたりとすると、対比的に「ラブロマンス」が薄まったりする印象もあります。

 本作のように「メインとなる二人のやり取り」及び「二人を取り巻く関係性」等の描写に徹した作品は「イセコイ読者」というターゲットに深々と入り込む力がありました。

 バックボーンの描写に徹するだけでいいのか。というと、そういうわけでもなくて「次の展開」への誘導や示唆があると「読者がページをめくる理由」になります。

 その理由として「お茶会の招待状」というヘラルドの投入で、次なる展開を約束しました。

 この作品の印象がいい理由は「物語の目的が明確。打倒する課題も明確。楽しみ方がわかる」というこの点です。

 物語の目的は「幼い頃に心に決めた男性へ嫁ぐ」こと。
 打倒する課題は「婚姻に対して乗り気じゃないヒーローの存在」
 楽しみ方は「ヒーローに対して、積極的にアプローチを仕掛けて落とす(落とし方が用意周到でそれも面白み)」

 ここまで要素を丁寧に示されたら「これが読みたい!」と思える読者に見つけてもらえる作品です。

 イセコイというジャンルはやはり「キャラクター」がはっきりしていて、次なる展開への「引き」が明らかなものが印象強くなる。と予想しています。

 どうなるんでしょうね。今後の展開は。

 多分ですが、王女殿下のお茶会で何かしらのイベントないし「外堀」を埋めるようなヒロインの罠めいたものを期待しています。

 一番最初に示したムードを貫いて欲しいし、それを読者は期待している。一話目で感じた面白みを継続してくれることを願っています。

 しかし、この物語の難しい所って「二話目以降の敵対者(ヒーロー)の振る舞い」にかかっていると思います。ヒーローがヒロインの求婚を素直に受け取れない理由を「ヒロインが簡単に潰せてしまう」と、物語が終わってしまいます。

 このヒロインですらためらうような、課題をヒーローが提供できるのか。そこはとても気になる作品でした。

 どんな物語的困難を期待できるのか。

 気になるので、この部分ももう少し掘り下げてみようと思います。この作品はその点が上手な情報の出し方でした。

 今日の訪問なんて、ただの宣戦布告。十年かけて練った、ノービル様攻略作戦はここからだ。どう出てくるか読みきれない皇太子もいるし、ジョーカーもエースも惜しむ気はない。まずは最初の一手といこう。

本文より

 地の文によって、今後の展開にかかるムードを示しています。攻略作戦を私達読者は楽しんでいく。というのが、この作品の魅力であるのですが。「見える課題」として「皇太子」の存在を提示しています。

 しかし、この物語の「本質的な課題」は「ヒーローがヒロインの求婚を心から喜び、彼女を受け入れること」です。ヒロインの敵対者はヒーローである。といった、ちょっと変わった物語構成なのです。

 その時、ヒーローがヒロインを愛する上での障害や障壁となるものをイベントの中で巧みに示し、そしてそれらをヒロインの機知や行動力及び、ヒーローの決断によって大団円に導く形でピリオドを打てるでしょうか。

 その問題はどのような性質なのか。続きがあるのだとしたら、非常に期待して読みすすめる作品でしょう。

 感想は以上です。

20.知識を欲しがる美女と、禁忌を破り知識を持ってしまった少年

 チャレンジングな作品です。「謎」による誘引という同質のアプローチをしている作品がそんなに被りがないので、刺さる人には刺さりそうな作品です。

 Twitterでも書いているんですが。スリルとロマンスを組み合わせた作品です。基本的に「イセコイ読者」が想定しているラブロマンスとは随分色味は違うものでしょうが。スリル(食べられるかもしれないヒーローと食べちゃうかもしれないヒロイン)とロマンスの要素をメインにした上で、ヒロイン及びヒーローのバックボーン(知識を禁忌としている世界観)を「引き」として用意しています。

 特殊な世界観に準じた特殊なバックボーンを背負ったキャラクター達が登場しました。

 知識に関するものが重要な要素であり、知識の収集方法が「食べる」なんでしょうね。しかも、それは「欲情」に近い形でのそれのようです。

 後半に行けば行くほどなんかえっちぃですね。

 ヒロインはこのあと何度も「やっぱり食べちゃおっかな」と強い葛藤にさいなまれるのでしょう。知識を蓄えたら蓄えたほどヒーローを捕食したい欲望に駆られるのでしょう。

 二話目以降で物語のログラインが見える形で情報が提示されそうです。

 えっちぃなのはだめですよ。

 余談ですが。性欲と食欲に関する描写というのは似たような魅力があるなぁ。と思いながら読んでいました。

 少年と魔女は、世界観に対してどのような対峙を示してくれるのか。現状はまだ見えてこない段階でした。しかし、作品の「見せようとする魅力」の要素は十分に伝わりました。続きの文章で「謎」を満たしてくれることを期待しています。

 これも蛇足かもですが。

 色盲の少年がヒロインの紅色にだけわかるのは何かの伏線でしょうかね。私が色盲に詳しくないので、紅色だけわかるようなものがあるのかも。

 謎で読者を誘引しようとする作品でした。

 感想は以上です。

21.君のうなじを吸いたくて

 ひとりの少女が、緋のマントをメロスに捧げた。メロスは、まごついた。佳き友は、気をきかせて教えてやった。
「メロス、君は、まっぱだかじゃないか。早くそのマントを着るがいい。この可愛い娘さんは、メロスの裸体を、皆に見られるのが、たまらなく口惜しいのだ。」
 勇者は、ひどく赤面した。

走れメロス 文末より

 皆さん、大体キャラクターの顔を赤らめさせれば良いんですよ。メロスは可愛い娘さんと良い仲になったんでしょうかね?

 本作も最後に顔を赤らめています。

 蜜は顔を真っ赤にしながら、急いで浴衣を直す。
「人を呼んできますので」と会釈してその場を離れた。

本文より引用

 えっちぃ。審議です。レギュレーション大丈夫なんですか!? 智子の中の教育委員会から物申しが入るレベルでえっちぃです。

 さて。えっちぃかどうかは。各々の性癖に委ねるとした上で。感想を整理していきます。

 あらすじが梗概的な作品でした。こういった構成の作品は他にあったでしょうか。珍しい気がしますが。先の展開が約束されている。というのは、冒頭への描写や書き込みの量を増やすことが可能だったりします。

 というのも。この作品のムードは「時代劇風」の世界観です。

 イセコイといえば「ロイヤル」なムードの中で、眩しい髪の色のキャラクターが乱舞する。といったイメージですが。この作品はそこをガラッと変えて「時代劇風ダークファンタジー」を提案しています。

 読み終わった段階で、えっちぃ。というので、頭が占領されましたが。冒頭について考えると。「イセコイ」というよりかは、ヒロイックファンタジーとしての側面がある作品でした。

 人知れず妖の力を使い、人々を守る正義のヒロイン。

 しかし、彼女の力の均衡を崩すのは「彼女の恋心」であることもあらすじで示されています。

 ヒロイックファンタジーにおいて、設定される「スリル」というのは「主人公の能力自身」と向き合うことを「内的な課題」等に置き換えて行くことが一般的だったりします。本作も「彼女に取り憑いた妖の能力」自身が、彼女に牙を向くという期待で物語が示されています。

 この「ヒロイックファンタジー」的要素を汲み取って、そのイセコイとの組み合わせは珍しいですが。相性は良さそうです。

 こういう作品もあるんだな。と驚きながら読んでいました。えっちぃことだけで、頭が一杯になったわけじゃないんです。

 恋心がそのまま彼女を破滅に導きかねないスリルを二話目以降でどのように提示してくれるか。実際、彼女が恋心に囚われたときに「どんな困難」が待ち受けているのか。はまだわからない領域でした。そこが分かれば「物語上の課題及び困難」を予想して、期待しやすくなるかもしれません。

 感想は以上です。


22.人嫌いの王子妃となりましたが、わたし、幸せです。


 秀逸な冒頭です。

 妻を手放せなくなった夫から熱烈に求められるようになるのだという、期待を持てるあらすじでした。さらには「どうして離縁を求めるのか?」という読者の興味を満たす冒頭でした。

 あらかじめ離縁含みで、婚姻の考えがあったというのも本文を読めばわかりました。

 とにかく「読者の興味をもたせつづける」といった部分から情報の出し方が絶妙でした。

 ヒロインが婚姻に至るまでのバックボーン。パートナーが抱える課題(アレルギー症状)の提示などが。「物語上向き合うであろう課題」を提示していることが「物語を予想させる」力がありました。

 しかもこの「身体が触れ合うことに過剰反応をしてしまう」という設定が、ドチャクソ好みだったりする所があります。

 この性質と向き合い、最後にそれを「一時的にでも」乗り越えるなどの決断のシーンによって、ヒーローとヒロインは関係を進展させるといったようなイベントを期待しています。

 そのイベントはおそらくですが、冒頭で示された「隣国」との国際情勢の情報が密接にからみあうのでしょう。逆に、それで出てこなかったら物語上のノイズとなりかねないです。どんな作品になるんだろうか。キャラクター性よりかは、物語性に期待してしまう読者なので、魅力的なバランスに捉えた一作でした。

 この作品に限りませんが。

 解決するべき課題を持ち合わせているのは「ヒロイン」ではなく「ヒーロー」に付与している作品もちらほらみかけます。多様性ですねぇ。

 感想は以上です。

23.人形王の婚姻

 えっちかったですね。もうねぇ。

『結婚を前提に抱いてください』なんて言われたら、ルパン脱ぎでベッドに飛び込みたいヒーロー。智子です。

 さて。

 キャラクター造形が上手ですね。イセコイを好む女性読者との一体感を持てる境遇です。

 いや、皆さんそんなに王族の方々が世間に跋扈にしているわけではないのです。ただ、女性が何かの能力を発揮しようという時、女性への「セクシズム的」な要素から、ある種の侮りや、庇護的な態度等の描写といったものです。

 逆に女性の王様を担ぐ。というのも、政治的な理由から考えたら「国内での分裂」を危惧した宰相の考えもあるのやもしらんな。とは裏読みをしてしまうところです。

 さらには、この物語は「女性主人公の一人称視点」であるため「彼女が知らない部分ないし、彼女が知りようのない宰相の真意」はわかりかねる要素です。何をもって、断定的に申しているのかは不明ですが。この誘導的な物言いが「物語上どこかで宰相の立場が裏返る」シーンがありそうだと邪推しています。

 人形王というタイトルについて触れます。

 面白そうなタイトルですね。この冒頭シーンにおいて王様は二人登場します。

 ヒロインとヒーローです。

 見かけ上のことで言えば、ヒロインが「人形」のようなお飾りであること。を自嘲的に触れているタイトルですが。

 ヒーローもまた「人形」である可能性は十分にありそうです。

 武力によって王位を簒奪(どういう経緯かわからんですが。結構激しい方法)したヒーローが納める国とのよしみをつなぐということで、イセコイ要素を繋いでいます。

 物語というのは常にリズムをもって、どんどん振れ幅が大きくなるものです。

1:人形としての王である自己の発言力を高めるために隣国の王と関係を持つ

2:狙いどおり、発言力を得て、政治力を獲得する。

3:実はヒーローですらも、頭の上がらない操り主がいることを知り、次なる敵対者として登場する。

4:人形の王様である二人は協力して、新たな敵対者と対峙する。

 といったように、物語が展開するために「二転三転」させるためのタイトルなんじゃないか。とも思いました。

 短文タイトルというのはこういった「拡張性のある妄想」が捗ってしまいますよね。別にこの通りじゃなくてもいいんです。「読者に予想をさせた」というのが、効果的だと思います。

 政治的な話題をフックにしているので、ここらへんの部分からムードを変えずに、二話目以降も「政治の話題」を展開してくれることを期待しています。

 あと、えっちなのもお願いします。これはもうそういうものです。宿命です。書き出しに書いたムードは「作品全体の魅力」として読者に刷り込まれます。

 刷り込まれました。

 もしも、この作品がドラマ(主人公の精神的な成長及び課題と向き合う姿勢が存在するもの)である。という部分から見ると判断には迷う作品です。

 しかし、この「内的な課題」を念頭に置く作品を考えるとき「一人称作品」というのはその「課題」へ自覚的に言及することは望ましくありません。だって「自分の課題が自分で分かってたら、自分で修正できてしまう」からです。

 そういった「自分の課題」とされる要素は他者との対峙で、自覚的になるものですが。それを示唆するイベントは現状示されていないので「ドラマ的」というよりかは「メロドラマ的」要素に落ち着く作品なのかもしれません。

 感想は以上です。



24.全ては世界救済の為、我らこれより悪となる。

 Twitterでも書きましたが。アクセル全開の作品です。

 最初からクライマックス。俺たちの戦いはこれからだ!

 といった、勢いで情報が展開されていきます。

 さて。

 基本的に書き出しで「やるべきでないこと」というのは、書き手をしていれば薄々感じているセオリーはあるんですが。この作品はそのセオリーを全部踏み抜いていく書きぶりの作品です。

 情報量が多い。おそらくですが。「イセコイ」ジャンルによって求められる「ラブロマンス要素」によって「スパダリに愛されるないし、愛する」物語を期待している人々にとっては「ちょっと、世界と天秤を掛けた愛ですか。重ない!?」と、カテゴリエラーでも起こしそうです。

 しかし、そんなのは百もご承知の上で書いているのでしょう。

「この世界にはいないヒーロー」のために、物語上の課題に向き合う。という姿勢を示して、物語の方向性を示したことによって「作品の意図」を組み取れた読者には、届いた作品でしょうか。タイトルも「イセコイ」らしさではなくて、苛烈なムードを期待させるものでした。

 情報量の荷重のある作品世界を好む読者層は紛れもなく存在します。世界観は違いますが。SFなんかはその傾向があったりしますし、同様の需要を「ハイファンタジー」世界でも提案しようとしている書き手の方々をお見かけしたこともあります。

 おそらくその分野の書き手であろうかと思います。

 物語はどこを切り出すか。というのは、ありますが。この作品は「物語の中盤」あたりを切り出して、冒頭としています。故に後半の「感情的な高揚」を狙うために説明的な描写が前半に多くなってしまう傾向があります。

 個人的にはザクッと切らずに、最初から読んでも面白い作品だろうなぁ。とは思いましたが。

「ここにはいないヒーローのために努力するヒロイン」を書きたかったんだろう。とは推測しています。

 このヒロインは革命以前はどんな人だったんでしょうね。ある程度の冒険を重ね、成長を果たした後の彼女は、ヒーローを助けるための行動及びその相方として、第二皇子を引き込むことになるのです。

 すでに成長したあとのヒロインによる「ヒロイックファンタジー」となるので「実質的に成長を期待される主人公」は「第二皇子」にその役目が託されている構成だと予想します。

 こういった情報が多い作品のとき「誰が成長要素をもった主人公であるのか」といった部分で読者が迷子になる時があります。

 私は「この物語は主人公がスイッチ(第二皇子)したあとの物語だ」と捉えました。

 なかなかこれも挑戦的な方法だとは思いましたが。ヒロインの決意や、世界観への没入を期待した読者をどれだけ獲得できるか。できたか。

 それの結果が投票に現れる作品になりそうです。

 感想は以上です。

25.君を愛することはない、て言いたいんですよね?

 えっちくなかった。まだえっちくなかった。だけど、次のシーンでえっちくなると思っています。引きは十分。続きを読みたくなる。といった要素にはなりました。

「ええ。やるんすか! 兄貴! やっちまうんすか!?」

 といった感じの驚きで、ページをめくることにはなるんですが。

 作品中に提案されている「イセコイ」要素としては、ムードは十分に伝わりました。

 お互いに勘違いしたヒーローとヒロインを近距離ですれ違いさせ続ける。というラブロマンスの王道を約束した冒頭です。

「イセコイを読みたい」といって、やってきたターゲットの読者層達の「これだよ! これこれ! 大将! 分かってるねぇ! こういう待ってたんだよ」と言わせる位に、正統派のラブロマンスです。

 正統派ゆえにある程度「セオリー」はあります。

 おそらくですが。物語を展開させるために「初夜」は失敗する。といった形で、勘違いを継続させて、二人のお互いの思いを通じ合うまでを物語とする。正統派の動きを予想しています。

 もしもですが。

 二人が「やっちまった」あとでも、勘違いをし続ける。といった「体を通じ合わせたけど、お互いは勘違いしている」という要素であればぐっと「大人向け」のすれ違いものになりそうです。

 どっちにでも転がる要素の引きというのが、書き出しとしては「読み続けるかどうか」に迷いが生じる要素です。

 あらすじがない。というのも、そこらへんの「未知数」であることを引きとして用意したように思っていますが。どのように効果があるか。結果を待ちたい作品です。
 イセコイターゲットには十分届いた作品だと思いました。

 感想は以上です。

26.社交界で妖精とうたわれるシルフィア嬢、今日も今日とて敬愛する義兄へ毒を盛る

 不思議な書き出しのアプローチです。

 筆致や描写等で、読者を引き込もうとする向きの筆力のあるタイプの書き手ですね。三人称視点に徹した態度が、イセコイとしては珍しい力のある文体でした。

 さて。

 書き出しとはどうあったら効果的なのか。というのは、よくよく考えているんですが。多くの人々の反応を見るに「欲望を満たす」約束が大事なのだと思っています。

 その点で見たらこの作品は「書き出し」で読者を釣り上げる。ことにはいくらか失敗している点があるんじゃないかな。とは思っています。失敗というと、言い方が強すぎるんですが。物語の誘導を約束する。といった部分でしょうか。

 でも、この「誘導」の力自体は、ヒロインを描写する地の文であったり、彼女たちのバックストーリーへの語りや、ヒロインの態度及びヒーローの態度等に情報は仕込まれているんです。

 それは一見「イセコイで義理の兄とラブロマンスをするのだ」という読者への期待や誘導に満ちています。満ちていますが。それを「約束」してくれないシーンが後半に繋がりました。

 この情報量は「タイトル」「あらすじ」「本文」のすべてにおいて、情報量が拡大していない。

 同じことを再確認し続ける時間となっています。読者がこの作品に興味をもった(知りたいという欲望)部分は。

「どうして毒を盛るの?」

 といった興味です。そこを満たさなかった書き出し本文は読者を逃したんじゃないか。と予想しています。

 読者の期待を満たす。この「毒」の部分が分かれば「どんな期待を持ってこの作品の続きを読めるのか?」ということを安心させて欲しかったです。

 感想は以上です。

投票

 どうやって選びましょうかね。というわけで、智子なりの選び方を考えておきます。

投票の選好方法

 自分が好きな傾向の作品は「ドラマ」を約束してくれた書き出しです。

 それじゃあ。ドラマとはなんですか? というと、それは「外的な課題と内的な課題」の両輪が揃い、物語の結末に向かって進む作品です。

 外的な課題とは「目に見えてわかる、迫りくる課題や敵対者」です。
 内的な課題とは「キャラクター自身が対峙するべき精神的な課題」です。

 さらに、この外的な課題と内的な課題が物語の中で、必然とも言えるような組み合わせの妙味があれば最高です。

 しかし「イセコイ」というジャンルにおいて「ラブロマンス」を念頭に置いたとき「メロドラマ」こそ好まれる傾向はあると思います。

 例え方が非常にセンシティブではあるんですが。

「成人向けのエッチな本を読みたい智子」がいるとします(例ですからね?)。

 となれば、その内なる需要を満たすため、智子御用達のエッチな作家さんの本を買うことになるでしょう。

 その本に対して智子は期待しています。

「エッチなのを読むぞ!」

 という期待と下心に満ちています。

 そういった作品を考える上でまず満たすべきなのは「エッチなこと」です。とにかくエッチなものを求めています。

「エッチなシーン」のみで終わることは「メロドラマ的」です。
「エッチなシーン」のみならず、キャラクターの精神的な課題にまでタッチするものが「ドラマ的」です。

 その精神的な課題が「エッチなこと」と連携している作品は組み合わせの妙味を感じます。

 まず大前提として「エンタメ作品」はまずメロドラマ的要素を満たす必要があります。エッチな本なのにエッチな要素がなかった時、私は本を持って本屋の店員さんに愚痴りに行くことでしょう。

 翻って。この例を「イセコイ」ジャンルに適用すると。

 第一に優先するべき「メロドラマ的」要素はなにか?
「ヒロインとヒーローの異性間のラブロマンス」作品であること。

 次に智子が求める「ドラマ的」要素はなにか?
「両者ないし片方が抱える精神的な課題の解決」を期待できること。なお、それが「ラブロマンス」である必然性が保たれているとさらに嬉しいです。

「お前、注文多いぞ」

 と言われそうですが。仕方ありません。いいじゃないですか。好きなもの分かってるの大事です。

 それらの点から、投票先選んで、順番つけてしまえば良いんですよ。

 その二つが両立した作品を探せばいいのです。というわけで、虱潰しに探していきます。

 ジャンルへの理解度が深ければ深いほど、読者によって解像度が変わる所はあります。書き手本人の狙いと、読み手の受け取り側で「差」がある場合の参考にもなるように、全ての作品について簡単に分類してみます。

外的な課題重視の作品

01.美貌の宰相様が探し求める女性は元気いっぱいの野太い声の持ち主らしい……それ私かもしれない

 ラブロマンスとしての要素は多分に示されており、期待感があります。しかし、彼女が「ラブロマンス」を通して「何」を乗り越えるのか。内的な課題というよりかは「環境上の問題」に描写が集まっていることから。外的な課題重視の印象を得ました。

03.王太子殿下の婚約者候補に選ばれましたが、私が好きなのは従弟のほうです

『イセコイ』舞台でバチェラーをする。秀逸でした。出てくる令嬢たちが敵対者として振る舞うこと。ヒーローとヒロインの今後の関係性を連想できる情報量。葛藤も予想できて面白かったです。舞台装置が「特殊」であるため「外的な課題」を感じ取ることはできたのですが。「内的な課題」として期待される「精神的な成長」の片鱗はありませんでした。
 その要素は「ヒロイン」ではなくて「ヒーロー」に与えられるのかもしれません。冒頭の時点ではまだ見いだせませんでした。

04.永遠(とわ)を生きる聖女の、失われた記憶

 紛れもなく外的な課題(記憶の健忘)の物語です。おそらく内的な課題にもリンクできそうなのですが。冒頭のみで見ると、その要素を「読者に推測させる」程度にとどまっているので、外的な課題重視の作品です。
 ヒーローの葛藤こそが、この作品の美味しい所だと思うので、そこを汲み取れている読者は投票先として印象強い作品だと思っています。


06.かつて身分差の恋で結ばれなかった恋人の生まれ変わりを見つけたら、これまで塩対応してきた王太子でした

 生まれ変わりという舞台装置を通して、展開されるイベントの情報量は十分ですが。「内的な課題」としての要素はまだ見られない作品でした。生まれ変わり。記憶等をフックとした作品は一種の「人格のリセット」のようなものが起こるので「内的な課題」の設置は難しい構成だと感じています。

07.秘する翡翠

 一見すると、両立する作品に見えないこともないのですが。明確な誘導が見当たらない作品でした。
 多分ですが、駆け落ちを受け入れることで起きるであろう、不利益等を書かなかったというのもありそうです。

 王の意向に逆らうことの「危険性」が明示されないことで、駆け落ちにかかる葛藤が薄くなり、ドラマよりメロドラマ的要素の強さが出たように感じます。

08.妖精くれた魔法の指輪

 外的な課題ですね。基本的には「変身する魔法の指輪」を通して、様々なイベントに介入していく。という物語の基本構成は期待できるところです。その「ビキニアーマー」に身を包んだヒロインを前に、ヒーローとの関係性が進展する。ないし、反応がいまいちであるとか。他の要素も組み込めたら、また印象は変わりそうな作品です。

09.失踪王子の代役〜片割れ王女と気づかれないまま、兄の側近から告白されそうです〜

 おそらく、敵対者でもありうる「兄の側近」が成長するタイプの作品であり、内的な課題を彼が有していそうな作品です。冒頭だけ見れば「外的な課題」として期待できるのですが。二話目以降。ヒーローの視点等になれば「ドラマ的」な作品に切り替わりそうです。
 しかし、今回は「冒頭の文章」で考えた時にこの分類になりました。

10.封印されていた竜王に見初められ嫁に来ないかと誘われたので婿に来るならいいよと言ってみた

 おおよそ『09.失踪王子の代役〜片割れ王女と気づかれないまま、兄の側近から告白されそうです〜』と同じような考えです。外的な課題や、環境情報を提示することで物語への期待感を高めた作品です。惜しむところは、ヒーローが最後の最後にちょこっと出る程度す。「イセコイ」としてのムードは不明なまま期待感が膨らんでいる作品であることでしょうか。ヒーローが「成長」する要素があるんじゃないかな。と思っております。

11.魔法学院の一流クズ教師が求婚してくる理由

 外的な課題の作品です。胡散臭いヒーローがヒロインに求婚する。といった作品であり、その求婚してくる理由自体を「作品上の引き」としている冒頭でした。
 物語の根幹にかかる部分であり、それ自体がヒーローの行動原理にも近いものがあるでしょう。その内容次第で、内的な課題にもスイッチしそうな作品には感じました。

12.犬獣人の従僕の溺愛は、姫君には忠義と映る

 おそらくですが。イセコイ主体の作品としてのムードではなかったです。溺愛はスタンダードであり、その姿勢が伝わらないことをヒーローは不満に思っていません。序盤なので、まだヒーローのスタンスが見えるものではないですが、この情報量であれば。イセコイというよりは「留学にかかる試練」にフォーカスする作品なのだろうと予想しました。

13.ガラスの花の乙女と結ばれる真の恋は「366日」前から始まりました。

 外的な課題の作品です。描写の態度が「映像的」であることを意識しているのか。ヒロインの激しい怒りの理由等を、描写しない視点で描き続けていることも「外的な課題」重視の作品であるように受け取った作品でした。


16.好きな人にだけ発動する落とし穴魔法を身につけてしまいました…

 好きなんですがね。要素だけ見ると「外的な課題」に終始した作品です。その恋心に対してヒロインがどのようにアクションをするのか。周囲は「落とし穴魔法の真相に気付いているのか」といったように「物語が動き出す」所まで見えていない冒頭です。
 恋にどんな障壁が用意されているんでしょうね。

18.コソ泥令嬢が皇帝陛下の初恋を盗んだら

 外的な課題重視の作品です。基本的なエンタメの構成として優先されるのは「外的な課題」による読者の引き付けが強いタイプの作品でした。おそらくですが、内的な課題に関しても「設定」はされてる作品だとは思っています。しかし、それが作品上の「書き出しの優先度」では高くなかったのでしょう。
 女嫌いの皇帝陛下だなんて、絶対に何か課題抱えてるでしょ。

19.長年の恋を諦められはしないので。覚悟してくださいませね、騎士団長様?

 外的な課題が満載の作品です。一番の障壁は「求婚を飲んでくれないヒーロー」なのでしょうが。その壁の突破のためにあの手この手で求婚してくれるアグレッシブなヒロインです。感想でも触れたんですが。おそらく、内的な課題とされる要素はヒーローにあるのだろう。と期待しています。しかし、冒頭ではそう見えるものでもないので。外的な課題による誘引で読者をグイグイ引っ張っていくタイプの作品でしょう。

20.知識を欲しがる美女と、禁忌を破り知識を持ってしまった少年

 捕食系ヒロイン。特殊な世界観。色盲の少年(赤色は認識できるようですが)の話。
 外的な課題満載ですが。おそらく「内的な課題」と世界観がリンクしている作品のようには見えます。しかし、「冒頭の情報量だけ」で推測が難しかったです。というのも、ある程度「ジャンルとして浸透したテンプレ」でもあれば、誘導は可能なのですが。

 知識を拾得するために、ヒーローを捕食したがるヒロインというのは独創性があるので、もっと強めの誘導を必要とするタイプの冒頭のように感じました。

21.君のうなじを吸いたくて

 この作品も外的な課題が多めの作品でした。時代劇風というのもあって、描写が重くなる傾向のある作品でした。そうなると、映像的な描写と、戦闘シーン等の印象は強いのですが。その映像の中で「内的な課題」を連想させる要素まで提案は難しかったのかもしれません。
 あらすじには「恋心」が何かしらの引き金になることは予想しています。

 蜘蛛で捕食。女郎蜘蛛的なものを連想しちゃいますよね。

23.人形王の婚姻

 外的な課題の作品です。物語を追い立てるように彼女の環境情報が提示されていて、それらとの軋轢や課題を解消するために、ヒーローを籠絡する。といった力のある女性キャラクターのように描いています。

 理由のある官能的なシーンに仕立てている作品でした。一人称作品という視点の制限もあり、キャラクターの役割のスイッチを考えると。タイトルからして「内的な課題」を予想できるのですが。それを約束できる文言も見当たらなかったので、ここの分類になりました。

24.全ては世界救済の為、我らこれより悪となる。

 起きた事実。これから迫るであろう危機等を描いているので、こちらの分類です。おそらくですが。どこから切り出すか。で物語の性質がガラッと変わるタイプです。スケールの大きな物語なので、見せ方次第で「内的な課題」の断面を見せることが可能な作品だと予想しています。

25.君を愛することはない、て言いたいんですよね?

 勘違いもの。すれ違いもの。だとは思うので、内的な課題に関しても十分期待できるポテンシャルはあるのですが、いざ初夜! レッツ初夜! で引きとなったので、頭が外的な課題でいっぱいになりました。

26.社交界で妖精とうたわれるシルフィア嬢、今日も今日とて敬愛する義兄へ毒を盛る

 ヒロインに毒を盛られるヒーローなんて、スリルに満ちた展開です。外的な課題満載です。
 これは内的な課題を孕んでいることはみえみえなんですが。どんな種類の課題なのかわからない。というのは、個人的な選好をする上でネックになりました。

内的な課題重視の作品


02.雛鳥は黄昏星の檻の中
 挑戦的な重言表現であったり、命名規則からもわかるように「成長」を期待できる名前を用意するなど。精神的な課題を重視していて、そのためにイベントが展開されることを期待できました。イセコイとしては「婚約破棄」としてのテンプレ要素を導入する等、一定の「お約束」も踏襲する等の姿勢も見せてくれていました。キャラクターの課題は明確ですが、物語の誘導にかかるであろう「次のページにどんな危険があるのか?」という引きの部分で見ると「外的な課題が少し薄い。プロローグのような印象」にとどまった作品でした。

外的な課題及び内的な課題が両立した作品


05.婚約者と書いて、ライバルと読む。負けず嫌い令嬢は、親友と呼ばれて複雑です

 ラブロマンスの構成として基本的にですが。すれ違いもの。勘違いもの。というのは「外的な課題と内的な課題の両立がしやすい」要素はあります。

 お互いがお互いを思う故にすれ違いが発生する。という、明らかな課題によって物語が展開しているからです。
 この作品も基本的には「すれ違い」要素のあるラブロマンスとして存在していて、あらすじにもある当て馬的なヒーローの存在が拍車を掛けています。

 負けず嫌い要素が彼女の欠点として、描写されていくのか。そこの答えをどのように提示するのかも強い興味があります。

14.好みドストライクな暴虐公爵様に「君を愛することはないから安心してほしい」と言われましたが、ごめんなさい、私は愛してます。

 ヒロインのシーンとヒーローのシーンが併存している作品であり、彼らの婚姻に関して、多くの人々が動いていること。プライベートな婚姻の話題と、ヒロインが抱えているであろう「余命」の問題や。ヒーローの課題などが、絡み合って「好転」することを期待できる要素でした。

 内的な課題を保持しているであろうヒーローの活躍を期待しています。

15.小柄な竜に恋をした、不器用な治癒術師 ~バルツクローゲン魔法学院、教師の職場恋愛物語~

 この作品に限らずですが、ヒーローに内的な課題をもたせる構成の作品は「イセコイ」として一般的なものなのかもしれない。と感じた作品です。ヒーローの抱えるものは重いですが。それを取っ払ってくれるヒロインの活躍を読みたいです。


17.幼女になった呪われ嬢は、婚約者を解放したい

 イセコイとしてのテンプレ世界観のなかで、内的な課題への直接的な描写に踏み込んだ作品ははじめて見たかもしれません。冒頭もホットスタート形式であり、エンタメの書き出しとして勢いのあるものでした。

22.人嫌いの王子妃となりましたが、わたし、幸せです。

 この作品もヒーローに内的な課題を付与しているタイプの作品です。自然と「愛される」ための物語構成となる作品は読んでいて、安心感があります。

投票報告

 Twitterでタグを活用して、次の通り投票しました。



最後に

 基本的に私の選考基準である「ドラマ性」のある作品についてですが。多くの作品は「ドラマ性」足りうる要素を内包しています。作劇上の都合でそれを「見せていない」構成の作品もたくさんあるように感じております。ただ、私が「冒頭の4200文字」で作品の構造を約束してくれる作品が好み。という基準で選んでいます。選ばれなかったからといって、ショックを受ける必要はありません。

「こんな選び方する人もいるんだな」位に捉えてください。

 むしろ、エンタメ性を優先した時は「外的な課題」が強いアピールをするものです。

 まだ、投票終了(2月29日お昼12時)まで猶予があります。興味をお持ちになった方は一読してみてください。イセコイジャンルに固定していたとしても、幅のある冒頭が展開されていて刺激になると思います。

 私は存じ上げなかったのですが。企画の目標としては「60名」の投票を掲げているようです。

 現在、私が観測する範囲では48人目の投票となっている予想です。

 あと12人ですね。

 企画の大成功を祈念し、感想の記事をここでまとめます。

 楽しい企画でした。また、機会があれば。色々と楽しませてください。


結果発表に伴う所感(後夜祭)


 この追加項目を記する理由について。「名前を申してはいけない祭り」に関してもそうですが。結果発表を受けてからの「読者としての感性と一般読者との投票の乖離」を意識するためです。

 触れる作品は上位の作品及び「自身の想像していた投票の傾向から外れた作品」等についてピックアップしてみます。

投票の集計結果

 智子の投票先は次の通り。さらには、そのタイトルの横に順位及び得票数を併記します。

投票先及び結果


1位票:14.好みドストライクな暴虐公爵様に「君を愛することはないから安心してほしい」と言われましたが、ごめんなさい、私は愛してます。(17位:83ポイント)

 意外といった感想です。内的なドラマと外的なドラマが噛み合うであろう要素が提示されていた冒頭でした。上位の作品と比べて、明らかに違う部分というのが「ヒロインのスタンス」が描写上抑えられていることでしょうか。その部分が「冒頭のみで競う」といった場合にネックになったのかもしれません。

 もうすでに、短編作品として公開されています。智子は読み終えております。

 情報を追ってみれば「短編として仕上がったもの」を冒頭でざっくり示した作品とのこと。話数として切るのではなく、まとまった作品として一気に読み終える短編形式である構成の作品でした。

 冒頭で大事なのは。
「イセコイ」としての「物語上のヒーローとヒロインのムードを明確にする」という約束なのかもしれません。短編として読む時の「ほら、やっぱり! 幸せになるのよ!」といった「探るような、確かめるような読み味の作品」は、企画の性質上得票に繋がりづらかったのかもしれません。


2位票:22.人嫌いの王子妃となりましたが、わたし、幸せです。(8位:113ポイント)

 実はもうちょっと上に行くんじゃないか。と思っていました。自立心のあるヒロイン。課題を抱えたヒーロー。ドラマ性もバッチリ。ヒロインが「キャッチーな能力も有している」等、エンタメ性を期待できる要素があります。
 ヒーローの懊悩をニコニコしながら聞き耳立ててる。なんていう、コミカルなシーンもありました。

 他の方の作品や順位を元に、色々と考えているのですが。「ヒロインの性質(自立心の有無)」は得票を考える上でさほど影響はないのかもしれません。多くのヒロイン像がイセミュ企画で存在していました。

 大事なのは「イセコイとして今後どのような展開を期待できるのか?」というインパクトが大事なのかも。これも上位陣の並びを見て、思ったところです。パートナーへの配慮や、傾聴し、察する力という部分はエンタメとして見ると、少々「インパクト」に欠ける要素として見られた可能性はありそうです。

 彼女が持つ力や能力が、(さらに)キャッチーなものであればまた並み居る上位陣をなぎ倒すポテンシャルを期待できる作品でした。


3位票:15.小柄な竜に恋をした、不器用な治癒術師 ~バルツクローゲン魔法学院、教師の職場恋愛物語~(18位:69ポイント)


 バチクソ面白い作品でした。好きでした。しかし、順位が振るわなかった。やはり、イセコイ関連で見ると「二人がどんなラブロマンスのムード」を出してくれるのか。というところが「イセコイ読者のニーズ」なのかもです。

「イセコイのムードとして、どんなもんなんや。智子、プレゼンしてみぃ」

 とイセコイ親方に、作品の紹介をしようとすると。苦しい作品ではありました。

「ワシにどんなドキドキを提供してくれるんや?」

 という部分から見ると「チャイルドソルジャーとしての過去を持つ不器用なイケメン教師と、人化の術を施した小柄な可愛い系ヒロインがラブコメします!」

「で、どんなムードなんや? ヒロインは顔を赤らめるんか? イチャイチャを期待できるんか? ニヤニヤできそうなんか?」

 という、イセコイ親方の尋問に答えられるか。というと「もうちょっと確認します」といって、資料持って引き下がることになりそうです。

 ポテンシャルが高い作品です。キャラクターの設置であったり、ヒロイン達のバックボーン等「ドラマ性」を強く期待できます。だけど「ターゲットとするイセコイ読者の根源的な需要」を冒頭では分からなかった。

 この部分がネックになったのでしょう。

 ぜひとも続きを書いてほしいです。魔導書を担いだかわいい系女教師。日本中が沸きます。応援しています。

4位票:05.婚約者と書いて、ライバルと読む。負けず嫌い令嬢は、親友と呼ばれて複雑です(14位:88ポイント)

 キャラの魅力と、作品上の内的な課題性のみで突破する事はできないのだなぁ。とイセコイ読者の皆さんの審美眼が厳しいのを感じ取りました。

 冒頭というのは「物語の楽しみ方の説明書」みたいなものです。その点で考えていくと、上位の作品が丁寧に整っている部分は納得しています。実際本作について「負けず嫌い令嬢」の負けず嫌い要素によって、イベントが展開されることは期待できる冒頭なのですが。具体的にどんなイベントが展開されて、そのイベントにヒロインがどう対応していくのか。という、先のログラインを示すほどの誘導まではなかった作品だったようにもお見受けします。

 やはり、深度のあるジャンルであるため、読者の皆さんも目が肥えているように感じます。

 この分野のジャンルにちょっと興味を持ち始めて、勉強も兼ねて読み手として参加しましたが。多いに収穫のある作品でした。

 この匂わせ程度では、イセコイターゲットが満足してくれないのだ。と旗から見ていて驚いた作品です。負けず嫌いだけど、心と体が追いつかない。そんなヒロインとヒーローの懊悩を私は楽しみにしております。


5位票:17.幼女になった呪われ嬢は、婚約者を解放したい(9位:108ポイント)

 この順位は正直。意外でした。
 内的な課題(幼少期のネグレクト)に足突っ込んだ作品だからです。
 内容が内容で、ネグレクトに近い要素のある作品であるため。「エンタメ」を好む読者帯からは敬遠されるテーマ性のようにも感じていました。もしかしたら、順位は振るわないかもしれない。と思っていました。

 しかし、タイトルが秀逸であり、最後まで読ませる筆力も十分。ヒーローとのムードの約束(冒頭のシーン)もある。など「タイトルで読みに来てくれた人を絶対に逃さない」といった力も感じました。

 構成次第で、どんなテーマでもイセコイ読者は食らいついてくれるのだ。という部分を期待できる結果です。

上位作品を確認して、もろもろの気づき(まとめ)


・ヒロインの性質について

 結構自由度が高いと感じています。「ラブロマンス」によって、異性のパートナーを獲得し「出生主義」を前提とした異性婚(ロイヤルな貴族社会が多いジャンル」であるため、そもそもの段階で「読者の多くは保守的な思想の持ち主」であることは明確です。

 しかし、現代人は「人権教育」の観点から、必ずしも「保守的思想」のみで、社会が展開されているわけでもありません。

 そういった理想と現実が内包する矛盾(リベラル的価値観と性淘汰的なパートナーの選好」などがあるため、一定「弾力性」のあるエンタメコンテンツの需要が見受けられます。

 結論から言うと。「ヒロインの傾向にさほど影響はない」と感じました。もちろん「自立心」のあるヒロイン像が好まれる等は感じ取っています。

「出生等を前提とした貴族社会で女性が求められるセクシズム的な役割を請け負うヒロイン」であったとしても、十分な票を獲得していました。

 この分野においては「どちらのヒロインであっても、読者ターゲットは受け入れる」土壌のジャンル故でしょう。

・イセコイとしてムードが決定的

 このことは上位作品に強い共通点でした。イセコイをメインコンテンツとしているので「どんなイセコイ」になるのか。が明確な作品ほど「届くべき読者」に届いた作品であることを顕著にした集計結果だったと思います。

 あまり、票が振るわなかった作品についてです。一作一作目を通したらおわかりになると思いますが。

「読んでも意味がわからない。楽しみ方が不明」というような作品はなかったんです。だけど、投票にかかる順位の差を分けるとしたら「イセコイ読者に即座の訴求があったか」という部分で、票が別れた結果のように見受けました。

 冒頭の書き出しは「物語の説明書」です。誰のために、どんなムードで、作品を提供しているのか。

 今回はその相性を理解した作品が順当に上位を占めたように思いました。

 これで、智子のイセミュ企画の感想をまとめました。

 勉強になる楽しい企画でした。参加者の皆さん。主催者の長岡さん。お疲れ様でした。

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