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二重敬語の行く末

私は暇な時よくヤフーニュースを見ています。
最近こんな記事を読みました。

「お客様がお見えになられました」と言ってはいけない…多くの人が陥りがちな日本語の間違った使い方

名刺交換で「ちょうだいいたします」は大間違い…ビジネスシーンで頻繁に見かける「恥ずかしい日本語4」

まあよくある「使ってしまいがちな誤った日本語紹介」記事です。

このような記事で私が毎回気になってしまうのが、二重敬語の扱いです。
上の記事のタイトルに含まれる表現も、二重敬語だから間違いという結論になっています。

国語の授業や社会生活で「二重敬語は間違った日本語だ」ということはよく聞きますが、「なぜ二重敬語は間違った日本語なのか」という点について論理的に明快な説明を聞いたことがありません。

一応「皇族など非常に身分の高い人物にのみ使われていた表現だから」や「冗長でしつこいから」、「過剰で逆に失礼になるから」といった説はあります。上のリンクの記事でも「慇懃無礼」と言われています。

しかしどの説にも反論が可能です。
非常に身分の高い人物にのみ使われていた二重敬語――最高敬語――は、敬語の中でも尊敬語に限られます。「拝見致す」のような二重謙譲語はそもそも歴史的には使われていませんでした。
「おっしゃられる」と言うと拗音とラ行音が連続してしつこい感じがしますが、「頂戴致す」や「来臨なさる」という表現は響きに引っ掛かる箇所はなく、特に冗長な印象は受けません。
「お召し上がりになられ給います」のように敬意表現を三つも四つもつなげられると馬鹿にされている気分になるかもしれませんが、二重程度で無礼と腹を立てるのは深読みしすぎで狭量ではないでしょうか。

二重敬語を「間違った日本語である」と断罪する理由として、いずれの説も弱いように思えてなりません。

また江戸時代末期から明治時代前期には「お○○なさる」という、今では二重敬語と判定されかねない表現が普通に使われていた様子が見受けられます。「おいでなすって」「おひかえなすって」「お黙りなさい」もこのタイプです。

ところで、日本語の敬語には「敬意逓減(ていげん)」あるいは「敬意漸減(ぜんげん)」と呼ばれる法則があります。これはある敬語が使われ続けているうちに、包含される「敬」の意味合いがどんどん弱くなっていく現象のことです。

二人称の「貴様」や「お前」が代表的に挙げられる例で、どちらも本来は字面通り貴人に対する尊称であったのに、時を経るごとに敬意が下がり、今では「お前」は同等かそれ以下に使う語、「貴様」に至っては罵倒語にまで堕ちてしまいました。

現在「させていただく」という表現が乱用傾向にあるという意見を聞いたことがあるかもしれませんが、それもこの敬意逓減の法則が影響している可能性があるようです。(下リンクの記事参照)
「させていただく」が急増している理由、使用の賛否に世代間ギャップ

そもそも二重敬語に関する記事が「使いがちだけど実は間違っている」というスタンスで書かれているということは、裏を返せば、多くの人が何ら引っ掛かるところなく使っているのが現状とも言えます。

敬意逓減の法則により既存の敬語から徐々に敬意が失われていった結果、いわゆる“正しい”敬語では敬意を表せている自信がなくなり、二重敬語で補強するようになったのが実態と捉えるのは荒唐無稽でしょうか。

もしそうであるならば、教科書的には誤りとされる二重敬語が、いずれ正しい敬語となり、“一重敬語”は失礼とされる時代が来るやもしれません。

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