いまも現役のコロニアル建築 「中央郵便局」
初訪 2012.06 更新 2021.11.01
かつて「東洋のパリ」とたたえられた、
ベトナム・ホーチミン市。
街には、フランス統治時代に建てられたコロニアル建築が点在し、多くの観光客が訪れる定番の観光スポットになっています。思わずカメラを向けたくなる美しい建築は、ベトナムにきたら必ず一度は見ておきたいところ。
今回は、そんなコロニアル建築の中から、
ホーチミン市最大規模の郵便局「中央郵便局」を紹介します。
中央郵便局とは
フランス統治時代に5年の歳月(1886年〜1891年)をかけて建てられ、竣工からおよそ130年が経ったいまも、現役で郵便業務を行う郵便局。
設計は、フランス人建築家のヴィルデュー(Auguste Henri Vildieu)と、アシスタントのフォールー(Marie Alfred Foulhoux)が手がけ、アーチを描く鉄骨天井には、エッフェル塔で有名なエッフェル(Gustave Eiffel)が関わっているといわれています。
フランスの駅をモデルに建てられているため、どことなく漂うヨーロッパの駅舎のような雰囲気…。
隣にある「聖母マリア教会(Nha Tho Duc Ba)」と合わせてウェディング撮影の人気スポットにもなっています。
外から見てみよう
パリ・コミューン(Cong Xa Paris)通り沿いに建ち、
外側から見た構造は、両サイドが2階建て、中央は3階建て。
たくさんの窓が並ぶため空間が細かく区切られているようにも見えますが、局内は意外にも、天井の高い開放的な空間が広がります。
シンボルのような丸時計の下には、建築期間(1886-1891)を示す装飾も。
時計の上部にある文字
Buu Dien Thanh Pho Ho Chi Minh は、それぞれ
Buu Dien = 郵便局
Thanh Pho Ho Chi Minh = ホーチミン市
の意味で、「ホーチミン市の郵便局」を意味しています。
マニアックですがよく見ると「BUU DIEN」のフォントが、下に向かって窄まっていてかわいいです。
窓の上部に並んでいるこの装飾は、
電信・電気分野の発展に貢献した科学者たちの名前。
たとえば、電池を発明したイタリアの発明家「アレッサンドロ・ボルタ」や、雷が電気であることを証明した "アメリカ合衆国建国の父"「ベンジャミン・フランクリン」などの名前が掲げられています。
装飾にはギリシャ神話の神々などもあり、全体的にヨーロッパ建築の雰囲気が漂うのですが、中にはアジアを感じる部分も。
それは、屋根に連なるモチーフの部分。
視線を高く上げると、「クメール寺院の芸術に触発された屋根の装飾モチーフ(Vn Express)」が目に入ります。
郵便局両側のミニガーデンには、サイゴン成立300周年の際に建てられたモニュメントも。
郵便局といえば、の郵便ポストもあります。
ミニガーデン前の道路脇に、この黄色いポストが2つ。
手紙を出すポーズをとって、写真を撮ってみるのも楽しそうですね。
ポストには実際にハガキや封書を投函することができ、投函口は左が「サイゴン(ホーチミン市内)」、右が「その他」と2つに分かれています。
集荷が AM 11:25 の1日1回のみ(日祝休み)なので、日本に手紙を出す場合や急ぐ場合は、局内の窓口に出す方がより確実で安心です。
色問題
竣工時の外壁は、黄色だったといわれる郵便局ですが、
いまから10年ほど前は、かわいいピンク色でした。
これはこれで異国情緒漂う、素敵な佇まい。
(私の写真に残っている範囲では、2012〜2015年頃はピンク色でした。)
そして、2015年。
1975年以降で最大規模となる塗り替え作業が行われました。
新しい色は、竣工時と同じ「黄色」。
ですがなかなかポップな色味だったため、市民から「鮮やかすぎる」との批判が相次ぎ、最終的に淡い黄色に塗り替えられて現在に至ります。
↓ それでは、局内に入ってみましょう。
局内に入ってみよう
足を踏み入れるとまず目を奪われるのは、正面に構える鉄骨アーチの天井。空間を大胆に使った迫力ある造りで、奥に長い蒲鉾型の空間が印象的です。
天井や側壁から巧みに太陽光を取り込み、自然な光に包まれている局内。
正面奥に掲げられているのは、ベトナム建国の父ともいわれる「ホー・チ・ミン(Ho Chi Minh)」氏の肖像画で、すべての現行紙幣に印刷されているホー・チ・ミン氏は、国民から親しみを込めて「ホーおじさん(Bac Ho)」とも呼ばれています。
この郵便局には、モデルになったとされる建物があり、
それが、現在オルセー美術館になっている、フランス・パリのオルセー駅。
↑かつてのオルセー駅。
郵便局と見比べてみると、構造的に似ているのが分かります。
それでは、細部に隠れた見どころも見ていきましょう。
柱の上部に施された、フレンチスタイルの意匠。
鉄骨の間にはよくみると花の装飾が。
シャンデリア周りのアイアンも、きれいな曲線を描いています。
カウンターの裏に覗く、透かし窓も素敵。
入り口の両側には、アンティークの電話ブースがあります。
歴史を感じさせるクラシカルな電話ブースには、電話が置いてあるところもあれば、ATMの機械が入っている場所も…
過去と現代が入り混じる空間は、少し面白くもあります。
↓ 電話ブースの上部にあるのは、保存状態のいい2つの地図。
入り口入って左側には、
南ベトナムとカンボジアの電信網(1936年)を表す地図。
右側には、
サイゴンとその周辺(1892年)を表す地図が描かれています。
※ サイゴンはホーチミン市の旧名です
駅舎をモデルにした郵便局にいると、
どこか感じる異国の駅のような雰囲気。
100年以上磨かれてきた木製ベンチに座っていると、ふと、ヨーロッパの鉄道駅で次の電車を待っている気分にもなります。
足元のセメントタイルもかわいいです。
タイムスリップ気分に浸ったり、手紙を書いたり、写真を撮ったり。
暑い日差しと町歩きに疲れたら、ここでひと休みしてみるのもいいかもしれません。
おみやげをチェック
郵便局のカウンターに囲まれた中央部分では、切手やポストカードなどちょっとしたおみやげも販売しています。
テーマ別のセット販売がメインの切手は、
およそ3〜10万vnd(約150〜500円)。
たとえば、北部のドンホー版画や、色鮮やかなハンチョン版画、水上人形劇やホーおじさん関連など。ベトナムらしいモチーフの切手が並んでいます。
※ 切手は使用済み切手が中心
※ 上の写真は、私が主に郵便局で買った切手です
現在は、コロナの影響により休業中ですが、
入口両側の通路でも、ベトナム雑貨などのおみやげを販売しています。
観光名所ということで値段は少々割高ですが、名所を見ながらおみやげをチェックできるという点で便利です。
ということで、仏領時代の面影を残す
貴重な建築遺産「中央郵便局」。
往時に思いを馳せながら、
より楽しい街歩きに出かけてみては。
郵便局の周辺には、
徒歩約1分の場所にブックストリートといわれる書店街(写真上/Nguyen Van Binh 通り)があるほか、徒歩圏内にコロニアル建築が点在しています。
郵便局の前にある「聖母マリア教会」から、サイゴン川に向かってまっすぐに伸びるドンコイ(Dong Khoi)通りは、観光のメインストリートであると同時に、コロニアル建築のメインストリート。
・市民劇場(Nha Hat Thanh Pho)
・ホーチミン市人民委員会(UBND TP.HCM)
・コンチネンタルホテル(Kach San Continental Sai Gon)
などが通りの周辺に集まっていて、
通りを歩けば、建築を愛でながらショッピングも楽しめます。
中央郵便局
Buu Dien Trung Tam Thanh Pho
住 2 Cong Xa Paris, Q.1, HCMC
営 8:00〜17:00 (見学自由)
電 028-3822-1677