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私は家を守らない女

次女は、比較的よく寝る子だった。

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産後退院して、長女と次女を連れて実家にしばらくお世話になった。
1.5ヶ月か、2ヶ月ぐらいか。
産前から居たので、結構な長期でお世話になった。

ちなみに、実家と自宅の距離は車で20分くらい。
近い!
それなのに、里帰り出産みたいな真似をしたのには、ワケがある。

とてもシンプル。
同居の義父と、まったく仲良くなれそうになかったから。

次女を授かったことが分かり、報告すると、義父は家探しを始めた。
夫にも、義父にも「同居して欲しい」とも「同居したい」とも言われたことは無いけれど、私がつわり期間+フルタイム勤務+1歳児の長女の初めての離乳食に苦戦している間に、どんどん話が勝手に進んで、外堀が埋められた。

なぜもっと強く反対しなかったのか、と深く後悔することになるのだけれど、当時はもう夫や義父と争う気力も、抵抗する元気も無かったし、なんなら義母も亡くなって独り寂しい義父を受け入れるのも、やむなしかな、と思っていた。

義父は「孫育てに関わりたい」とか「動物園に連れて行きたい」とか「温泉にみんなで行きたい」とか「子どもの声が聞こえる家って良いなぁ」とか「今までだって独りで掃除とか家事やってたんだから、これからも俺がやるから」みたいなことを言っていた。

それで、あれよあれよと、元大工の義父の口添えで一軒家が完成し、私と夫と長女が住み、義父は自宅が売れたら移り住む、ということになってしまった。

アパートから一軒家への引っ越しの時期、私は切迫早産で絶対安静と言われ緊急入院を1ヶ月、結局、子宮頸管を縛る手術を受けて退院した。

退院後、大事を取って、予定より早く傷病休職+産前休暇を取らせて貰い、一軒家の片付けをのんびりやりながら過ごすことになった。

そこへ義父がやってきて「お腹の子は無事なのか?」「変な病気じゃないのか?」「まぁ、早産なんて気の持ちようだよな」とおっしゃった。

切迫のなんたるか。
安静のなんたるか。
今、産まれてしまうとどうなるか。
というような話をしようとしたけれど、ちょっと私が口を開けば「あぁ!男には分からない話だから!」と遮られ、全く会話にならなかったけれど、とにかく「お腹の子が無事で良かったな!」「あとは産むだけだな!」と一方的に話したたてて帰って行った。

今、産まれてしまいそうで、今産まれてしまっては困るから、入院手術安静なんだけれど…。

その日のうちに、夫に「同居はやめよう」と話をしたけれど、夫はとても不機嫌な顔をして「もう決まったことだから」と言った。

そして、私は義父が引っ越してきてまもなく、家を出た。
新築一戸建てを義父に占拠されるようで腹立たしい気持ちだったけれど、ローンだけが残っても、夫も一緒に、義父と家を捨ててもいい、とさえ思っていた。

夫は当時「いや、俺も助けて」と言っていたけど、結婚当初の夫の酷い男尊女卑、妻は夫を立てろ的なモラハラ気質は、完全に義父の受け売りだよね?同罪じゃない?むしろ義父から私を守って、助けるべきはアナタでは?と思っていたので、夫の動きによっては、お腹の子と1歳の長女を抱えて実家に帰って、そのまま離婚も覚悟していた。


で。義父の腹立たしい言動は数々心に残っているけれど。
今朝ふと思った。

「女は家を守るもの」って言われて、当時は「それよく言うけど、一体何から守るんだろな…」って思った。のんきか!

夫は義父に、新しい車を買うためのお金を貸して欲しいと話をしていて。
前の車を買う時も同じように、義父から現金を借りて、毎月義父に返済したそうで、同じように今回もしたい。全額じゃなくて、一部。という話。

義父も夫に「あぁいいよ。わかった」と返事をしていて。

数日後「買う事にしたから、現金用意して欲しい」と夫が言ったら、急に私に対して怒りを爆発させてこられた、その最中での「女は家を守るもの」発言なのに、私はのんきに「女の力で家って守れるもんかねぇ」とか考えていた。

我が家は、結婚当初から夫婦共働き。
長女は産後3ヶ月で保育園に預けて、フルタイム勤務。
ぶっちゃけ、夫の稼ぎより私の稼ぎの方が良い。
けれど、結婚当初、私は奨学金という名の返済を抱えていて、夫は負債ゼロ、貯蓄額も夫の方が上回っていたこともあって、ワタシ稼ぐヒト、オット管理するヒト。

あんまり出て行くお金のことをアレコレ考えたくないので、万歳三唱で夫に家計の管理は丸投げだし、車の購入費用に関しても、夫のやりたいようにすればいいと思っていたし、夫が義父に約束を取り付けて、イイヨって言ってもらったなら、父子でヨロシクやってくれればいいと思っていたのに、まさかの飛び火。突然のプレゼン要求。

「夫の車じゃなくて、夫婦の、家族の車だろう」
「アンタが子どもを産んだから、大きな車が必要になったんだろう」←私に種付けしたのは、お前の息子だ。勝手に産まれてきたワケじゃない。と言ってやりたい。

「アンタが欲しい車だろう」
イイエ。夫が欲しい車です。

「どういう用途で使う車で、どうして必要で、購入にいくらかかって、いくら足りないからこれだけ貸して欲しいとか、事前に相談すべきだろう」
いや、何年前だか知らないけど、夫にスープだかプースラだか買うのにお金立て替えることはOKしといて、ファミリーカー買うのにどういう用途でとか説明必要?馬鹿なの?

そこから始まる
「息子には、もっといい相手がいる」←二股?
「アンタがいると家が暗くなる」←こちらこそ息が詰まるわ
「俺は言われたことを毎日書き残してるからな」←特に会話もないのに
等々。出るわ出るわ。

てか、ちょっと待って、なんで私が怒られてる?
夫くん、お金、足りないのかい?

いいよ、もう出して貰わない。と夫。
なんと、全額現金一括で出せるだけの貯蓄あるのに、一気に貯金額が減るのも、クレジットやローンの金利を払うのも嫌だから、義父ローンを使おうとしていただけなんですって!!!

義父には「女は家を守るもの」っていう固いポリシーがあって。
私の方が夫の稼ぎを上回っていることも、夫の遺伝的守銭奴力を信頼して、夫が我が家の家計を管理しているっていうことも、全く理解できないようだった。

女は家を守るものって。
言い方で誤魔化してるけど、要は女は家事をやれって話でしかないじゃないの。
守るっていうか、俺たちが快適に過ごせるよう常に整えておけ。っていうのを言い換えただけじゃないの。

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次女は、比較的よく寝る子だった。
新生児期、実家で、私の父母と長女が2階で寝て、私は独り次女と一緒に1階で就寝していたけれど、3時か4時まで通して寝てくれる子だった。
もしかして、泣いていることに私が気付いていないだけなんじゃないか、と不安になるぐらい、良く寝る子だった。

泣き始める前の、ふにゃっとした小さな吐息。
泣き始める前の、わずかな呼吸や手足をバタつかせた音でさえ、私は目が覚めた。

今朝早くに次女が起きて足音もなくやってきた。

私の近くまできて、急にドンッと足を踏み鳴らして音を立てて、私はビクッと飛び起きた。
「びっくりしたぁ…地震かと思った…」という私に、次女はへにゃと笑って「そろそろそろと忍び足で来たの。お母さん起きちゃうと思って」と言う。

「いやいやいや、急にドンてしたらびっくりするよ」
「お母さん寝てたから」
えーーー。
起さないように忍び足で来て、寝てたら、ドンてして起こすって、どういう理論よ?と、思ったけど同時に納得もした。
そうだよね。
忍び足で来ても、別の部屋で泣いてても、今まではハッと目が覚めていたのに!!今、寝てたよね!!

優しくトントンするとかじゃなくて、足を大きく踏み鳴らす起こし方、次女ちゃんらしいわ。

お!き!た!わ!よ!

はーびっくりした。
明日からは、もし寝てても、隣に潜り込んでくればいいんだよ。と言うと、「あぁ!」となんだか納得した顔で笑っていた、4歳児。
その頭をわしゃわしゃと撫でていたら、ふと思った。

私が守りたいのは家じゃない。
娘達だ。

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私の心の安定のためにも、義父とは随分前にサヨナラをした。
従順な嫁を選ぶ息子に育てなかったことを後悔すればいい。
(どうせ子育てなんかに関わってないんだろうし、関わっていなかったという自覚もないんだろうけど)

お腹の子が女の子だと分かって「なんだ女か」「また女かよ」と言うようなジーサン。
産後の見舞いにやってきて「お疲れ様」と労わる夫を見て「安産だったくせに大袈裟な」と笑うようなジーサン。
「俺は息子夫婦と同居するからお前は結婚して出て行け」と、特に結婚の約束もしていない娘を高額借金持ちの男に嫁がせちゃうジーサン。
「俺は偉い、敬え」と素で言ってくるジーサン。
「俺は優しいだろ?」と同意するまで言い続けるジーサン。

男尊女卑、亭主関白、俺様第一の夫を丸め込んだみたいに、義父ともぶつかって解り合う方法もあったのかもしれないし、私が義父の理想の息子の嫁を演じれば良かったのかもしれないけれど、年子の0歳1歳育児でヒーヒー言ってる時に、そんな余裕はないワケで。
不眠不休で、フルタイム勤務しながら乳幼児育ててる他人の娘(息子と結婚したからって、急に自分の息子に対して以上にワガママ放題するの、マジヤメロ。お前のヨメじゃねぇ。って当時思ってた)に、あんな暴言ぶつけるようなジジイ、ぶつかり合っても、話し合っても、解り合えるワケなかったな。とも思う。

分かり合えなくて、ごめんな。と、今となっては僅かに思う。
歩み寄ってやれなくて、ごめんな。と、ほんの少しは思っている。
だって。
こんなに可愛い娘達を愛でる機会を失って、本当にかわいそうだな。…触らせたくないけど。と、本気で思っているから。

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