嘘のはなし
エイプリルフールに向けて書いていたのだけど、年度かわりの忙しさで、いつの間にか埋もれてしまっていたのを発掘しました。
◇◇◇
「ねぇ、おかあさん。うそのはなし、して」
最近の4歳長女は、時間があるとすぐコレだ。
夕飯をもぐもぐしながら「うそのはなし」。
倫理・道徳・哲学が身近にあるのはいいことだよね。
***
「あー!うそだー!うそつきだー!いけないんだー」
と、妹のほんの些細な嘘を見つけると、即断罪する長女。
子どもらしくて可愛いのだけど、全ての【嘘】をつるし上げるので、枠が狭くて本人も息苦しくなるだろうし、あんまり取締りを強化しているとお友達との摩擦も気になる…。
そこでお話ししたのが「うそのはなし」だ。
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あのね。嘘には、色んな種類があるんだよ。
嘘の全部が、悪いわけじゃないの。
前に、おかあさんが朝起きてきて、髪の毛ボサボサだった時に、すーちゃんが「おかあさん、へん!」って言って笑ってたよね。
でも、あの時、ゆーちゃんは「へんじゃないよ。かわいいよ」って言ったよね。
それって、嘘だったよね?お母さんの髪、ボサボサで変だったよね。ゆーちゃんは可愛いって言ってくれたけど、あのボサボサじゃ、お外行けなかったよね。
変だ!って言って笑ったら、お母さんが悲しいと思って、嘘言ってくれたんでしょ?
あれは優しい嘘だったよね。
前に、お父さんとゆーちゃんがかくれんぼしている時に、お母さんが「お父さんこっちには来てないよ」って言ったの、あれも嘘だったよね。
お母さんは、お父さんが隠れた場所を知ってたのに「知らないよ」って嘘ついてたよね。
ダメだったかな?
ちゃんと、本当のことを教えて欲しかった?
こっちに隠れたよーって教えて欲しかった?
「おしえちゃだめ。かくれんぼじゃなくなっちゃう」
そうだね。あれは、かくれんぼを楽しくするための嘘だったのかな。
朝、目が覚めて、リビングに降りるよーって言った時、本当は抱っこして欲しいのに「だっこしない、あるく」って言うのも、嘘だよね?
だって、本当は抱っこして欲しいでしょ?
でもゆーちゃんが「だっこ」って言ったら、すーちゃんも「だっこ」って言って、ケンカになるから言わないんだよね?
ケンカしないための嘘だよね。
そんな感じで「嘘吐いちゃダメ!!!!」……とも言い切れない、ぺこぱな嘘を例に挙げて話す。
それじゃぁ、オシッコ我慢しているのに「だいじょうぶ」っていう嘘は?
「ダメ」
どうしてダメか分かる?
「トイレが、とおくかもしれないから」
そう!!!それ!!!
お母さんには、ゆーちゃんがどれ位の時間我慢できそうなのか、分からないの。
「いま出るよ!」っていうタイミングで教えてもらっても、トイレまでワープできるわけじゃないから、間に合わないとゆーちゃんも悲しいよね。
それに、オシッコは我慢すると、身体に悪いの。お腹痛くなっちゃう。
じゃぁ、大好きなのに「おとうさん、すきじゃない」っていう嘘は?
「ダメ」
どうしてダメか分かる?
「おとうさんが、かなしくなっちゃう」
そうだね。
嘘にも色々あるんだよ。
誰かを助けようと思って吐く嘘。
誰かを悲しませないために吐く嘘。
誰かを楽しませようと思って吐く嘘。
わざと誰かを傷つけようとする意地悪な気持ちで吐く嘘とか、怒られたくなくて誤魔化す嘘とか、まだ遊びたくて吐いちゃう嘘とか、あんまり良くない嘘もあるけど、嘘を吐く側にも事情があるんだよ。
赤ずきんちゃんのオオカミさんとか、3匹のブタのオオカミさんは、すーごくお腹が空いてるんだと思うよ。命に関わる程に。
嘘が、どれもこれも、全部ダメっていうわけじゃないの。
大人だって、嘘つくし。
お友達に、知られたくないこともあるよね。
ただね。口から出て行った言葉は、取り消すことが出来ないんだよ。
ゆーちゃんがたまに拗ねて「おとうさんキライ」って言うけど、後で「あれは嘘でした、ごめんなさい」って言っても、お父さんの心には「キライ」って言われたこと、と「嘘を吐かれた」ってことが残るの。
だから、誰かを傷つけるような嘘は、簡単についちゃいけないと、お母さんは思ってる。
***
「ダメじゃないうそもあるんだ」「うそにもいろいろあるんだ」ってことを知ってる私って、なんてオ・ト・ナなんでしょう!って、いう優越感に浸りたいようで、事ある度に「うそのはなし聞きたい」とせがまれる。
言葉の選び方。
本音と建前の使い分け。
ジョークとしての嘘。
サプライズのための嘘。
白と黒には分類できない、非常にグレーな嘘。
「うふふ~しってるよ~!うそにも、いろいろあるんだよ~!」って得意げに話す君は、その全貌をまだ知らない。
曖昧でうやむやなモロモロを、大人だって、間違えたり、測りかねたりして、傷つけ合うことがあるんだよ。
傷つかないように、傷つけないように、大事に大事に育てたいわけじゃない。むしろ、適度に傷ついて、傷つけて、大きく太く強かに育って欲しい。
けど。
その過程で、無暗に大きな傷を負ったり、負わせたりして欲しいわけではないし、たくさん流れる涙を思うと、そりゃぁ切ない。
騙すより騙される方がいいだとか。
素直が一番愛されるだとか。
躊躇い無く、私は言えない。
騙されて傷つく姿は見たくないし、素直すぎてバカを見るのも心配。
世の中には「いい」「悪い」だけじゃなくて、「大きい」「小さい」「許せる」「許せない」「可愛い」「可愛くない」…無限の定規があるからね。人の数以上に。
何か強固な自分の定規を見つけられるといいね。
だけど、お母さんは今。
将来のことはともかくとして、「目の前のお魚を食べちゃって欲しい」と思っているんだけど、どうだろう?