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遺伝子組み換え①:遺伝子組み換えメダカ流通・カルタヘナ法

今日は衝撃のニュースがあった。遺伝子組み換えメダカが大学の研究室から持ち出されて一般に流通させていたという事だ。正直かなり驚きである。

遺伝子組み換えという言葉は遺伝子組み換え食品などで耳にした事はあると思う。そもそも遺伝子組み換えというのは、遺伝子工学的手法を用いて新たな遺伝子の組み合わせを有する生物を作製する事を言う。この場合の生物というのは動物であったり植物であったり、細胞やウイルスの場合もある。遺伝子工学的手法・バイオテクノロジーというのは、要するに遺伝子の主体であるDNAの配列を人工的に改変する事を意味する。多くの場合は、とある遺伝子の配列の中に、新しい遺伝子を挿入して機能を付与したり、逆に遺伝子の配列を変える事で元の遺伝子の機能を変えたり(変異)、遺伝子を機能しなくしたり(欠損)する事も出来る。自然界でもこの様なDNAの配列変化というのは生じるのだが(ウイルスの変異は良い例だ)、それを人工的に引き起こす事を遺伝子組み換えとして、規制されている。

その規制の最たるものが「カルタヘナ法」である。これは生物多様性を保護する観点から遺伝子組み換え生物の作製や使用に規制を設けているものだ。本来、遺伝子組み換えとは実験の他にも人類に利する目的で行われる。寒冷地で育ちにくい作物に寒さ耐性の遺伝子を入れるなどがその例だ。しかし、その様な遺伝子改変生物は、従来の生態系を破壊する可能性がある。例えば通常より生存に有利な遺伝子を持つ生物が人類の管理外で繁殖した場合、在来種が全滅して全て変異種に置き換わる可能性があるのだ。これが生物多様性を保護する為に、遺伝子組み換えが規制されている理由である。そして、遺伝子組み換え生物の流出や無秩序な自然界での拡散は基本的に防がなければならない。逆に言えば、遺伝子をいじっても、移入する遺伝子が同じ種由来の核酸であったり(セルフクローニング)、自然界で元々起こりうる変異であったり(ナチュラルオカレンス)であれば遺伝子組み換え作物には該当しない。

今回の衝撃その1は、この流出が人為的に引き起こされたらしい事である。大学院生がペットとしての販売を目的に遺伝子組み換えメダカの卵を持ち出したらしい。今回の遺伝子組み換えメダカは記事から推測するに赤色に光る蛍光タンパク質(DsREDまたはmCherry)を遺伝子に組み込まれたものだ。動物に蛍光タンパク質を発現させ、実験に使う事はよくあるのだが、成程確かに蛍光を発する生物というのはペットとして珍しく一般的なインパクトがあり魅力的かも知れない。だが、普通は思い付いたからと言って、ここまで大胆な事はやらない。そもそも遺伝子組み換え実験に携わる場合は毎年の教育訓練が必須であり、カルタヘナ法についても必ず指導される。普通は知識としても感覚としてもあり得ない行動であるという認識がある筈だ。相当に教育が適当であったのか、非常に不思議である。事実として、カルタヘナ法違反というのは今まで聞いた事が無く、実際に記事でも今回が初の適用らしい。そのくらい「あり得ない」事であった。

今回の衝撃その2は、この遺伝子組み換えメダカが20匹くらい自然界に放流されているという事実である。これも知識のある人間の行動としては、恐らくあり得ない事態であり、逆に言えば、一般人の遺伝子組み換え生物に対する認識と知識の不足が事態の悪化に繋がった例だと思う。今回の遺伝子組み換えメダカ事件については、持ち出されたメダカがペットとして流通してしまった点が大きな問題だろう。それはつまり、遺伝子組み換え生物の取り扱いについての教育を受けていない人間が遺伝子組み換え生物を保有しているという状態を作り出してしまい、それ故に自然界への人為的な放出という最悪の事態を招いてしまったのだ。

人間のやる事に絶対は無い以上、遺伝子組み換え生物の流出事故というのは起こり得る事態だとは思うが、今回はあらゆる人為的な操作と、知識の無い人間による遺伝子組み換え生物の取り扱いによって考え得る最悪の状況を生んだというのが現状だと見える。

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