論文紹介:ワクチンによる自己免疫性肝炎の診断的特徴
今日は以下の論文を紹介しよう。
「Diagnostic features of autoimmune hepatitis in SARS‑CoV‑2‑vaccinated vs. unvaccinated individuals」
(Exp Ther Med . 2024 Jun 26;28(3):337.)
過去に何度か紹介した通り、RNAを含む核酸ワクチン接種による自己免疫性肝炎(AIH)の発症は多く報告がある。この論文では発症率の比較などではなく、AIHにおけるワクチン接種者と非接種者の特徴を比較検討することで、「ワクチンによって誘導されたAIH」に特有の現象があるかどうかを調べている。
この研究では合計72名のAIH患者を対象とし、そのうち10人はAIH発症前にSARS-CoV-2 mRNAワクチン接種を受けていた。最も重要な違いとして、これらの患者では、ワクチン未接種の患者と比較して、肝組織へのCD4+ T細胞の浸潤が顕著であった。さらに、SARS-CoV-2 mRNAワクチン接種歴のあるAIH患者では、ワクチン未接種患者よりも肝組織へのCD4+ T細胞浸潤が広範囲に及んでいた。
この結果は興味深いものである。AIHにおいてはCD8+T細胞の浸潤がよく見られ、実際に過去の核酸ワクチン接種によるAIH発症時にも肝組織にはCD8+T細胞が浸潤している事が確認出来ている。また、核酸ワクチンはその機序から、CD8+T細胞を効率良く活性化するため、むしろCD8+T細胞に差がありそうなものだが、CD4+T細胞の浸潤が増えているというのは興味深い。
因みに誤解の内容に説明しておくと、核酸ワクチンによるAIHではCD8+T細胞が無関係という事ではない。論文でも、CD8+T細胞の浸潤に差が無いだけで、通常のAIHと同レベルのCD8+T細胞浸潤は起こっているのだ。つまり、通常のAIH発症機序に加えて、核酸ワクチンによって引き起こされる免疫応答が、CD4+T細胞の浸潤促進という通常ではマイナーな機序を追加で引き起こし、AIHの病態に影響を及ぼす可能性が示唆されたという事だ。これは、SARS-CoV-2 mRNAワクチン接種と自己免疫性肝疾患との関係についてさらなる研究の必要性を強調するものであると同時に、ワクチン誘発性肝障害と従来のAIHとの区別を明確にするのにも役立つであろう。
以前には大腸炎に関して同様に核酸ワクチンに特有の変化が見られるかどうかを調べた論文を紹介した。
症状による分類が同じであっても、従来の炎症性疾患とは異なる免疫学的特徴を持つ症例が報告されるというのは核酸ワクチンの特殊性、核酸ワクチン特有の免疫系活性化機序が自己免疫疾患発症のトリガーとなり得ることを強く示唆している。