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記事コメ:「レプリコンワクチンはウイルスばらまく」に専門家は「完全にデマ」と断言

今日は下記の記事に少しコメントしておこう。

同じ様な記事というのはいくらでもあると思うのだが、最近話題の所謂レプリコンワクチン、自己増殖性mRNAワクチンに対して、伝播性のリスク、これも所謂「シェディング」を否定した記事である。

先に言っておくが、私自身はこのシェディングについては科学的常識から言って可能性は限りなく低いと想定している。この記事について述べたい理由は、この様な推進派の記事では、この話題に限らず「論点ずらし」が多くみられるからである。

この記事での論点ずらしは「ウイルスの伝播」という限定的なワードで否定している点である。確かに本来の意味でのシェディングというのは、生ワクチンなどを用いた際にウイルス粒子が伝播する現象を指す。そして、当たり前の話なのだが、新型コロナウイルスのRNAワクチンに関して言えば、抗原としてはSタンパク質のみが搭載されている。そのため、ウイルスを構成する外殻などが含まれないのでウイルスとしての性質を十全に有するウイルス粒子が構成される可能性が無い。だからこのワクチンでウイルスが人から人に移る事はない、という理論でその可能性を否定しているのが記事である。
(記事ではそこまで詳しく書いてないのだが、面倒なので私の方で補足して書いておく。あと、正確に言えば、レプリコンワクチンのRNAには抗原部分以外にも増幅に必要な配列が含まれているので正確にはもう少し議論の必要があるのだが、本題ではないので、それもここでは省略する)

さて、本題は上記の理論が論点ずらしであるという事である。RNAワクチンにおけるシェディング(と呼ばれる)現象の想定は、ウイルス粒子の伝播ではなく、RNAを含む生体構造の伝播により、Sタンパク質の抗原としての伝播が生じる現象を指しているのが基本ではないのかだろうか。レプリコンワクチンがシェディング現象を引き起こす一応の科学的仮説はウイルス粒子としてウイルスが広がるという滑稽なものではなく、導入細胞からレプリコンRNAを含むエキソソームが放出され、それがさらに体外に放出されて個体間伝播するというものである。この仮説自体はそれぞれに科学的裏付けがあり、細胞がRNAなどの分子を含むエキソソームを細胞外に放出するというのは完全に事実であるし、少なくともレプリコンワクチンが導入された細胞から、転写産物のRNAを含むエキソソームが放出されるという現象は普通に起こるだろう。また、レプリコンゲノムを持つウイルスについてIn vitroの実験でエキソソームを介した細胞間伝播の報告がされていることからも、その様な議論があるのかも知れない。また、それとは全く別の分野の話で、エキソソームが呼気中に放出され、がんなどの診断に用いることが出来るかもしれない、という研究があるのだ。つまり、これらの理論を演繹的に組み合わせると、レプリコンRNAがエキソソームを介して人から人に移る可能性がある、という仮説は構築可能ではあるのだ。

上にも書いた通り、科学的な常識から印象を述べれば、その可能性は限りなく低い事象である。なぜならそもそも呼気中にどの程度エキソソームが含まれるかと言われればあっても極微小であり、それが検出できるかどうかという研究についても、ハッキリ言って無理矢理検出を頑張っているレベルの話であるのだ。つまりそんな量のエキソソームにたまたまレプリコンRNAが含まれて、しかもその微量のエキソソームを他人が吸い込むなどして、しかもそれが細胞に導入されて機能するというのは、理論的に言えば奇跡に近い確率であろう。

とは言え、その仮説について、完全に否定する材料が無いのも事実である。であるから、上記の記事の様にシェディングを批判する記事についても、「完全に否定できる可能性」に限定して誤魔化しの記事を書いており、エキソソーム介在仮説の様に否定するのが現時点で不可能な可能性については触れもしないのだ。これこそが私の問題視する核酸ワクチン推進派の非科学的な姿勢である。

先の核酸ワクチン黎明期に於いても、とんでも理論や否定しやすいリスクについてはいくらでも嬉々として否定記事が出ていたが、私が常々提唱している様な「自己免疫疾患のリスク」については否定するどころか、言及する記事すら殆ど出て来ない。つまり、核酸ワクチン推進派というのは、「否定できるリスク」に論点をズラして否定し、否定出来ない可能性については完全に黙殺しているのである。精々「現時点でその様なリスクは確認されていません」または「その様なリスクは極めて低いと聞いています」とお茶を濁すくらいである。その様な姿勢こそが批判されるべき最大の問題点なのだと私は言いたい。まともにリスクについての議論を深める気が無いのだ。

繰り返しになるが、私は科学者としての感覚として、シェディング現象を否定する。シェディングの定義についても、上記のようなまともな仮説に基づくものもあれば、ウイルスが感染するという紹介記事の中で簡単に否定されている様なものもあるし、そもそもRNAが関係無い副成分に伴う一般的な現象まで好き勝手なことが議論されている。大前提として、非科学的なワクチン批判は問題外なのだが、上記のような仮説の基になる機序の説明や、その実際の理解、そこから生まれる解釈や考察をきちんと論じないで、論点ずらしをして否定する核酸ワクチン推進派の姿勢も全く許せるものではない。科学を重視するなら理論的かつ包括的に議論すべきだ。

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