記事・論文紹介:酒で赤くなる人はコロナにかかりにくい?
今日は下記の様な記事を見掛けたので元の論文と併せて考察したい。
元の論文は以下のものである
「Asian flush is a potential protective factor against COVID-19: a web-based retrospective survey in Japan」
(Environ Health Prev Med . 2024:29:14.)
要約すると、お酒を飲んで顔が赤くなる人は新型コロナウイルスにかかりにくいという話である。これだけ聞くと何とも怪しげな話ではあるが、疫学調査としては確かにそういう結論になっている。体質に伴う生活習慣や飲酒量との関係を疑う人も居るだろうが、この論文ではその辺りについても比較検討しており、あくまで体質の差が関係しているとしている。
その体質というのはアルデヒド分解酵素の変異である。お酒を飲んで顔が赤くなるのはエタノールの分解産物であるアセトアルデヒドによって毛細血管が拡張されることに起因する。このアセトアルデヒドを分解する酵素がALDH2(2型アルデヒド脱水素酵素)であるが、この酵素のはたらきが弱かったり、そもそもこの酵素を持たなかったりすると、いわゆるお酒に弱い体質となり、顔も赤くなりやすいというわけだ。
ではなぜこのALDH2の機能性変異があると新型コロナウイルスにかかりにくくなるのかというのが最大の疑問である。著者らの考察では、このALDH2の遺伝子多型が免疫系の細胞に影響を与えるのが原因ではないかとしている。詳細は不明だが、CD8T細胞の機能に何某かの変化をもたらす様だ。
一方で、この研究グループは過去にALDH2の遺伝子多型が新型コロナウイルスに対するワクチン接種効果を減弱させるという報告を出している(Vaccines (Basel) . 2022 Jun 28;10(7):1035. )。これは今回の疫学調査と矛盾する内容であり、まだまだ詳細な検討は必須というところだろう。世の中的にも他の研究ではALDH2が免疫系に与える影響はポジティブな方向性のものが多い。つまり、ALDH2が機能しない場合に免疫系が活性化するという理論は少し考えにくい部分もある。恐らく今回の結果は筆者らにとっても想定外だったのではないだろうか。
いずれにせよ、免疫系は意外な遺伝子によって影響を受けることも多く、予想外の体質と免疫反応の関連が見付かる事は多い。それは免疫系の細胞が全身のあらゆる組織を巡り、あらゆる機能を持つ特別な生理系だからとも言える。また、ALDH2に関してはアルデヒドの分解を行う酵素であるが、その機能が低いと体内にアルデヒドが蓄積しやすく、そのアルデヒドそのものがウイルス感染を防ぐという可能性もある。ひとつの事象に関する考察はあらゆる視点で行われるものであり、真実に辿り着く為には正確な論理で研究を進めることが必要である。今回の記事や論文は、その様な考える材料のひとつとして紹介してみた。
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