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記事紹介:幹細胞培養上清液で死亡例

今日は気になる記事を見掛けたので紹介・補足しておこう。

記事では自由診療で幹細胞培養上清液というものを投与し、特に美容目的で整形外科クリニックにおいて流行していることを警告している。記事にもある通り、医薬品として承認されたものではない上に新しいモダリティと言える製剤を投与することになるので、一定のリスクを考える必要がありそうだ。記事ではエクソソームという構造体に焦点を当てているが、それ以外にも考慮すべき要素は含まれている。

この製剤は幹細胞という細胞を培養した後の培地をそのまま投与するというもののようだ。まず「幹細胞」とは何かという話になるのだが、一般的には私達の身体を構成するあらゆる細胞に分化する能力を持つその大元の細胞と考えてよい。この製剤で使われているのはその中でも特に、間葉系の幹細胞を用いたものが多い。この幹細胞を培地で培養すると、その培地中には幹細胞が産生する様々な物質が放出される。その中には上記のエクソソームや、タンパク質(サイトカインなど)が含まれており、培養後の培地(培養上清)を投与するとそれらのエクソソームやサイトカインが生理活性物質として機能することが期待できるという理論だ。

サイトカインについては過去に記事でも説明したことがあるが、様々な種類の液性因子の総称である。その中には免疫を活性化するもの、逆に免疫を抑えるもの、組織修復に寄与するもの、細胞の増殖を促すものなど多様な種類が含まれている。それらの機能が再生医療や場合によっては美容目的で利用されるということだ。

エクソソームというのは、単一のタンパク質とは異なる構造体である。細胞から放出される小胞であり、その内部には起源細胞に由来する様々な分子を含んでいる。そのため、上記の様なサイトカインや、機能的な核酸分子などを効率良く他の細胞に伝達し、生理活性を生じると考えられている。実際に再生医療や免疫の分野では医薬品として応用される可能性についても研究が進んでおり、その有用性が期待される一方で、記事にある様に自由診療での濫用が問題となっている。

本来医薬品はその有効性が示された上で承認されて使用されるものなのだが、美容目的や毛髪再生など自由診療で効果を保証せずに投与されるケースが先立って流行してしまっている。それに伴って有害事象も多く報告されており、エクソソームの臨床応用そのものに対する妨害となっている現状があるのだ。幹細胞培養上清というものは細胞を培養した後の培地の上澄みであり、細胞は含まない様に除去しているとして、細胞そのものを用いる細胞治療よりも規制などが緩い。実際に現在使用されている幹細胞培養上清製品も、安全性については無菌性しか保証していない。これは医薬品としては最低限のレベルであり、エクソソームがどの程度含まれているのかは勿論、その他のサイトカインや使った培地に由来する成分の安全性など全く情報が無い状況である。その様なものを投与すれば直接的な毒性やアレルギーなどを含む有害事象の可能性は全く過小評価できない。

この様な製剤に限らず、新規のモダリティには自由診療で実施されているものは多い。それらについて正しく評価を与えるためには、少なくとも正しい科学的知識が必要となる。この様な記事を切っ掛けにしてもよく、日々新しい知識を身に着けていくことは重要であろう。

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