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論文紹介:核酸ワクチンによるSLEの新規発症

今回は核酸ワクチンによるSLEの誘導について症例報告と総説を兼ねた論文が出ていたので紹介しよう。最近までの報告を総じてまとめてくれていたので参考になる論文であった。

論文のタイトルは「New-onset systemic lupus erythematosus following BNT162b2 mRNA COVID-19 vaccine: a case series and literature review」(Rheumatol Int.2022 Dec;42(12):2261-2266.)である。Abstractを要約すると以下の通りである。

COVID-19ワクチンと自己免疫疾患の急性増悪との関連性を評価するデータが出てきている。しかし、COVID-19ワクチンと新規の自己免疫疾患の発症との関連は不明なままであった。我々はファイザー社製BNT162b2 mRNAワクチン接種後に新たにSLEを発症した男性患者3名の症例を報告する。その臨床的特徴は薬剤性狼瘡と類似していた。今後、ワクチン投与後にSLEと診断される患者さんが増える可能性が考えられる。さらなる研究により、ワクチンの免疫原性についても、より重要な洞察が得られるであろう。

論文では核酸ワクチン接種後に新たにSLEを発症した男性患者3名の初のケースシリーズを報告しており、さらに今までに報告されたSLE発症例もまとめてくれているので参考になる。総じて、SLEの発症報告は徐々に多くなっているというのが現状である。ワクチン接種とSLE診断の因果関係を明らかにすることは困難であるが、今回の症例報告でもそうであるように本来発症率が低い男性での報告が多く含まれることから、核酸ワクチンが分子模倣やワクチンアジュバントによって自己免疫を誘発する可能性があると考察されている。さらに著者らは、男性が多いことと治療開始後の急速な臨床的改善は、核酸ワクチンが薬剤誘発性狼瘡を引き起こす他のレジメンと同様の自己免疫反応を誘発する可能性を支持しており、臨床医がこの現象を認識することで、COVID-19の管理およびその意義を改善できると主張している。

実際に、論文中でも機序の考察がなされており、特にアジュバント作用と関連した分子生物学的機序としてTLR7や8、NLRPなどの核酸認識受容体活性化や自然免疫細胞に於けるI型インターフェロン産生などに注目する意義を唱えている。これは私も過去に記事で紹介した通り、明確な核酸ワクチンによる危険な免疫活性化リスクであり、同時にSLEなど自己免疫疾患との関連が強く示唆されている分子生物学的機序であるのだ。つまり、免疫学をきちんと学んだ人間であれば、当然危惧すべきリスクだという事だ。

実際問題として、SLEなどの全身性自己免疫疾患で重要な意味を持つ「抗核抗体」の産生と核酸ワクチンに関する研究はいくつか行われている。総じて「若干抗核抗体が増える可能性はあるがメリットの方が大きいだろう」という類の結論を示しているが、現実的にはその「若干」でSLEを発症するケースはあると危惧すべきだろう。実際問題として抗核抗体は健康な人間でも一定の割合で保有している。それだけで自己免疫疾患になるわけではなく、あらゆる免疫学的条件によって発症が決まると考えられる。逆に言えば免疫系と言うそれだけ繊細なバランスの下で成り立つシステムに対して異常な活性化をもたらすという事が非常に危険だということなのだ。

それと関連して最近出た報告「The Risk of Autoimmunity Development following mRNA COVID-19 Vaccination」(Viruses 2022, 14(12), 2655)では医療従事者におけるmRNAワクチン接種前後の抗核抗体などを調べている。この研究でも単純な抗核抗体保有率に大きな差は無いのだが、免疫後の経過時間と抗核抗体量との間には、7-9ヶ月後に弱い正の相関が見られた。つまり、長期的な影響として抗核抗体の産生増加と言う可能性が示唆されているのだ。もちろん接種後に抗核抗体が陽性となった場合でも、これらの自己抗体の病原性、臨床的意義、接種後の持続期間についてはまだ不明である。さらに、2回目のワクチン接種後に重い副反応を呈した場合は、免疫後の抗核抗体価が有意に高くなっていた。この論文の筆者らはmRNAワクチンによって自己免疫疾患が誘発される可能性があるという仮説を明確に否定するような複数年にわたる研究がまだ実施されるべきと主張している。

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