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論文紹介:核酸ワクチンによる自然免疫のエピジェネティク活性化

ご存知の通り、核酸ワクチンを打つと、特に2回目以降のブースター接種では強い発熱などの反応が起こる。一般人の中には(場合によっては適当な専門家も)、これが「抗体が出来た証拠」とか意味の分からない事を言っているが、別に発熱しなくても抗体は出来る。今までのワクチンは大概そうだ。基本的に「発熱」は多くの場合「自然免疫」や「細胞性免疫」の結果である事が多い。そして、核酸ワクチンによる自然免疫の強過ぎる活性化は本来の「ワクチン」という概念に対して非常に大きな問題を提起する。

繰り返しになるが勘違いする人が多いので一応最初に注意しておこう。免疫学的に「自然免疫」というのは「自然な免疫」という意味ではない。抗原認識受容体を介して獲得された「獲得免疫」に対比して、パターン認識受容体など抗原のパターンに依存して、生来から備わっている免疫機序の事を指す。多くの場合、それを担うのが単球やマクロファージと言った自然免疫担当細胞である。そして、重要な点はワクチンはこの自然免疫を活性化することを標的にしてはいけない。なぜなら、この機序は抗原非特異的な免疫機構であり、抗原特異的な免疫系の誘導によって感染防御という目的を果たすワクチンの概念とは異なるからだ。抗原非特異的・つまり何も考えない広範な免疫活性化は、炎症性疾患や自己免疫疾患など免疫疾患のリスクに直結する。ましてワクチンでそれを誘導するなど、最も愚かな行為だと言い続けている訳だ。

さて、本題に入ろう。今回使用されている核酸ワクチン・RNAワクチンが自然免疫を活性化することは既に示されている(Nature. 2021 Aug;596(7872):410-416.)。1年前にNatureにしっかりした仕事が出ており、自然免疫活性化が実際に起こっていることが報告されている。興味深い点は、自然免疫反応も1回目より2回目のブースター接種後の方が強くなっているという結果だ。つまり、2回目の副反応は、皆が言うような獲得免疫成立の結果ではなく、単に自然免疫の異常な活性化が起こっているだけの可能性が高いのだ。一方で、本来自然免疫反応は「免疫記憶」という概念が存在する獲得免疫とは異なり、2回目で反応が強くなるという事は通常考えられていない。

今回紹介したい論文はそのメカニズムについて示唆している。日本の大学の研究だが、「Consecutive BNT162b2 mRNA vaccination induces short-term epigenetic memory in innate immune cells」という仕事だ(JCI Insight. 2022 Oct 25;e163347.)。この論文ではmRNAワクチン(BNT162b2)接種により単球の抗ウイルスおよびIFN刺激遺伝子の発現が上昇し、1回目接種後よりも2回目接種後の方がより大きな影響があることを明らかにしている。また、転写因子結合モチーフ解析により、アクセス可能なクロマチン領域にIFN制御因子(IRF)とPU.1モチーフが濃縮されていることが明らかになった。さらに重要な知見は、BNT162b2の連続接種により自然免疫応答が高まり、その結果として単球のヒストン状態の変化、つまりエピジェネティックな変化が生じた事だ。この変化によって、2回目の反応時に速やかな単球の活性化や炎症性サイトカイン産生が生じたと考えられる。一方で、これらの効果は一過性に生じ、2回目の接種の4週間後には消失することが示されている。さらに、単細胞RNAシーケンス解析により、ワクチン未接種のCOVID-19急性呼吸窮迫症候群患者の単球では、同様の反応が損なわれていることが明らかになった。

この論文では、ワクチン戦略における自然免疫の重要性を語っていたが、実際には別の議論も必要である。つまり、「今の核酸ワクチンの効果の大部分が自然免疫に頼っているだけ」という可能性と「自然免疫の無秩序な活性化を繰り返すことによる炎症性疾患リスクの増大」である。ワクチン未接種で重症化した患者の単球で、この様な十分な反応が起こっていない事は感染防御における自然免疫の重要性を考えれば妥当だと言える。そして、ワクチンによる自然免疫系エピジェネティク変化の持続が4週間という結果は、実際のワクチンの効果持続期間と比較的近いのではないだろうか。つまり、私がいつも危惧している、「核酸ワクチンは強過ぎる自然免疫活性化能を持つから、結果的に短期的に一過性の作用が出ているだけ」という可能性と何ら矛盾しないのだ。また、自然免疫メモリーにより、断続的な投与が効果的に自然免疫を活性化し続けるのだとしたら、その結果としての効果持続も理解出来る。しかし、何度も言うが、これは「期待すべきワクチンの効果」では全くない。「獲得免疫」による抗原特異的な防御力獲得ではなく、無秩序にとにかく無理矢理に自然免疫を活性化して何とかしているという愚かしい対策である。

自然免疫の過剰な活性化と自己免疫疾患リスクについては過去の記事で述べ
ている通りである。

(参照)

今回話題に出たIRFやインターフェロン応答についても自己免疫疾患との関連は多く報告されている因子だ。それらの継続的な活性化がどれほどのリスクか考慮しない事は免疫学的に言って異常である(この論文は阪大の第三内科から出ているので、そういう事を理解していない筈はないのだが……)。

ワクチンとはあくまで「獲得免疫」を、それも高度に特異性を担保した免疫反応を、誘導することによって特異的な感染防御に寄与するべきである。そして、変異の速いRNAウイルスに対してワクチンで対応するという戦略がそもそもおかしいという話もいつもしてきたことである。私は「核酸ワクチンの効果」という点については、「そりゃ短期間は効果出るよ、だってあれだけ自然免疫の活性化をするんだから」と言っている。しかしそれは「本来期待する効果が出ているかは分からないけど、結果として効果あれば何でもいいでしょ」というふざけた資本主義企業やそれに迎合する大衆の姿勢が背景にあるのだ。これも何度も言っているが、重要な事実として、今まで「ワクチンによって誘導された獲得免疫反応」が感染防御に本当に寄与したことを証明した論文は無い。もし核酸ワクチンの主要な機序が本当に「自然免疫の活性化」であれば、このワクチンはただ単に免疫疾患のリスクを高めるだけのものである。まあ実際の印象は「自然免疫:細胞性免疫:液性免疫=4:5:1」くらいのものだと思うが。いずれにしても、現状では抗体を中心にした議論はあまり意味が無いと感じている。上記には私の印象を含んでいる訳だが、重要なことは「それぞれの免疫システムとワクチンにおけるその重要性」をきちんと体系化・細分化して考慮・議論することである。そこを理解してほしい。

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