論文紹介:ワクチンによるADEリスクの再評価
これまでの記事では、何度か本質的なADEのメカニズムや細胞性免疫と液性免疫のバランス状況に応じたADEリスクの変化・発現可能性について触れてきた。特にSタンパク質のRBDに抗体結合回避変異が入ったりするとADEのリスクが高くなるという可能性が出て来るというのは重要な視点であった。
今回は、先月出ていた論文「Reevaluation of antibody-dependent enhancement of infection in anti-SARS-CoV-2 therapeutic antibodies and mRNA-vaccine antisera using FcR- and ACE2-positive cells」からin vitro実験でのADEリスク再評価を見ていきたい(Sci Rep.2022 Sep 16;12(1):15612)。
論文の内容に移る前に、in vitro感染実験の実際と問題点についてここで考えておきたい。そもそも、in vitro:つまり試験管内での実験というのは動物を使わずに簡便に何かを調べる時に行われる実験である。その分色々な制限は多いのだが、何かを簡単に調べる時に用いられる。抗体価や阻害活性の測定にも多く使用されており、オミクロン株対応ワクチンの有効性についても、主な「効果がある」という結果の根拠は、in vitroでの感染阻害効果を基にしている。感染実験としては試験管内で細胞にウイルスを振りかけ、そこに抗体やワクチン接種者の血清を添加して感染が阻害されるかどうか調べる訳だ。今までの研究では、この手の実験でADEが見られないという検討結果も出ているが、その試験の最大の問題点は「Fc受容体陰性細胞」を標的細胞として
使用している試験が多い事だ。
ADEの機序を述べた記事で紹介したが、本来最も主要なADEのメカニズムはFc受容体を介した細胞への結合による感染の促進である。つまり、本当に意味のあるADEリスク評価を実施する場合にはFc受容体が発現している細胞で検討しないと意味が無いのだ。逆に、ADEリスクを評価する際にFc受容体のみが発現する細胞を使用し、ACE2が出ていない細胞を使う場合もあるが、これもアンフェアである。この論文はその点について問題提起しており、Fc受容体と、Sタンパク質の標的抗原であるACE2が両方発現している細胞を用いて感染実験を実施している。
さて、その結果であるが、まず従来株に対する感染阻害活性については殆どのmRNAワクチン接種者の血清は中和活性を示したが、濃度によっては感染が促進されていた。これは治療などに使用されるモノクローナル抗体でも同じ傾向であり、低濃度では阻害活性よりもADE効果の方が優勢になる様だ。また、一部の血清は接種からの時間が経過するにつれてADE活性が優勢になるという結果が出ている。つまり、抗体量が一定値以下に低下すると、阻害効果よりもADE効果の方が上になるという可能性が示されたのだ。この現象を冷静に見直してみると、2回目接種後から一定期間が経過した人で感染率や重症化率が未接種群よりも高くなってしまうというデータと一致している。
また、今回の検討ではオミクロン株の感染に対してはいずれの血清も中和活性を示さなかった。また、オミクロン株感染に対して中和活性を示す血清はなく、オミクロン株感染に対してADE活性を示す血清が存在した。つまり抗体結合回避変異の存在は明確にADEリスクの増加と関連していると言えるだろう。
もちろん実臨床に於いて「ADEが起こった」ということを証明することは不可能に近いのだが、もはやあらゆる知見はその可能性を無視すべきでない事を示唆している。特に「細胞性免疫が低下した」「細胞性免疫回避変異株」「抗体価が一定値より低い」「抗体結合回避変異」これらはADEリスクに直結している事は疑う余地が無いように思う。だからと言って核酸ワクチンを打ち続けるという愚挙はあり得ない。今回の論文では「接種98日後の血清で中和活性よりADEの方が優勢になった」という結果があり、およそ3ヶ月も経てば抗体依存的な効果は期待出来ないことが示唆されている。3ヶ月ごとにワクチンを打ち続けるのが最善なのかどうか、皆さんが自身でよく考えてほしい。