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記事紹介:脳にダメージ「コロナ後遺症」なぜ起きる?
今日は下記の記事を見掛けたので紹介しておこう。
いつも言っている事だが、新型コロナウイルス最大の脅威は中枢神経系感染と神経症状である。この記事では、私が過去に紹介してきた論文を引用しながら、同じ様な危惧をまとめて紹介してくれている。
10カ国で100万件以上の医療記録データなどを基に進行中の研究(※1)によれば、ロング・コビットは主に「呼吸障害(60.4%)」「疲労(51.0%)」、さらに記憶力や注意力が衰える「認知障害(35.4%)」に分類されるということです。
いくつかの大規模な知見から概算すると、コロナ後遺症、Long Covidの割合はおよそ2~3割程度になると思われる。そして、その内3割強が神経症状を呈していると考えられる。現在までの総合的な判断として、新型コロナウイルスに感染すると症状の有無や強弱に関わらず神経への影響が10%程度の割合で起こっていると言えるだろう。また、神経系の症状や感染はワクチンや獲得免疫反応では防ぐことが出来ない。一方で、呼吸障害などの呼吸器症状については感染時の症状やワクチン接種などとよく相関する。これは標的となる組織と、そこにおける免疫応答の違いに依存するのである。
ロング・コビットの症状のうち、近年注目されているのが、「認知障害」です。米医学誌のNature Medicineに2022年9月に掲載された、コロナ感染した約15万人を含むアメリカの退役軍人のデータを基にした大規模研究(※2)では、感染後のアルツハイマー病のリスクが高まっていたことがわかり、注目されました。 感染した人が1年後にアルツハイマー病になるリスクは、感染していない人の2.03倍で、記憶障害は1.77倍だったということです。また、信頼性の高い複数の研究から、こうしたリスクは長期間にわたり継続することも示唆されています。 「『感染群の認知機能は非感染群より3年間のすべて時点で低下する』ことを示す研究(※3)や、『入院を要した患者の認知機能低下は20年分に相当し、急性期から1年後も脳損傷が持続している』ことを示す研究(※4)もあります。 アルツハイマーのような認知症を来しやすい患者は高齢者ですが、ロング・コビットの認知機能障害は小児期と青年期でも認められ、特に小児で記憶力や集中力の障害が多いことを示す研究(※5)もあります」
記事では上記の様に、認知障害、特にアルツハイマー型認知症についての言及を、論文から引用しながら行っている。さらにこの記事では私がいつも述べている新型コロナウイルス特有の特徴と神経系感染の関連にも触れている。
まずは、脳への新型コロナウイルスの直接感染と、特徴的なスパイク蛋白による神経への障害です。新型コロナウイルスは嗅覚神経や頭蓋骨の骨髄など少なくとも4つのルートで脳に直接感染し、このとき、ウイルスの成分の「スパイク蛋白」により神経細胞にダメージが生じます。
これは新型コロナウイルスのSタンパク質がACE2だけではなくNRP1という神経細胞に多く発現する分子を補助受容体として利用できるという特徴に関する記述である。私自身はこのNRP1への結合という性質が提起された瞬間に新型コロナウイルスのリスクを察知し、自分の中での警戒レベルを最大に引き上げると同時に、各所での警告を始めたのである。新型コロナウイルスの脅威というのは適当に言っているものではなく、科学的な機序に基づいた明確な特殊性を踏まえた危惧なのである。
その他にも記事では持続感染についての言及や、先週の記事で触れた性差に関する記述など、示唆に富んだ考察が多くなされていて非常に良い記事だったと思う。私の記事を全て読んでいると、内容自体は新しいものを含んでいないかもしれないが、単一の記事で概要を復習するには丁度良いものだと思い、紹介させてもらった。
(参考文献)
※1. Estimated Global Proportions of Individuals With Persistent Fatigue, Cognitive, and Respiratory Symptom Clusters Following Symptomatic COVID-19 in 2020 and 2021 - JAMA. 2022 Oct 25;328(16):1604-1615. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36215063/
※2. Long-term neurologic outcomes of COVID-19 - Nat Med. 2022 Nov;28(11):2406-2415. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36138154/
※3. Prospective Memory Assessment before and after Covid-19 - N Engl J Med. 2024 Feb 29;390(9):863-865. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38416436/
※4. Posthospitalization COVID-19 cognitive deficits at 1 year are global and associated with elevated brain injury markers and gray matter volume reduction - Nat Med. 2024 Sep 23. doi: 10.1038/s41591-024-03309-8. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39312956/
※5. Characterizing Long COVID in Children and Adolescents - JAMA. 2024 Aug 21;332(14):1174-1188. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39196964/
(参考記事)