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記事・論文紹介:「レプリコンワクチン」は長期免疫力で従来型を凌駕?

今日は下記の記事を見掛けたのでコメントしておこう。

上記の記事では論文を引用しながらレプリコンワクチンがファイザーのmRNAワクチンよりも長期に渡って高い抗体価を維持するという研究を紹介している。記事の記述が不親切なため(Lancetの姉妹紙という書き方をせず、ちゃんと雑誌名を正確に書くべき)、論文を探すのは少し面倒だったが、元の論文は以下のものである。

「12-month persistence of immune responses to self-amplifying mRNA COVID-19 vaccines: ARCT-154 versus BNT162b2 vaccine」
(Lancet Infect Dis . 2024 Oct 7:S1473-3099(24)00615-7. )

記事にもある通り、この論文では日本の11の臨床施設において、少なくとも3回のmRNAワクチン接種(最終投与は少なくとも3カ月前)を受けたことのある成人を登録し、自己増殖性RNAワクチンまたは従来型RNAワクチンのブースター投与を受ける群に無作為に割り付け、ワクチン接種前のベースライン時、およびワクチン接種後1、3、6、12カ月目に適格参加者全員から血清サンプルを採取し、新型コロナウイルスに対する中和抗体価を測定している。

この論文の問題点はいくつかあるのだが、まず過去にもコメントしているが、この様なIn vitroの感染阻害実験を基にした抗体価の測定に関して、ワクチン効果の厳密な考察は出来ない。論文ではこの点の実験手法の詳細が分からなかったので更に考察が難しいが、そもそも大きな差があるとも言えず、この差が臨床的に意味があるかどうかはまずもって不明である。

また、この論文の最大の問題点はそもそも研究しているのが製造販売している企業のグループそのものであるという点である。記事だけでを読むとその様なCOIが記載されていないので、独立した研究かと思ってしまうが、実際は製造販売元が自分達で行っている臨床研究である。なので、上記の微妙な結果そのものをどこまで信用・利用するかも判断が難しい。

それを踏まえて、仮に抗体価の維持という観点から自己増殖性RNAワクチンが従来型よりも強い免疫応答を引き起こすと仮定した場合、その機序は何なのだろうか?論文では何も考察されていないが、免疫学的にリスク・ベネフィットを考える上で重要なのはそこである。

論文の図からは、最大反応よりも維持の方に差がある様に見える。つまり、免疫応答の強さは殆ど変わらないのに長期に維持されるという点に差が出ているという事だ。通常、免疫応答は抗原が消失すれば過剰な免疫応答は抑制されるフィードバック機序がいくつも存在する。そうでなければ私達の身体は慢性炎症状態になってしまうからだ。であるならば、この現象の一つの可能性としてはシンプルに自己増殖性RNAワクチンによって長期に抗原そのものが残り続けているということが考えられる。自己増殖性RNAワクチンの特性を考慮すれば、あり得ない仮説ではないと思われるが、これをリスクと取るか、ベネフィットと取るかは各自に判断を任せることにしよう。

もう少し免疫学的に深く考察するならば、長期に抗体が維持される理由として抗体を産生するB細胞の性質に何らかの影響を与えている可能性などは考えられる。以前の記事で、従来型RNAワクチンと自己増殖性RNAワクチンの大きな違いの一つに、従来は核酸修飾によって回避されていたTLR7へのシグナル伝達が自己増殖性RNAワクチンでは起こってしまうという可能性を記した。このTLR7のシグナルというのはB細胞の活性化を引き起こす代表的な核酸認識シグナルであり、TLR7の変異や異常がB細胞の異常な活性化を引き起こし、全身性自己免疫疾患の原因となっている事はよく知られている。自己増殖性RNAワクチンに特有の分子生物学的特徴が、B細胞の性質に影響を与えている可能性は十分に考えられる。これも、免疫反応が強くなって嬉しいと考えるか、自己免疫疾患の大きなリスク要因と考えるかは各自の判断に任せるとしよう。

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