論文紹介:分子模倣とHLA多型がmRNAワクチン接種者の自己免疫を促進する可能性
今日は新型コロナウイルスに対するRNAワクチンと自己免疫疾患発症機序の関連について、エピトープの自己抗原に対する類似性やHLAの型との関連からin silicoで検証した論文を紹介しよう。論文は以下のものである。
「Molecular Mimicry and HLA Polymorphisms May Drive Autoimmunity in Recipients of the BNT-162b2 mRNA Vaccine: A Computational Analysis」
(Microorganisms . 2023 Jun 28;11(7):1686. )
論文でも記述のある通り、世界的な核酸ワクチン接種によって、ワクチン接種後に自己免疫疾患がde novoで発生したとの報告が増加している。以前から、ワクチン接種後の血清中の抗体が自己抗原と交差反応するという研究などはあったのだが、今回のin silico解析は、最も広く投与されているファイザーBNT-162b2 mRNAワクチンがコードするタンパク質エピトープの存在をin silicoで包括的に調べることを目的としている。具体的にはmRNAワクチンの配列から、免疫反応を誘導するエピトープとの類似性が存在するかどうかをデータベースなどを用いて調べたという研究だ。今回の論文ではエピトープのデータベースとしてIEDBを用いている。ここでは、実験で明らかにされたT細胞およびB細胞エピトープのカタログや、MHC結合アッセイ、MHCリガンド溶出アッセイのデータ等を提供しており、免疫反応に関わるタンパク質の配列がおおよそ網羅される。その結果、BNT-162b2 mRNAワクチンは、エクトヌクレオシド三リン酸ジホスホヒドラーゼ1(ENTPD1)、神経細胞接着分子L1様タンパク質(CHL1)、溶質キャリアファミリー35メンバーG2(SLC35G2)、クロマチン修飾関連タンパク質MYST /Esa1関連因子6(MEAF6)、およびジンクフィンガーホメオボックスタンパク質2(ZFHX2)といったヒトタンパク質に対してと90%の相同性を示すエピトープを含んでいるようであった。
これらのタンパク質の中には自己免疫疾患と関連があるとされるHLAアリルによって提示される可能性があることも確認された。自己免疫疾患の発症には遺伝的素養と後天的要因の複合が関係すると書いてきた。その遺伝的素養の一つとして明確なものはT細胞に抗原提示を行うHLAの型である。このHLAに抗原が提示されてT細胞が活性化するわけだが、どの様な抗原が提示される可能性があるかはHLAのタイプによって異なる。つまり、自己抗原が提示され得るHLAがあると考えることができるのだろう。そして今回の結果を簡単に述べると、MEAF6、CHL1、およびZHX2に属するいくつかのエピトープは、自己免疫疾患との明確な関連が報告されているクラスIまたはクラスIIのHLAアリルによって提示される可能性があるということだ。これらのHLAと関連する疾患には、多発性硬化症、1型糖尿病、乾癬、関節リウマチ、全身性エリテマトーデスなどが含まれている。
また、興味深い事にMEAFおよびZFHX2のエピトープと結合すると予測されるHLAアリル(DRB1*15:01)は、白人および日本人のBNT-162b2 mRNAワクチン接種者において、抗スパイクB細胞およびT細胞応答の増強と正の相関があったという報告が考察に書かれている。当然と言えば当然のことなのだが、ワクチンの有効性、副反応の強さ、自己免疫応答リスク、それらは全てHLAの型に伴う個人差として現れる可能性を考慮するのが重要であろう。それについての基礎的な研究が、この様なin silicoの解析を基に進んでいくことが求められる。
また、繰り返しになるが、この様なエピトープの相同性に起因する自己免疫応答はウイルス感染や核酸ワクチン以外のワクチンでも基本的に同じリスクを有している(HLA-Iに提示されやすいという核酸ワクチンに特有のリスクはあるが)。何が共通のリスクであり、何が核酸ワクチンに特有のリスクなのかを冷静に判断することも大事である。
(参考)
今回は専門的な用語・内容もあったので下記などを参照してもらうと理解の助けになるかも知れない
・In silicoとは?
・抗原提示と免疫活性化、MHC(HLA)について
・核酸ワクチンと自己免疫疾患