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食べるワクチン

最近とんでもビックリなデマとしてトマトにワクチンを混ぜて流通させているという言説がネットで流れていたらしい。弁護士ドットコムに掲載のニュースとして下記のようなものが見付けられた。

『ワクチン入りトマト流通プロジェクト、ワクチン入りのトマトが出来たとの情報——。』

そんな真偽不明の情報を紹介する画像や記事が、インターネット上で拡散している。この「計画」にかかわる企業として、カゴメやカルビーなど、実在する15の大手企業の名前も紹介されている。

そのため、いわゆる「反ワクチン」の人たちなどから、企業への不買まで呼びかける動きがある。

ということらしい。勿論、こんな内容は全くの出鱈目なのであるが、「トマトに抗原を発現させるという食べるワクチンの研究」は実際に行われているからそれをデマに流用して流されたものなのであろう。

以下は筑波大学の小野研究室から引用させていただく。

植物による経口ワクチンの生産に関する研究

遺伝子組換えトマト果実における経口ワクチンの生産

食べるワクチンとは、植物で様々な病気に対するワクチンを生産し、それを食べることによって、病気を予防しようというものである。食べるワクチンでは、食物に含まれている免疫誘導物質が腸管粘膜に直接届くため、現行の注射型ワクチンでは誘導できなかった粘膜免疫を誘導することが期待される。また、食べるワクチンは、抗原部位のみを生産するため、弱毒化ワクチンや不活性化ワクチンでまれに発生する感染事故を防ぐことが可能である。問題点としては、ワクチンが人の体内で消化されずに、腸管粘膜まで届く必要がある。そこで、本研究では、ワクチンの運び屋(キャリアー)として腸管粘膜まで消化されずに届くことが知られているHEV-VLP(E 型肝炎ウィルス)(Virus-like Particle)遺伝子を用い、新型インフルエンザのM2抗原部位のみを連結した遺伝子をトマト果実で特異的に発現するE8プロモーターを用いて発現させるベクターを構築し、トマト(Solanum lycopersicum)品種マイクロトムに導入した。トマトは生食が可能であるため、生産したワクチンが加熱処理によって分解されることなく、腸管粘膜へ届くことが期待される。また、現行のインフルエンザワクチンは新型インフルエンザには効果が無いが、インフルエンザの亜型に共通しているM2抗原を用いることにより、将来流行が予想される新型インフルエンザに対しても効果があるワクチン開発が可能であると予想される。

ということでインフルエンザワクチンとして食べるワクチンをトマトを用いて研究しているところがあるということだ。恐らくこういう研究をどこかで知った人が適当なデマを流したのであろう。

以前粘膜ワクチンの項で説明したことがあるが、経口ワクチンは粘膜免疫を誘導することが期待される製剤の一種である。もっとも、そこで説明した通り、十分な免疫を誘導することが難しいなど、有効性に関する問題点というのは多く存在する。上記の研究についてはウイルスの膜タンパク質とインフルエンザの抗原を融合させる事で、体内での分解を抑え、効率的に腸管に送達させる事が出来る様に工夫している点が特徴的なようだ。このような経口ワクチンの技術発展は、様々な病原体に対する感染防御策として非常に重要な位置づけであると言える。

逆に言えば粘膜ワクチンは非常に重要な研究なのでこの様な風説で研究の障害になるような事態は避けてほしいものだ。


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