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論文紹介:自己増幅RNAの生体内分布、発現動態、および反応原性

レプリコンワクチン、いわゆる自己増殖性RNAワクチンが使用され始めた。まだ人に於ける臨床報告などは挙がってきていないが、マウスを用いた薬理・薬剤学的な論文があったので紹介しておこう。

「Delivery vehicle and route of administration influences self-amplifying RNA biodistribution, expression kinetics, and reactogenicity」
(J Control Release. 2024 Oct:374:28-38.)

この論文では自己増殖性RNA(saRNA)ベースのワクチン、例えば日本におけるCOVID-19用のARCT-154について、その発現動態と免疫学的な反応原性に対する薬物送達方法と投与経路との関係を調べている。イオン化可能な脂質ベースのナノ粒子(LNP)と高分子ナノ粒子を用いて、ルシフェラーゼという蛍光タンパク質をコードするsaRNA製剤を作製し、それをマウスに対して6つの異なる投与経路{筋肉内(IM)、皮内(ID)、腹腔内(IP)、鼻腔内(IN)、静脈内(IV)、および皮下(SC)}を通じて投与し、1か月間のタンパク質発現と炎症性サイトカインの産生を調べている。

蛍光を指標にしたタンパク質発現の分布パターンは、LNP製剤では全ての投与ルートで一定の生物発光が観察され、その様式は投与経路によって大きく異なっている。また、肝臓での発現欠如という様式が全ての経路で一致しており、saRNA製剤は比較的投与部位に留まって作用するというパターンになる様だ。

炎症性サイトカインの産生については、saRNA送達後4時間で急性炎症性サイトカインの有意なアップレギュレーションが明らかになった。特に、TNF-α、IFN-γ、およびIP-10レベルは、別の送達経路で観察された値よりもIP経路によって高くなるということが分かる。IM経路とID経路は同程度の炎症反応を引き起こし、IM経路の方がID経路よりわずかに高くなっている。製剤のIV投与は、解析されたサイトカインの上昇が最も少なかった。IV投与は蛍光の発現も分散的であまり強くなかったことから、反応が緩やかになっているものと考えられる。

今回の論文はあくまでマウスとモデル製剤を用いた基礎的な研究であるが、自己増殖性RNA製剤の生物学的特性を考える上で一定の意味を持つ結果を示してくれているのだろう。少なくとも、自然免疫の活性化が引き起こされる事は、他の核酸ワクチンと同様であり、その点に関するリスクは変わらないように思うが、一方で臓器送達性の違いなどはあるかも知れない。核酸ワクチンではクラスI抗原提示によるCD8T細胞活性化と自己組織攻撃による臓器特異的な自己免疫反応がリスクとなるのだが、この様なRNA製剤と投与経路に応じた異なる生物分布プロファイルは、そのリスクを科学的に考察する上で有用になるだろう。いずれにしろ製剤特異的な炎症反応を明らかにすることは重要であり、今後臨床での治験が蓄積するに従って考察の精度が高まると期待できる。この研究は、saRNAのデリバリー、生物分布、免疫学的な反応原性を支配する複雑なダイナミクスを明らかにし、リスクや有効性を今後の臨床データと併せて考察する上で有用な材料になると思われるのでメモ代わりに記事としてみた。今後は臨床報告などで炎症性の副反応が報告されてくればまた紹介していく。

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