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自己複製RNAワクチン製剤について

前回少し触れた内容であるが、自己複製RNAワクチン、いわゆるレプリコンワクチンが今秋より使用される。今回はそのモダリティについて、免疫学的な視点から問題点を補足しておきたい。

実は私はここまであまりこの新規RNAワクチン製剤についてコメントをしていない。理由はいくつかあるのだが、第一に大前提としてRNAワクチンの時点で免疫学的リスクは高く、それ以上をわざわざ提言する必要が無いということ。第二に、レプリコンワクチンについても非科学的な議論が多々巻き起こっており、あまり触れたくないということ。第三に、まさか本当にこの様な製剤が承認されるとは思わなかったということ。以上の理由からあまり関わって来なかったのだが、実際に使用されるとなった以上、免疫学者として必要な情報は伝えておきたい。

過去に何度も述べている通り、核酸ワクチンの免疫学的特殊性とそれに基づくリスクは以下の通りである。
①核酸認識シグナルの活性化(それ自体が自己免疫疾患の発症リスク)
②細胞内抗原のMHC-I提示による細胞性の自己免疫応答誘発
③核酸分子そのものが自己免疫反応の標的抗原となる

大前提として、全てのリスクについてレプリコンワクチンは通常のRNAワクチンよりも大きな懸念がある。なぜなら自己複製によるRNA分子の大量増幅がどの程度の免疫活性化を引き起こすか、制御が出来ないからである。仮に免疫誘導能が通常のRNAワクチンより高いという結果が事実であれば、それはそのまま核酸ワクチンとしての免疫疾患誘導リスクが高い事を意味する。

それ以外の特殊性に関して補足していく。②については、細胞内で抗原を生成するという絶対的な機序に依存するため、全ての核酸ワクチンで同等のリスクである。これはレプリコンワクチンでも当然同じであるため、特にこれ以上は述べない。③についても、RNA分子の増幅が起きればその分自己抗原としての暴露リスクも高まるという当然の帰結になる。

現時点で最大の懸念は①の核酸認識シグナル活性化に関するレプリコンワクチンの特殊性である。ここには既存のRNAワクチンと一線を画したリスクが存在する。既存のRNAワクチンは修飾ウリジンが使われており、これによってTLR7などエンドソーム内の核酸認識シグナルは活性化しないように工夫されている。これは過剰な免疫反応が危険である事は作っている側も理解しているからである。一方で、RIGなど細胞質における核酸認識シグナルは既存のRNAワクチンでも強く活性化されるため、その免疫疾患発症リスクは低いものではない。

一方で、自己複製RNAワクチンから自分の体内で作られたRNAは当然ながら自然な形のRNAである。つまり、TLRによる認識回避という安全装置は機能しない状態のRNAが大量に作られる事を意味するのだ。これは明らかに、既存のRNAワクチンよりも大きな自己免疫疾患発症リスクに繋がると懸念される。

もしかするとレプリコンワクチンは少量で効果があるから安全性が高いという妄言を目にしたことがあるかも知れない。しかし、こんな文章に騙されるのは相当な無知蒙昧だけであろう。少量で効果がある理由は、体内で無秩序に危険なRNA分子が増幅されるからなのであり、それに伴う免疫学的リスクを正しく認識・把握する事はとても重要である。その為の基本的な生物学的・免疫学的知識と新規モダリティについての知識をこの機会に学んでおこう。

(参考論文)
「Self-Amplifying RNA Vaccine Candidates: Alternative Platforms for mRNA Vaccine Development」(Pathogens. 2023 Jan; 12(1): 138.)
「Self-amplifying RNA vaccines for infectious diseases」
(Gene Ther . 2021 Apr;28(3-4):117-129. )

(参考)


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