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論文紹介:核酸ワクチンによる自己免疫性肝炎の総説
今日は下記の総説を紹介しよう。
「Autoimmune-Like Hepatitis Related to SARS-CoV-2 Vaccination: Towards a Clearer Definition」
(Liver Int. 2025 Jan;45(1).)
新型コロナウイルスパンデミック以降、RNAをベースにした核酸ワクチンが自己免疫疾患を多数誘導していることが証明されている。その中の一つに自己免疫性肝炎があり、心筋炎に次いで代表的な臓器特異的自己免疫疾患の副作用となっている。mRNAワクチンに関連する急性肝障害の症例における免疫学的研究からは、その病態が通常の肝炎とは異なる独自の病態生理を持つことも示唆されており、ワクチンでコードされたスパイクタンパク質やそれに対するCD8T細胞の自己反応が、異常な免疫応答を引き起こす中心的な役割を果たしていると推測されている。また、殆どの研究では、肝障害は2回目のワクチン接種後により頻繁に観察されたという事実があり、その因果関係を強く示唆している。
特に重要なのは私も常に主張しているMHC-I経路を介したCD8T細胞の活性化と浸潤である。mRNAワクチンは、通常のワクチンとは異なり、細胞質内で抗原を生成することから、MHC-Iに依存した抗原提示をRNA分子が到達するあらゆる組織のあらゆる細胞で生じさせるのだ。これを踏まえて総説を読んでも、実際に肝臓の深部空間免疫分析により、細胞傷害性CD8T細胞が炎症性細胞の浸潤に関して最も豊富な免疫細胞サブセットでることが示されている。さらに著者らは、末梢血および肝臓において豊富なスパイク特異的活性化CD8T細胞を特定し、これらの細胞の活性化マーカーの発現が疾患活動性と相関していることも紹介している。興味深いことに、肝内CD8T細胞プールは血液と比較してスパイク特異的CD8T細胞が豊富であり、スパイクタンパク質に関連した自己免疫反応であることが強く示唆されている。
それに加えて、スパイクたんぱく質を発現するmRNAは核酸ワクチン接種後の急性肝障害を持つ患者の肝細胞の細胞質に見つかっており、実際に肝臓に送達されたmRNAが宿主の翻訳機構によってスパイク抗原を生成するために利用され、その後肝細胞の表面にMHC-I分子を介して提示されている可能性がよく分かる。これらの観察結果は、mRNAワクチンに関連する肝障害が免疫学的な特殊性と特異な病態生理を持ち、ワクチンでコードされたスパイクタンパク質が異常な免疫応答を引き起こす中心的な役割を果たしていることを示唆しているのだ。
遺伝子の多型に注目した最近の米国の研究も紹介されている。mRNAワクチン接種後に急性肝炎を発症した23人の成人における肝障害の発症に寄与する可能性のある遺伝的要因が評価された結果、通常の自己免疫性肝炎を引き起こすHLAアレル(HLA-DRB1*03:01およびHLA-DRB1*04:01)は大きな偏りが見られなかったが、内因性アミノペプチダーゼ1(ERAP-1)のHap6ハプロタイプとERAP-2遺伝子の変異(rs1263907)は、ワクチン関連肝障害の患者において有意に過剰な出現が見られた。ERAP-1およびERAP-2は肝臓における抗原処理に関与していることから、肝臓で発現するスパイクたんぱく質の蓄積などが自己免疫反応誘導と関係している可能性が推測できる。この様な遺伝的に特徴づけられた症例の数は少ないものの、これらの結果は、COVID-19ワクチンに関連する急性肝炎がまれでありながら独特な薬剤誘発性肝障害ネットワークの形態であることを示唆しており、SARS-CoV-2スパイク糖タンパク質が素因のある個人において不適切な免疫応答を引き起こすことを示している。
この総説ではこの他にも臨床的な知見や実験室レベルでの機序解明に至るまで、様々な内容を紹介してくれている。今までに報告された症例を包括的にレビューしながら、その診断的特徴や免疫学的な機序、さらに遺伝的要因についての考察まで幅広くまとめてくれている良いレビュー論文である。紹介されている様な自己免疫性肝炎の発症は、頻度としては稀であるし、治療によって寛解するケースも多いが、一方で肝移植を必要とする症例や死亡を引き起こす症例が報告されている。また、新型コロナウイルスワクチンに関連する急性肝障害の異質な臨床実体には、自己免疫性肝炎と同様に長期的な免疫抑制を必要とする患者や、自己制限的な肝損傷を持つ患者が含まれ、これは自己免疫様肝炎の独自の形態を表している可能性がある。筆者らは、この様なワクチン誘導性の肝病態をSARS-CoV-2ワクチン関連肝障害(SVALI)と呼ぶことを提案しており、一般的に周知されて副反応の研究や承認が進むことを望んでいる。