コラム:ノーベル賞2024
今年のノーベル医学・生理学賞が発表された。今年の受賞テーマは「マイクロRNAと翻訳制御の発見」という事だ。
核酸ワクチンについて説明して久しいが、一般の皆さんもメッセンジャーRNA(mRNA)についてはよく知っている事だと思う。一方で、マイクロRNA(microRNA;miRNA)というのはなじみがないのではないだろうか。これは遺伝子から転写されるmRNAとは異なる機能を持つ比較的小さいRNA分子である。
通常のセントラルドグマでは遺伝子情報を持つDNAからmRNAが転写され、その配列を基にタンパク質が翻訳される。これが通常の遺伝子発現の流れ=セントラルドグマの基本である。一方でmiRNAはタンパク質へは翻訳されず、対応する配列を持つmRNAの翻訳を制御するという役割を持つ。核酸は対応する塩基に結合する性質を持っている訳だが、相同配列を持つmRNAにmiRNAが結合することで、mRNAの分解を促進したり、タンパク質を運んでくるtRNAが結合できなくして翻訳を抑制したりするということだ。
この機能自体は生命現象に於いて重要であると考えられている。また、進化論的に言っても、タンパク質の様に複雑な分子でなくても、たった4種類の塩基からなるRNAという単純なシステムだけでこの様な複雑な制御系が成立し得るというのは非常に興味深い事である。生命の発生という観点に立てば、最初の生物というのはRNAの複雑な機能を最初の自己複製機構として獲得し、進化していったと考える説もある。RNAは遺伝子発現の基となるmRNAだけでなく、様々な種類が存在し、多様な機能を持っている。この様な「RNAワールド」は生物学に於いて重要な分野だと言えるだろう。
一方で、正直言ってノーベル賞の受賞テーマやタイミングとしては少し違和感もある。そもそもマイクロRNAの研究については2006年に類似したRNA同士の発現制御であるRNA干渉という現象がノーベル賞を受賞しており、それもあって受賞の可能性は低いとされてきた。それが突然に2年連続でRNAに関するテーマで取り上げられるというのは露骨ではないか?昨年のRNAワクチンに対する受賞は明らかに政治的な意図に依るものだというのは疑いようが無い訳だが、今年のmiRNAに対する受賞は「近年はRNAというテーマが重要なので、去年の受賞も政治的ではなくRNAワールドに対する貢献ですよ」という「政治的な言い訳」をしている様に感じる。今年は基礎寄りの研究になるという大半の予想はその通りだった訳だが「2連続でRNA」というテーマ選択には明らかに何らかの意図を感じる訳だ。世の中の歪みを強く感じさせる今年のノーベル賞であった。
<追記>
今年のノーベル賞は本当におかしくなっている様だ。物理学賞、化学賞が相次いでAI関連の受賞となった。100歩譲って物理学賞にニューラルネットワークの研究が受賞するのは理解出来る。AIと呼ばれる機械学習の基礎理論だからだ。だが、化学賞にまでAIを用いた研究が受賞となるのは本当に意味が分からない。こちらはAIを利用してこういう結果を出しましたというだけだからだ。最早ノーベル賞は根本的な思想や本質的な意義を完全に失ってしまったと感じる。下記の記事でも批判されているが、完全に資本主義に阿り、ノーベルの遺志は失われてしまったのだろう。
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