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「アイヌの神様が引き合わせてくれた」関わりの深さが生んだ白糠町とのエピソード | 白糠の挑戦事例に関して<中編>

北海道白糠町での挑戦事例にまつわるストーリーの中編です。白糠町での事業の中で経験した、印象的なエピソードを聞きました。

▼前回記事

ー白糠町で事業を展開していく中で、特に印象に残ったエピソードを教えてください!

もう3年近く事業を行っているので沢山あるのですが、中でも印象に残ってるのは、現白糠町長の棚野さんから言われた「アイヌの神様が引き合わせてくれた」という言葉です。

ーすごいフレーズですね。どのような経緯を経てそんな言葉をいただくことができたのでしょうか。

では、棚野町長と初めてお会いした時から説明しますね。町長と初めてお会いしたのは取引が始まって半年くらいのことで、場所は渋谷にあったイミュ―の1つめのオフィスでした。当時かなり緊張しながら、お越しになるのを待っていたのを覚えています。

ご挨拶の後にひとしきり町のふるさと納税に関連するデータ等を説明したのですが、棚野町長から不意に「りんごを作れる人を知りませんか?」と言われました。言葉の意図を理解しかねたため話を詳しく聞いてみると、温暖化の影響で現在の白糠町が10年前の秋田と同じ気温になったためリンゴの栽培を検討しているとの事でした。その時咄嗟に「探してみます」と言ってしまったため、関係筋からシャインマスカットの農家さんを白糠にお連れしました。

私は人から自分の実績や人柄を知っていただく前のタイミングでは、どのような論理を元に発言し、どのようにそれを実行するかがとても重要だと思っているのですが、正にこの時の対話や行動が後の信頼に繋がったと感じています。この1件から、ふるさと納税だけの関わりではなく、町を共に魅力的にしていく活動の一員として、様々なお話をいただけるようになりました。

ー打ち解けていく中で貰った言葉が「アイヌの神様が引き合わせてくれた」だったんですね。

白糠でお昼をご一緒している時にいただいた言葉で、強く印象に残っています。

ー他にも想い出深いエピソードはありますか?

今年(2024年)の1月にあった出来事なのですが、白糠の漁師さんと一緒に福井県にある美浜町の漁港へ視察に行ったことです。

地域の水産資源にブランド価値を付けて全国へ販売するイミュ―の仕事は、魚を売ってくれる漁師さんありきのものです。そのため、より質の高い商品を販売しようと考えた時に、地域で水揚げされる魚の品質、もっと言えば魚を水揚げする際の漁師さんの保存技術の向上が欠かせません。ですが、北海道は魚が大量に採れるので、漁師さんが売るものに困ることもなく、神経締めや血抜きで鮮度を維持して商品価値を高めようとする文化がないんですよね。

そんな白糠町の漁師さんの中でも神経締めをできるのが、1月に美浜にお連れした木村太朗さんという方でした。木村さんは白糠町の役場から地域漁業の期待の星として紹介されて知り合ったのですが、その時から「質の高い魚をつくっていかないと地域に未来がない」と仰っていたんです。実際に魚の付加価値を上げるために、自分で秋鮭などを神経締めしてお客さんに販売をしていたけれど、一人では販路の開拓までは手が回らない状況でした。

ー黒田さんをはじめとしたイミューと同じ考えだったということですね。

はい。それもあってすぐに意気投合し、イミュ―として木村さんから質の高い魚を仕入れて販売していく方向で進みました。実際に極寒ブリの加工工場が出来てからは、わざわざ魚を軽トラで工場まで運び込んでくれたりと、色々な形で私たちの活動を応援してくれています。そういった日頃のお礼の想いを込めて、木村さんを美浜の視察にお連れすることにしました。

ーその視察は、何が印象的だったのでしょうか。

美浜と白糠の間で、魚の締め方のクオリティと、漁協と漁師の在り方の違いの2点が大きく異なると気が付いたことです。

まず魚の締め方について。今回視察をした美浜漁協では、8年前から実店舗を持つ食品流通会社と一緒に魚づくりをされており、色々な流通経路とそれに伴う適切な処理の仕方が開発されてきました。中でも、「美浜三段締め」という素材の鮮度を最大限保つための技法は、視察の大きな収穫でした。

一方の白糠町では、魚の流通がシンプルなため、基本的には獲った魚は市場に流すしかなく、対応する魚の処理のバリエーションも同じくシンプルなものでした。この白糠のやり方は、白糠の既存の流通に対しては充分だったものの、イミュ―で行う全国へ直送や、それに併せた品質の向上に求められる処理としては、もっと高めるポイントがあると気が付くことができたんです。

「漁師の仕事は魚の命を奪うことなのだから、最高に美味しくする必要がある。」これは美浜で教えていただいた大切な教えです。魚の処理の仕方の違いや、そこに関連する市場の違い、漁師さんたちの想いを学べたことで、イミュ―で扱う魚の品質向上と木村さんへのお礼の両方が叶う視察になりました。

ー漁協と漁師の在り方の違いについても聞きたいです。

はい。ざっくりと説明すると、白糠の漁師は個人事業主みたいなもので、漁協は漁師と仲買の間に入り、双方の取引を円滑に回す潤滑油のような存在です。そのため漁協に主体性はなく、漁師と仲買のためのセーフティーネットのような役割を担っています。それに対して美浜では漁協の主体性が非常に強く、漁師はそこに雇われるサラリーマンのような立ち位置でした。

ーその違いがどのような差に繋がるのでしょうか。

一番変わるのは、漁協と漁師のどちらが主体的に動くかです。過去の成り立ちを割愛して話すと、白糠では、漁師さんが自分で水揚げした魚の1%を売り上げとして受け取る形式を取っているため、漁師さん達の頑張りが反映されやすいものの、その集まりである漁協に主体性はありません。

一方で、美浜の漁師さんの売り上げは町全体の水揚げの7%を全ての漁師さんに分配する形式が取られています。なので美浜の場合は、逆に漁師さん達は釣れた魚の扱いなどにはあまり興味がなく、魚が売れるための品質向上は漁協が行っているんですよね。

ー資本主義と社会主義みたいな違いですね。

その通りです。美浜に視察に行く前はこの違いに気が付かなかったので、白糠の魚の価値を上げるための陸上畜養の設備を漁協に用意してもらうよう掛け合っていました。ですが、この資本主義的な白糠の漁協のシステムに気が付いたことで、漁協ではなく自分たちでその設備を持つ方向に思考が切り替わりました。

またこの考え方によって、熱意のある漁師さんと積極的に土台を固めながら、着実に全国への流通に向けたオペレーションを組めるようになります。漁師さんから水揚げ直後の活魚を付加価値が付く前に買い、自分たちの陸上蓄養設備で価値を付けて販売することで、自分たちで価格をコントロールし、得た利益を適切に漁協や漁師さんにお返ししつつ、投資活動をしていくことができます。

ー棚野町長とのお話もこちらも、イミューが地域に深く入り込んでいるからこそ信頼を得られたエピソードですよね。会社として、地域やそこにいる方々との信頼を育むにあたって意識していることを教えてください。

これは社員にも良くしている話なのですが、相手との目線をどう合わせるのか、ということを意識しています。お互いの利害関係を前面に出して協議すると衝突しますし、仮にうまく纏まってもそれは一時のみで、すぐに破綻してしまいます。

対して、互いの共通の目的を設定することができれば、目線を合わせ、お互いを見合うのではなく、同じ方向を向くための対話ができると考えています。地域の外から来る私たちと、中にいる方々との共同の取り組みは多くの困難がありますが、信頼関係を構築していくことは、その解決の上で欠かすことができません。

またイミュ―では、信頼を会社の原則として定めて、その信頼を得るための要素を、その人が何をやって来たかという「実績」、その人が何を言っているかという「論理」、その人がどのような性格から何を意図して話しているかという「人柄」の3つと置いています。この3つがないと人は信頼をしてくれないし、逆にこの3つをバランスよく高めていくことで信頼を勝ち得る事の出来る人間になろうと話しています。

ーありがとうございます!続く後編では、白糠での事業を展開するにあたってのイミューが大事にしている想いや、これからふるさと納税に力を入れていく自治体にも応用できる戦略について聞いていきます。

▼後編記事はこちら

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