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海外メディアから読み解くイマーシブシアターの定義
日本でのイマーシブシアター
日本においてイマーシブシアターとは何か、を議論するのはかなり難しいです。その理由として「イマーシブ」を「没入」と翻訳したことが、1つの理由でないかなと私は思っています。
「没入」を広辞苑で調べてみると...
①しずみ入ること。おちいること。「水中に―する」
②没頭すること。「研究に―する」
③官府に取り上げること。没収。もつにゅう。
… どれも、なんかピンときません。
だからこそ、人によって「自由に会場を歩き回る」「観客と出演者の垣根がない」「自分で物語のヒントを探して答えを見つける」など、様々な定義が生まれているのではないでしょうか。
そこでここでは、世界ではイマーシブシアターがどう定義されているのか、書いてみたいと思います。
世界のイマーシブシアター
まず最初に、「イマーシブ」とはなんでしょうか。
Cambridge Dictionaryには以下のようにあります。
Immersive: seeming to surround the audience, player, etc. so that they feel completely involved in something
観客やプレイヤーを囲んでいること、そしてその物事に自分が含まれるように感じること
… 広辞苑よりなんかぴんときますね。
世界の没入型体験における最大メディア「No Procenium」の編集長であるNoah J Nelson は以下のように書いています。
Immersive — an experience that physically (and usually narratively) puts the audience on the same level in which the primary action of the experience occurs.
イマーシブ(没入型)とは、「その体験の主要な事象が起こるのと、同じレベルに観客を置くこと」を指す。
彼によれば、イマーシブと呼ばれる作品の中では、観客の視野に入るものは、観客自身も含めて、全て作品の一部となります。このとき、登場人物や作品自体(VRなどの場合はデジタルコンテンツ)との身体的なやりとりや、感情的な交流が含まれる場合もあれば、含まれない場合もあります。
例えば、イマーシブミュージアムは身体的なやりとりや感情的な交流はなく、デジタルの絵画を一方的に見る感覚です。
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一方、デジタルアーティストのJoon Moonさんの作品では、自分の動きと合わせて、影が動く仕組み。こちらは、身体的なやりとりや、感情的な交流はあるという理解になります。
AIの影と自分が連動して、自分が物語の中に入れる体験。実際にどんな感覚になるのか、やってみたい! https://t.co/931TOL4OJd
— Yui Takeshima (@hellomsyui) July 21, 2023
一方、誤解を生みやすいのは、円形劇場、キャバレーの演出、観客に直接語りかけるモノローグ、通路を出入りする俳優、バルコニー、テーブルトップ、プラットフォームなどに置かれたパフォーマーなどです。この場合は、「演者だけの空間で演じられるパフォーマンスを、観客が別空間で見る」という定義になり、Noah J Nelson さんによると「イマーシブ」という考え方には入らないとのことです。
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つまり「イマーシブ」の定義には「目の前でパフォーマンスが行われ、観客自ら行動ができる」は入っていません。
あくまでもイマーシブとは「どんな形であれ、観客が作品世界の一部になる」ということだということです。
この「イマーシブ」という傘の下に、様々な分岐が生まれます。
ミュージアム、インスタレーション、脱出ゲーム、VR/AR、MR、メタバース、そしてシアターなど...
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ではここで、「イマーシブ」に「シアター」の定義を加えてみましょう。
イマーシブシアターとはシンプルに、
「観客が作品世界の一部になる、演劇体験」である
つまり、世界におけるイマーシブシアターの定義から考えると、「自由に会場を歩き回る」「観客と出演者の垣根がない」「自分で物語のヒントを探して答えを見つける」というのは、あくまでも「イマーシブシアター」の中の、バリエーションであることがわかります。
「観客が作品世界の一部になる、演劇体験」であれば、着席/自由回遊/誘導型はさまざまありますし、出演者が目の前いる場合もいない場合もあります。様々な種類のイマーシブシアターが誕生することこそ、この新しい演劇ジャンルが大きくなっていくのかもしれません。
次の記事では、具体的な海外のイマーシブシアター事例と、daisydozeが目指すイマーシブシアターについて、書いてみます。(こちら)