フムスとベストとベレー帽
戦場カメラマン渡部陽一氏の
講演を聞いた。
背が高く姿勢の良い礼節ある紳士が
登場すると、なんだか感激だった。
壇上にあがると、
ゆっくりと深々とお辞儀をして
ご挨拶される。
例の語り口調で、
戦場の様子や国々の文化、生活、
人々について大きな身振りをつけて
話される。
80分ある講演時間は、
まるで数分に感じてしまった。
それもそう、3分の2をうたた寝で
過ごしてしまったのだ。
渡部氏の独特の口調は
眠気を誘う。
要点までの対空時間が長く
それでそれで?と着地点が定まらないまま
またどこかに飛んで行く…
そんな気分。
はっと目が覚めたのは、
講演会の最終章、戦場メシと
戦場服について語り始めたころ。
彼の大好きな食事は
豆料理🫘だそう。
ひよこ豆などをすりつぶして
ペースト状にしたフムスがお気に入りで、
戦場以外でもいただくと言う。
なるほど、豆は多くの栄養を含む
スーパーフードだから、
「渡部陽一」の溌剌とした
出立ちにも頷ける。
トレードマークのベレー帽は
妹さんからの贈り物で、毎日洗っては
被るお守りのようなものなのだそうだ。
ベストはまったく同じものを10着
持っていて、破れたりすると
即座に予備の同型ベストに着替えるのだとか。
現地の危険な状況や、
突然襲う過酷な場面を果敢に進むのだ。
常に一定にした身の回り品は
安心を創り出す。
講演時、
近くの席に赤ちゃん連れの
女性がいた。
お菓子や果物をボリボリ食べさせていて
会場内にニオイがこもる。
食べさせすぎたのか、
ゴホゴホむせ始めて、周りのお客さんに
食べカスが飛ぶ。
スクリーンに映り出される戦場の
写真に注視させようとするも、
小さな子に興味ある訳がない。
その後、ギャーンと大声で泣き始めて
係の人に促され、その女性と赤ちゃんは
場外になる。
赤ちゃんを同席させるほどの聴きたい講演
ならば、まずは周囲をよく見てほしい。
何より、1時間半もの間、
大人しくさせられる赤ちゃんが
可哀想だ。
会場には無料託児所がある。
親切な保育士さんが、しっかりと
預かってくれる。
子供は社会の宝なのだから、
むりやりに大人の世界に連れ込んで
お菓子で口を塞いだり
羽交締めで行動制限させるのは
共感できない。
戦場も日常も悲喜こもごも。