1000年続くカモの恩返し
北極圏すぐ南の北大西洋、ヴェガ島を中心に大小合わせて6,500以上の小島、岩礁、その周辺の浅瀬で構成される、風光明媚な海の景観が広がります。
これらは、海岸線に沿って列をなすように規則正しく平衡に並んでいます。
ここは、ノルウェー中部に位置するノルラン県の西海岸
2004年に文化遺産に登録された世界遺産
ヴェガオヤン-ヴェガ群島
ヴェガ島を中心に広がる6,500以上の群島は、登録面積103,710㏊(1,037.1㎢)、このうち6,930㏊(69.3㎢)が群島である文化景観を形成している遺跡地です。
この美しい景観ができたのは、13,000年前の氷河に覆われていた、氷河期に始まります。
もともとの岩山が、氷河の重みで沈んだことにより海抜より低くなり、その氷河がとけ出すと海面より上に上昇し出しました。
また、この群島の島々が規則正しく平衡に並んでいるのも氷河と関係しています。
氷河はゆっくり移動し、移動しながら運ばれた石が氷河の下で大地を削り、太い筋を作り、氷河がとけ出すと大地が上昇。筋状にデコボコした大地の出っ張ったところだけが、海上に現れ島となったのです。ちなみに、今もなお増え続けているそうです。
この群島の美しい景観の誕生に驚きですが、2番目の驚きは・・・
ヴェガ群島は、氷河に覆われていた、北極圏の真下に位置しています。
人類が暮らすには、あまりにも過酷な自然環境のこの地で、なんと1000年も前から今なお続くユニークな営みがあるのです。
例えばヒスヴァール島
100ほどの小さな島の集まりで構成される、ヒスヴァール島は、人が作った緑の島!
潮が引いた海の岩で海藻を集め、島の岩の上に置きます。海藻の上に家畜の糞などを乗せ、腐らせて土を作ります。1年ほど経つと草が生え、牧草を集め家畜を育てます。もともと木や草が生えにくい場所なので、畑を作ることができず、家畜を育てる、1000年前からの営みの知恵がありました。
続いてローナン島
定住者はいなく季節居住者が、春から短い夏の間だけ暮らす島です。
このローナン島に来る季節居住者は、人間の他にも。
北極海の周辺に広く生息し、冬はアリューシャン列島、ニューファンドランド島、ノルウェー沿岸などへ渡るホンケワタガモが、島に点在する小さな小屋を目指して、春のローナン島に800羽がやって来ます。季節居住者は、ホンケワタガモを迎え入れるため、掃除をして海藻を敷いて小屋の手入れを行います。
一つの小屋に壁で区切られたアパートタイプ
木を使って簡易で作られたバンガロータイプ
ホンケワタガモは、賃貸契約をしているわけでもないのに、それぞれ自分の小屋を目指します。
目指す理由は産卵
メスガモは、小屋の中で卵を産み、雛をかえします。
卵を産むと、母ガモは自らむしり取った、やわらかい胸の毛の上で卵を温めます。雛がかえり巣立つと、小屋にはごくわずかな毛が残ります。
これが、保温性に優れ弾力抜群!
羽毛の宝石と呼ばれる最高級ダウン!
1000年前からこの地に続く、固有のホンケワタガモ産業
ホンケワタガモの産卵を手伝い、巣立った後に残った羽毛(ダウン)を採取する、この伝統産業に伴う都市景観の発展は、文化的価値を認められ世界遺産に登録されました。
ホンケワタガモが残してくれる世界遺産
鶴の恩返し、ではなく、ホンケワタガモの恩返しでした。
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