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14 難民申請者が安心して在留し、難民が保護される社会を


 アフリカのある国で生まれ育った27歳のアハメドは、自分の国では大学でコンピュータサイエンスを勉強しており、プログラマーになることを夢見ていました。また彼は、政府に対立する野党Aに所属して、政府の不条理な人権抑圧に反対していました。卒業を前に、街ではデモに参加する市民が拘束・殺害されるなどの弾圧が強まり、A党員を含む反政府活動家は次々に捕まりました。学校も閉鎖になってしまい、次は自分が捕まるのではないかという恐れもあって、海外に行く決意をし、そのときに日本行きのビザが取れました。

 日本にたどり着いたときは短期15日の在留資格で、まわりに難民申請のことなどを聞いているうちに、あっという間に15日が経過し、オーバーステイとなってしまいました。1カ月後に難民申請はできましたが、超過滞在者は就労できないと言われ、日本で自分のスキルを生かせないことに愕然としました。勉強を再開したいという夢も消えました。

 その後、難民事業本部から一日1500円の生活支援を受けながら、1年後にようやく審査インタビューを受け、その後さらに1年経過して結論が出ました。難民認定はされず、理由書には「あなたがA党員としてデモ等に参加していた証拠もなく、政府からことさら注視されているとも言えない」と書いてありました。しかしアハメドに、活動の一つ一つを証拠だてることは不可能です。証拠を残しながら活動することは危険だったからです。しかも政府が、アハメドをA党員として認識しているという証拠を出すことも不可能です。

 アハメドはこれから不服申し立てをします。でも、いつまでかかるのか?収容されることはないのか?結論が出るまでの間どうやって生きのびていけばいいのか?たくさんの不安で頭が一杯です。


▶「とりわけ認定率が低い国」日本

 日本では、難民申請者は申請の段階での在留資格の有無で、その後の生活が大きく異なってしまいます。難民申請者にはさまざまな理由で正規の在留資格を持たない人たちがいますが、在留資格のある申請者に比べて不利な状況に追い込まれます。また最近は、正規の在留資格をもつ申請者に対しても「振り分け」が始まり、就労制限、在留制限(⇒退去強制手続きへ)となる場合もあります。彼らの中には、アハメドのように、スキルを身につけている人も少なくありませんが、それを日本で活かす道を見出すことはできません。そして、在留資格がない難民申請者のほとんどは、収容、さらには送還に直面するなど、難民条約33条のノンルフールマン(送還禁止)原則に抵触するような事態も生まれています。

 そもそも日本における難民保護の解釈と基準は、国際的な水準に遠く及びません。アハメドの不認定の理由に書かれていた「ことさら注視されていない」というのは、申請者に無理な立証を求めるものです。難民認定における「疑わしきは申請者の利益に」という国際的な原則が、日本で示されたことはありません。その結果が、2019年44人、2020年47人という著しく低い難民認定数、認定率も、新型コロナの影響を受けて難民申請者が減少した2020年を除けば、1%に満たない現実に現れています(図表9)。2017年のUNHCRグローバルトレンドでは、日本は「とりわけ認定率が低い国」として唯一あげられているほどです。


▶国際水準の難民認定制度を

 法務省は難民申請の誤用・濫用を防ぐことを前提に政策を進めていますが、過度な濫用防止策ゆえに難民認定が極端に難しくなり、結果として難民保護という目的は後景に退いています。しかし、適正な難民認定制度を構築することが、申請の濫用に対する抑制となる、とUNHCRは繰り返し述べています。

 国際水準に則った制度とするために、①難民認定手続きの透明性、客観性、専門性の向上のため、出入国在留管理庁から独立して、別の機関で難民認定手続きをすること、②現状の制度の下でも、難民認定基準を国際水準へすみやかに合致させること、③難民申請者への処遇について在留資格の有無で区別しないこと、すべての申請者に対して最低限の生活保障と公的な支援(その者のスキルに適合した在留資格への変更を含む)をすること、収容は原則として回避すること、過度な濫用防止策による在留制限を中止すること、④難民条約に基づく保護対象である難民の存在と、その保護の意義を、広く社会が認識すること―が、いま求められているのです。

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