家
家に帰りたい。
明かりがついてて、あったかくて、いい匂いがして、「ただいま」って言ったら「おかえり」って柔らかく返してもらえるような家に帰りたい。
私の家は帰って来ても真っ暗だし、人がいるのに「ただいま」と言っても何も返事が返ってこない。ただ、テレビの音と母の笑い声だけがある。私に対する「おかえり」はない。
なんなら、家に入れないこともある。鍵を開ける、ガシャンッという金属のぶつかる音がする、チェーンロックがかかっている。家に拒絶されている。母の機嫌の良し悪しで私は家に帰ることができない。ここは私の家ではないのかもしれないと扉の前で絶望する。
家に帰れない(もうどっちかというと「入れない」、きっと私の家ではないからこの表現が適切だろう)時は、暑い時でも寒い時でも近くの川を眺めたり、小学校や中学校までの道をたどったりする。そうしているうちに星の位置が変わる。そうしたら家に入れるのである。夜中に女1人である、誰かが私を殺してくれてもいい。イタズラをされて死体がぐちゃぐちゃになっていてもいい。
私はいつか私が帰りたいと思う家を見つけることができるだろうか。家の外で楽しいことがあって、そのままの気分で帰ってきて、その楽しい気分が絶望に変わらないまま眠りにつくことはできるんだろうか。「あのね、今日ね」って話出していい日は来るんだろうか。
私は私の家の帰りたい。でも今は、家に拒絶され囚われているのである。