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ペリフェラル視野を超える映像演出とは?


巨大ディスプレイ・ドーム映像制作における視覚特性の活用

巨大ディスプレイやドーム映像の制作において、「視野を超える没入感をどのように演出するか」は、クリエイターにとって大きなテーマです。これらの作品では、視野角や周辺視野(ペリフェラル視野)の特性を活かすことで、視聴者を「体験の中心」に引き込むことが求められます。

こうした視覚特性の理解は、イマーシブルコンテンツの制作にも応用できます。本記事では、人間の視覚特性に基づき、巨大ディスプレイやドーム映像の演出設計に役立つヒントを解説します。

212°のドーム映像 人間の視野角を大きく超える

1. 視野角とパースの基礎:超高解像度映像への応用

まず、映像制作に欠かせない「視野角」と「パース(遠近法)」の基本を整理します。

  • 視野角:一度に見渡せる範囲の広さ。人間の視野は通常120°程度とされています。

  • パースペクティブ:距離によって物の見え方が変わる仕組み。近くの物は大きく、遠くの物は小さく見えます。この遠近感に近いのが、カメラの35mm〜50mmレンズで撮影した映像です。角度で表すと約50°に相当します。

https://note.com/yuma_nakatsuka/n/n1fbbb556fb22

視野角とパースの違い

人間の視野角を表現するために120°の広角レンズを使うと、魚眼レンズのように近いものが極端に大きく、遠くの物が小さくなり、空間の歪みが目立ちます。一方で、50°の視野角では自然なパースを得られますが、視野全体と比べると非常に狭い範囲に限られます。

https://products.entaniya.co.jp/fisheye-lens-at-cross-road/

さらに、カメラが単眼センサーで視覚情報を処理するのに対し、人間の目は二眼で、網膜の部位ごとに異なる役割を持つため、視野角とパースを両立させた1枚の画像を作ることは不可能です。

巨大ディスプレイの前で見ることを仮定した場合、観覧者の位置とディスプレイサイズから逆算すると、50°を遥かに超える広角な角度になります。しかし、3Dや実写のレンズをその角度に合わせると、人間のパースペクティブとは大きく歪んだ演出となり、違和感を感じます。そこで、人間の視覚の仕組みから構図を考える必要が出てきます。


2. 周辺視野(ペリフェラル視野)の働き

人間の視覚処理を支える重要な要素の一つが周辺視野(ペリフェラル視野)です。この視野は、動きや色彩の変化に敏感で、空間把握を得意としています。ペリフェラル視野は、約50°の範囲をカバーします。

ペリフェラル視野と日常デバイスの設計

27インチのPCディスプレイやA4用紙のサイズは、通常の視距離でペリフェラル視野に収まるよう設計されています。これにより、自然な体験が提供されます。


3. 周辺視野を超えた映像演出

巨大ディスプレイやドーム映像では、ペリフェラル視野を大きく超える領域をカバーするため、独自の演出設計が必要です。

注意点:画面全体を主題にしない

ペリフェラル視野を超えた映像では、画面全体に主題を配置すると観覧者が焦点を失い、ストーリーへの没入感が薄れる可能性があります。通常の映像構図はペリフェラル視野内に収める設計ですが、超巨大ディスプレイやドーム映像では異なるアプローチが求められます。

解決策:視覚中心と周辺視野の役割を活かす

  • 視覚中心(約5°):物語の焦点となるディテールや動きを集中させる。

  • 周辺視野(約50°):ストーリーで重要な情報を配置。動きや色彩変化を活用して環境の広がりを感じさせる。

  • 視野角(約120°以上):光や環境の広がりを補完し、没入感を強化する演出を配置。

これにより、視覚中心で主題を伝え、周辺視野でストーリーを補完し、広い視野角で空間の広がりを体験させる映像が可能となります。


4. まとめ:次世代映像制作の未来へ

8K映像の普及や巨大LEDディスプレイの増加に伴い、視覚特性を活用した映像制作が重要性を増しています。ペリフェラル視野を超える演出を設計する際は、視覚中心と周辺視野の役割を意識し、解像度の分配や焦点誘導を工夫することが鍵です。

次のプロジェクトでは、これらの視覚特性を意識して新しい映像演出に挑戦してみてください。視覚の限界を超えた新しい表現が、視聴者に驚きと感動を届けるはずです。

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