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「北海道夕張市の」司法書士という仕事

北海道夕張市で司法書士をはじめて、もう10年以上が経過しました。

一般的に、司法書士といえば、不動産の売買の登記や、住宅ローンの担保設定、会社の設立や、役員変更登記等の手続きを行っている士業というイメージが強いでしょう。
しかし、夕張市は不動産の動きは少なく、ローンをつけて物件を買うこともほとんどないため、当方は少し特殊な形態の事務所であると思います。
そういったことを書いてみたいと思います。

◆なぜ夕張市に

元々は札幌市の司法書士

私は、生まれも育ちも札幌で、20歳のときに司法書士資格を取得し、2011年に司法書士登録をして札幌市中央区の司法書士事務所で勤務司法書士として働いていました。
登記と債務整理が半々くらいの事務所だったでしょうか。規模は比較的大きめでしたが、一般的な都市部の司法書士事務所のイメージに近いところだと思います。

夕張市に来た事情

札幌で1年ほど勤務司法書士をやってみて、独立することを考えました。
土地勘もあり、長年住んだ札幌市で独立するのが流れとして当然でしょうが、「もっと専門家らしい仕事ができないものか…」という思いがありました。都市部では、やはり司法書士として大部分を占める「登記」の業務を、いかにたくさん取ってくるか、というところが事務所経営での大きなポイントで、色々な業務や難しい仕事ができることは別に重要ではないのではないか、これでは専門家というより営業職ではないか!と考えていたのです。
今思えば若気の至りですね。営業と収益は大事です。

夕張市は25年司法書士がいない

色々と開業先を模索していたとき、夕張市はもう20年以上司法書士がいない地域であるという話を知人の司法書士から聞きました。
夕張市には縁もなく今まで行ったことがありませんでしたが、このあと何度か足を運び、地元の人の話を聞きました。
「悪質商法の被害があっても相談先がない」
「土地や建物の手続きがしっかりと行われていない」
「債務整理の相談先がない」
「車がない人は市外の官公庁に手続きができない」

こういった話を聞いて、これは専門家らしい業務ができるのではないか!?と考えました。また、悪質商法の話では「騙しに来るのは地元の人ではなく、都市部からわざわざ来る」ということを聞き、法律家はわざわざ遠くの人を助けに出かけないのに、悪徳業者はわざわざ出張するのかと、これは札幌はじめ、都市部の法律家にも解決する義務があるのではないか、と考えました。

◆夕張市での仕事は

来る前に予想していた以上に、法的サービスを受けられていないことによる市内・市民の問題点は、実際にたくさんありました。

(例えば…)実際の具体的事例は書けませんが、
土地の売買手続きが「口約束」の状態であることが多く、登記も数年前の所有者の名義で、税金も前の売主が未だに払っている。いざ、売買でしっかりと名義を変更しようとしたときに、登記上の所有者には相続が発生し、事情を知らない相続人十数人を巻き込んで説得しなければならない。
この結果、融資を受けられなかったり、売れるものも売れず数百万円で解体することとなり、土地の税金だけが残り続けることとなることもあります。

売主買主共に亡名義という登記を行った事例もありました。

亡くなってすぐに相続登記や、当事者が理解しているうちに持分の移転を行っていないせいで、解消できない共有状態となっている地域もあります。

相談サービスが整っていない地域を狙ったかのような悪質商法も多いです。
当然、地元の業者ではなく、電話や郵便の送り先は都市部の業者です。

ほかにも、欠席裁判目当ての無理筋訴訟や、業者からのスラップのような訴訟、相談されないことをいいことに、明らかな時効案件や証拠不足の案件を、専門家がつかないうちに和解できれば良いというような請求がなされている事例も多く見受けられます。

外からではわからない司法格差がある

これを都市部の弁護士や司法書士が解消しようと努力しているかは、今でも疑問があります。遠方に行く収益の面もそうですが、そもそも地方の司法過疎でどんな問題点があるか、その問題の存在自体をわかっていないのではないでしょうか。

都市部が不利になるようなケース、例えば選挙の「1票の格差」のような問題は、毎度最高裁まで裁判をやっているニュースも見ます。一方で、日頃の地方の不利益、交通弱者の事情、「官庁の手続きをしようにも法務局や税務署に移動だけで車が必須のうえ片道1時間かかり、運輸局で手続きするには片道で2時間かかるといった地域格差」こういったものには、まるで法律家は無関心であるかのようなポジションにいるように思えます。

無料相談会ってどうなんだ?

これら問題に対して弁護士会や司法書士会、そして自治体等が行う対策も頻度の低い「無料相談会」などに限っているようです。しかし。多くの場合、相談だけでは解決しないうえ、そもそもそこに至るアクセスという点が課題となっていると思います。急に訴状が届いたり、悪質商法でモノを買わされた人が、わざわざ相談会を調べ、日程を確認のうえ予約して行くなんてことはわずかでして、そんなことができる人は、元々隣町に行って解決できる層が多いのではないでしょうか?

色々な地域でこの問題があるだろう

私は夕張市の事例で自分が体感できていることを書きましたが、全国には司法過疎地はまだまだあります。ほかの地域でもこういった問題や、おそらくもっと特殊なケースがある地域もあるでしょう。
単なる相談会でやったつもりにとどまらない、司法書士会連合会や、国・都道府県レベルでの対策が必要だと感じます。

◆地域に法的サービスを残していきたい

「自分にしかできない仕事が、夕張にはあった」司法書士の20代夕張市議会議員から見た破綻後の街とは
https://seijiyama.jp/article/columns/twenties/tw09.html

10年間、夕張市にできることとして司法書士業以外に、不動産会社を設立したりと、さまざまな試みをしてきました。
とはいえ、やはり人口減少が与える経営への影響は大きく、もっと別の手段を考えなければならない時期に来たようにも感じています。

営業や収益を度外視して、「専門家たる!」を目指してきましたが、ここにきて収益の偉大さを実感しているところです。

ただ、法律サービスを地域に残す!これだけは何としても続けていきたいと思っています。たとえ私の事務所が続けられなくなったとしてもです。
私もこの現場で、司法過疎が長く続くことの問題点を強く実感していることから、本当になんとしても夕張市に「相談先がどこにもない」事態は再び起きてほしくないと思っています。そのためにどうしたらよいか、今後もできる限り考えていきたいところです。


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