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【断髪小説】髪切り探偵(3)Youtuber断髪事件

割引あり

少し肌寒くなった朝。
探偵事務所のソファーでゆっくりと寛ぐハルカ君を横目に、僕は早朝のアイスコーヒーを楽しんでいた。
ハルカ君はスマホを片手に、何やら動画を視聴しているようだ。
僕にはどうにもこのガヤガヤとした動画の音というのは好きになれない。
だが、ハルカ君がそれで楽しんでいるのだから、わざわざ注意する気にもなれない。
その動画から聞こえてくる音に耳を傾けると、男性と女性の話し声が聞こえる。そして、ハサミで髪の毛をカットするような断髪音が聞こえてきた。

「どうでもいい事なんだけど…ハルカ君。一体何の動画をみているのかね?
君もついに断髪に目覚めたのかい?」

「先生。朝から何を言っているんですか、人気Youtuberのマイケル佐藤のイメチェン美女チャンネルを見ているんです」

「マイケル佐藤?知らないな〜」

「だめですよ、先生。トレンドには敏感でいないと、老けますよぉ〜」
ハルカ君は嬉しそうに僕にマイケル佐藤の事を色々と教えてくれた。
マイケル佐藤なんてどうでもいいのだけれども、番組自体はなかなかおもしろい、イメチェン企画だ。
要するに、イメチェンしたい一般女性に路上で声をかけて見つけて、そのままスタジオに案内して女性の髪の毛をバッサリとイメチェンする。
シンプルだけど、イメチェン好きであれば食いつきそうな企画だ。
毎回色々な髪型へと女性がイメチェンして「イメチェンできて最高です!」というお決まりのセリフ付き。
ロングヘアーからショートカットへ。セミロングから金髪ボブ等。
様々な髪型へ変化するのが見てて飽きない。この企画では、ビフォー・アフターの変化があればあるほど視聴者はついている。
特にロングヘアーから坊主頭へのイメチェンなんて再生回数が跳ね上がっている。
だが、本当にロングヘアーの美女が坊主頭になんてイメチェンしたいと思っているのか?少し謎は残るが、まぁ、いい企画だ。

ガチャ。
事務所の扉が開く音がして、ハルカ君がお客を迎える。
「先生。お客様です」
事務所の扉を見ると、3人の女性が険しい表情を浮かべながら、こちらへ軽い会釈をしながら近づいてくる。

1人は腰まである長めに伸ばしたロングヘアーで、前髪は目元に掛かる程度の薄めのシースルーバング、カラーは自然なブラウンでツヤ感があり清潔感がある。毛先には軽いレイヤーが入っていて、重すぎず動きのあるスタイル。太めの白いニットに黒いロングスカート。

2人目はニット帽を深く被っていて髪型はわからない。
白いシャツにブルーにストライプの入ったロングスカート。

3人目はキャップを深く被っていて、この子も髪型はわからない。
黒いパーカーに紺のショートパンツ。

「こちらへ座ってください」
とハルカ君が3人を椅子に座らせると、ロングヘアーの子が話し始めた。

「白石 彩花(しらいし あやか)と言います。
こっちのニット帽の子が三浦 未来(みうら みらい)。
キャップを被ってる子が滝川 莉央(たきがわ りお)です」
ミライとリオは軽く会釈する。

「今回この事務所に来たのは、この二人に関することなんです。
ミライ、リオ、帽子…取れる?」
アヤカがそういうと、ミライとリオはゆっくりと帽子を脱いだ。
そこには、綺麗な顔立ちには似合わない、くりくりの坊主頭が姿を表した。

「え!?」
ハルカ君が驚きで声をだしてしまった。それと同時に手で口を覆った。

「はい。そうなんです。私達、あるYoutuberによって坊主頭にされてしまったんです…」
ミライが話したことに関して、リオも頷く。

「詳しく聞かせてもらえるかい?」

ミライが事件当日の事を話し始めた。
「あの日…私達は渋谷で暇を持て余していて、ブラブラしていたんです。
そしたら、サングラスにマスクをしたYoutuberと名乗る人が声をかけてきたんです。
どうやら生放送中だったらしく、そう伝えられると、イメチェン企画をやっていると言ってました。
今は、見ての通り坊主頭ですけど、当時はロングヘアーだったので、肩にかかるくらいのセミロングヘアーならどうですかって言われて、ギャラも貰えるって言う話でしたし、それなら別に良いかなって思って、リオとついていっちゃったんです。
そしたら…撮影スタジオ?みたいなところにカメラマンさん、美容師さんがいて、なんか本格的な撮影だなって舞い上がっていたら…なんか上手いこと乗せられて、それで坊主頭に…」

「なんか、ミライが先に坊主頭になって…私は怖くて…なんか分からないんですけど、私もやらなきゃって、坊主にならなきゃって思っちゃって、それで…坊主に…。
・・・もうこんな被害には誰にもあってもらいたくない。
彼らにこんなこと、辞めさせたいんです!お願いします!探偵先生!」

「なるほど…あのYoutuber、何かあるとは思ったけど、巧妙に断りずらい空気を出して、同意させる。よく高級エステの勧誘とかで使われている手口だな。
分かりました。お受けします。
ですが・・・

報酬は…君達の髪の毛を貰いましょうか」

「え?髪の毛ですか?でも私達、もう坊主頭ですし…」
ミライが困惑しているのが分かり、僕が言葉を付け加えた。

「えぇ。なので、君の髪の毛にバリアートをさせてください!」

「先生…。またそんな、傷ついたこの子達の髪を更に剃るような真似を…」

「はい。分かりました。
私達、もう坊主なので、全然大丈夫です!バリアートしてください!
良いよね、リオ!?」
こくりとリオが頷く。

それを聞いた僕は、彼女達の髪の毛をポンポンと軽く撫でた。

「そうと決まれば、マイケル佐藤を追い込もう。
僕に良い考えがある。
では・・・

昼食にしましょう!
皆さんも食べていってください。作戦を伝えます」

そういうと僕は昼食を取りながら、彼女達に作戦を伝えた。
作戦はこうだ。
ロングヘアーのアヤカ君には、囮になってもらう。
渋谷のマイケル佐藤がいつも声をかけている辺りを一人でぶらついてもらう。
そしてマイケル佐藤に声をかけてもらい、企画に参加する旨を伝える。
彼女には隠しカメラでずっと撮影してもう。
彼らがミュートにしたり、映像を見せないようにしている箇所を、こちらのカメラで音声付きで記録して、証拠がある事を彼らに言い、辞めさせるように仕向ける。

こうして僕らは渋谷に到着して、アヤカ君にはスタンバイしてもらった。

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