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【断髪小説】髪切り探偵(1)万引き坊主事件

割引あり

「先生。お客様です」
そう応対するのは、天音 遥(あまね はるか)
僕の助手だ。
黒髪で手入れのされていない伸び切ったロングヘアー。丸い眼鏡を掛けていて、服装は地味でカジュアル。

僕はというと、時坂 悠真(ときさか ゆうま)
しがない探偵をやっている。
こんなボロい探偵事務所にわざわざ足を運ぶ客人がいるなんて珍しい。

ハルカが慣れた手つきで紅茶を注ぐと、一度軽く息をつき、カップの角度を微調整してから客人に差し出す。

「どうされましたか?」
とハルカが質問する。

「橘 茜(たちばな あかね)と言います。
あ...あの…友達が。
万引きしたんです!」

客人は、制服姿で髪の毛をひとつ結びにしている黒髪ポニーテール。
どこにでもいそうな女子高生だ。

「万引き?
それなら、警察にいかれたほうが良いと思いますが...」

「そうなんですけど、そうじゃないんです。
その、シズカは、藤原 静香(ふじわら しずか)っていうんですけど、彼女はそんな事するような子じゃないんです!」

「と、言いますと?」

「シズカは、真面目で、大人しい子です。
決して万引きなんてするような子には思えなくて・・・。
それに、シズカが言ってたんです。万引き事件のちょっと前に、いいバイトが見つかったって」

「バイト?」

「はい、簡単に高収入がもらえるバイトを紹介されたって」

「高額なバイトの話があり、
万引きをした。か。
匂いますねぇ〜。万引きした店の場所はわかりますか?」

「はい。近くの雑貨屋さんです。案内できます。
それと・・・」

女子高生が何かを伝えたげにウネウネしている。

「報酬。ですか?学生さんからお金を貰うわけにはいかないので・・・。
そうですね〜。君の髪の毛を貰いましょうか?」

「先生・・・。何言っているんですか?それはちょっと・・・ねぇ。
無理しなくて良いですよ。先生がまた変なこと言っているだけですから・・・」

「いえ、シズカの無実が晴らされるなら。
私、髪の毛、切ります」

「ようし、アカネ君。
良い根性だ。それでは、君の髪の毛を報酬に、この事件、承ります!」

そういうと、僕はアカネ君の頭をポンポンと撫でた。

僕らはアカネ君に導かれるがままに事件のあった雑貨店へと向かった。
現場は普通の雑貨店。高価なものといえば腕時計や、貴金属。
店内には万引き防止の張り紙に、万引きした人は丸坊主と書かれていた。

「アカネ君。シズカ君は万引きして捕まったわけだよね。
そうなると、あの張り紙によると、丸坊主になっているということであっていますか?」

「はい、シズカは万引きして店主に丸坊主にされたと言ってました。実際に坊主頭になっていて、私が会ったときにはニット帽を被ってました」

「そうですか。あの張り紙、女性でも坊主頭にするんですね。
このご時世、問題になりそうな気もしますが、ただ犯罪を犯したのはシズカ君なわけですしね。坊主頭にされても文句が言えないと・・・」

店主と目が合う。
そこで、店主に事情を伺う事になった。

「あの〜。つかぬことをお伺いしますが、ここ最近、万引きが増えているとか、そんな事はありますか?」

「え、あ〜〜。そうだね、まったく困っちゃうよ〜。
高級な腕時計や貴金属を狙った万引きが多くてね。
私も手を焼いているんですよ。それで、万引きしたら坊主頭。なんて張り紙をしてるんですがね、一向に減らなくて・・・」

店主は少しニヤニヤしながら、こちらの質問に答えてくれた。

「最近、藤原 静香(ふじわら しずか)さんという方が万引きで捕まりましたよね。他にも捕まった方はいましたか?捕まった方は皆女性ではなかったですか?」

「あ、そ〜〜〜ですね、えぇ。
最近捕まったのは女子高生が多かったですが、それがなにか?」

「あ、いえ。ちょっと伺っただけです。
特にお気になさらず」

万引きが多いという割には、防犯カメラが動作していない?フェイクのカメラに見える。

「防犯カメラ、動いてないみたいですね。万引きが多いなら、フェイクじゃなくて、稼働させるのが普通だと思うのですが?」

「えぇ、もちろんそうなんですけど・・・色々と事情がありましてね」

「そうでしたか。
あと、そこに部屋ありますよね?見せてもらえますか?」

「えぇ・・・構いませんが」
そういうと店主は部屋を案内してくれた。
部屋の中は殺風景でテーブルと机だけがある。
棚には女性のヘアカタログ。
床には女性の髪束が少し落ちている。
おそらく、この部屋でバリカンでシズカ君を丸坊主にしたんだろう。

「この部屋、髪が落ちてますね。バリカンはお持ちですか?」
髪束を掴みながら店主へ質問する。

「えぇ・・・坊主にする際に使いましたけど、それがなにか?」

「いえ、特に気になっただけです。
あ、こちらのバリカンですね。これは家庭様というより、プロ用のバリカンですかね?」

「詳しくはないですが、そのネットで購入したものなので、たまたまプロ用だったんじゃないですか?」

「たまたま。ですか。
こういうプロ用のバリカンの違いってご存知ですか?
髪が絡みにくいので、髪を刈りやすいんです」

「そうなんですね・・・知らなかったです」

「あとー。この部屋。
まるで女性を坊主にするために作られたようなお部屋ですね。
あ、いえ、単純に感じたことをいったまでです。
部屋、見せて頂きありがとうございました」

軽く挨拶を交わして、僕らは探偵事務所に戻る。
帰りしな、アカネ君が僕にバイトの件で情報をくれた。
どうやら、バイトはSNSで募集しているらしく、バイトはエスという人物が管理しているらしいと。

僕はSNSでのバイト情報を探った。
誰でも簡単に5万円を即日稼げる。詳細はエスまで。
シズカ君が行ったバイトのエス。今でもバイトを募集していそうだ。
そしてこのSNSのアイコンは・・・髪束?

事務所に戻ると僕は皆に話をした。

「店主の話では、万引きが最近増えている。
犯人は女子高生が多い。
そして、困った。と言いながらも店主はニヤニヤしていた。
シズカ君の高額バイト。
そして、捕まったら本当に坊主頭にしているという点。
全ての状況から考えて導き出される答えは・・・

夕食にしましょうか。
アカネ君もどうですか?それに、シズカ君呼べますか?」

「あ、はい。
連絡してみます・・・」

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