【断髪小説】刈り上げ美容師
「今日は宜しくお願いします。担当の橘(たちばな)です。
そうやって僕はいつもお客様には挨拶をしている。
今日もそうだ。
「はい、宜しくお願いします」
この女性はおそらく一見さんだ。
初めて見る顔で、小柄な女性。おそらく歳は20代前半。服装は綺麗めの白いワンピース。髪は黒髪ストレートロングヘアーで絹のような髪の毛の持ち主。
一見さんは決まってこうだ。
「バッサリカットしてください!」
ほら来た。
どういうわけか、一見さんはバッサリとイメチェンする女性が多い。
おそらく、いつもの美容室でいつもの美容師さんだと、バッサリとイメチェンする姿を見られるのが恥ずかしいのだろう。
僕はかしこまりました。と軽い挨拶をして、具体的な髪型を聞く。
「バッサリ。
どんな髪型にしたいとか、したい髪型の画像とかってあったりしますか?」
「あ、はい。
これです。
この女性に憧れてまして、それで・・・。
その・・・。
刈り上げ女子?って言うんですか?
その・・・刈り上げたいと思っています」
そういうと女性は恥ずかしそうに顔を赤らめている。
「刈り上げスタイルにしたいんですね。
かしこまりました。
最近、刈り上げスタイルにする女性がうちにも多くいらっしゃいます。
特に上を被せる感じで内側を刈り上げ、またはツーブロックにするお客さんが多いですね」
「そ、そうなんですね。
その・・・私は刈り上げが見える感じのスタイルにしたいなぁと思ってまして・・・
その・・・こちらの画像の様にしたいです」
そういうと女性はスマホの画像を見せてくれた。
そこに写っているのは黒髪で、耳上でまっすぐに切り揃えられた横髪。
後ろ髪も綺麗に刈り上がっていて、段差があり、上の部分と横の髪の毛が繋がっているようなスタイルだった。
刈り上げ女子は流行ってはいるが、あまり刈り上げを強調して見せるようなスタイルにする女性は少ない。
大体は隠し刈り上げスタイルが多い。
隠し刈り上げの場合は、刈り上げるのもそこまで難しくなく、5mmとか8mmとかのアタッチメントをバリカンに装着させて、刈っていけばいいからだ。
だけど、段差があるような見せる刈り上げスタイルの場合はそうはいかない。
ハサミで髪の毛を下から上へと何回も何回も開閉させていく必要がある。
これにはかなりの技術が求められるし、美容師の中ではあまり経験したことがない人だっている。
通常刈り上げスタイルというのはメンズがやる髪型だ。
なので刈り上げスタイルは床屋の理容師の得意技なのだ。
そんな難しいスタイルを発注されて、内心少し緊張している。
少しのミスも許されない髪型。だけど、美容師は求められた髪型を確実に再現する必要がある。それがプロの美容師の仕事なんだ。
「かしこまりました。
それでは、そちらに写っている様なヘアスタイルにしていきますね。
刈り上げは何ミリが良いとかってありますか?」
「サイドは3mm。
後ろは綺麗な段差が出来ればいいので、お任せします」
「かしこまりました。
それではこちらへどうぞ」
そういうと僕は、彼女に白いケープを巻き付けた。
「それでは、カットしていきますね」
「はい。お願いします」
彼女の横の髪の毛を眉毛の横のラインでとり、上の髪をブロッキングして、ダッカールヘアクリップで留める。
髪の毛をクシで大きくすくい上げ、根本からハサミでバッサリと刈り上げていく。
ジョキッ!
ジョキッ!
ジョキッ!
リズミカルに髪の毛を刈り上げていく。
そして、またクシで髪の毛をすくい上げて、髪をカットしていく。
ジョキッ!
ジョキッ!
ジョキッ!
「こんな事聞いて良いのか迷ったんですが・・・。
ヘアケアもされていて、大事に伸ばしてきたと思うんですが、
どうして今回はバッサリと刈り上げボブヘアにしようと思ったんですか?
もし、言いたくなかったら大丈夫ですけど・・・」
「あ、そうですよね。
あまりロングヘアーからいきなり刈り上げボブとかってする人いないですよね。
私、ずーっと黒髪でロングヘアーだったんです。
小さい頃からずーっと。です。
私自身も気に入ってはいたんですけど、そのー、自分を変えたくて」
「そうですか。
髪型を変える事は気分も変わりますからね。
可愛くしますよ」
「お願いします!」
彼女の髪の毛をクシで梳かし、バリカンのコードの電源を差し込み、アタッチメントを3mmにセットする。
ヴイィィィィィーーーーーン!
バリカンの音が店内に響き渡る。
他のお客さんも美容室でバリカンとは何事かと言わんばかりにこちらをチラチラ見ている。
緊張しているなぁ〜。
やっぱり女性はバリカンに対する免疫が無いからか、見えない後ろでバリカンの音がするのは怖いのかな。
下から上へバリカンを滑らす。
女性の髪の毛だからか、あまり引っかかりがなく、すんなりとバリカンが通っていく。
髪の毛はバッサリと床に落ちていく。
後ろ髪の部分が青々としてきている。
刈り上げは長さが非常に重要になるので、長さが狂わないように慎重に刈り上げていく。
ヴイィィィィィーーーーーン!
ジジジジジジジジジジジ!!
後ろ髪を刈り上げて青々しい部分が見えてくると、急にメンズっぽく女性は映る。
メンズっぽいけど、どこか可愛らしさが残っているようなそんなスタイル。
バリカンのスイッチを止めて、鏡を見せる。
刈り上げヘアにしたときは決まってお客様は自分の刈り上げを触って見せる。
顔を赤らめて恥ずかしそうにしながら、ジョリジョリと刈り上げを触る。
そして、満足そうに、ありがとうございます。と一言。
「たちばなさん〜、新規のお客様からの予約です。
刈り上げヘアにしたい女性からです」
「ありがとう」
なぜだか僕には刈り上げヘアにしたい女性たちが集まる。
刈り上げスタイルの女性は好きだし、刈り上げする事も好きだが。
どうやら巷で噂になっているらしい。刈り上げスタイルが上手な刈り上げ美容師がいるらしいと。
あとがき
この作品は一人称視点の描写の練習用に書いてみました。
短編は割とノリで書いてます。
プロットも作らないですし。
さておき、有料の方のイメチェンバトルロワイヤルが一応終わり、イメチェン・断髪のバトルモノは私の中ではお腹いっぱいになってしまいました。
また書きたいなという思いはあるし、続きも書くつもりではあるのですが、きちんとは決まってないです。
というか、少し練ってから書かないと続きかけないですね、イメチェンバトルロワイヤルもある程度はプロット書いてキャラ設定、舞台設定とかもしたけど、小説で大人数を動かす難しさに、結構端折った部分が多かったです。
そんなこともあり、次からはもっと登場人物は減らして、深みを持たせたいなと思った次第であります。
特に複数人バトルでの神様視点は書いてて楽しいけど、どこまで伝えられているのか正直不安な部分はあります。
第四部はバトルモノではなくて、もうちょっと主人公たちの心情を書いたりする話にしたいなとは思ってます。
一人称視点で。
と、いうこともあり、一人称視点を勉強中というところです。
まぁ、個人的には神様視点の方が脳内に絵が見えて書いてて楽しいんだけどね。
一人称視点は、その名の通りですが、書いてて視野が狭い感じがして、主人公たちに心の動きや細かな変化を書くには良いと思うんだけど、なにせ地の文が難しい。
とりとめのない話をしてしまいましたが、要するにもっと色々な作品を読んでみて、書いてみて、断髪小説をもっとうまく書きたいと思っているわけです。
なんなら違うジャンルの小説も書いてみたい気持ちはあるんですが、まぁしばらくはこのジャンルを極めるつもりで毎週作品を書いていこうと思ってます。
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