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【断髪小説】髪切り探偵(2)アイドル断髪事件

割引あり

「先生。またシャツにシミ付いてますよ」

「ハルカ君。細かい事を気にするのはやめなさい。
それに僕は今、朝食をとっているんだ。食事の間は小言を言わないでくれと言っているだろう」

「はいはい。って、先生〜。
カーディガン、裏表逆ですよ」

「だから、小言は・・・。
本当だ」
僕は裏表反対になっていたカーディガンを脱ぎ、羽織直す。

「まったく。先生は探偵以外の事は全く何もこれっぽっちも出来ないんですから。
コーヒー淹れますね」

僕とハルカ君は朝食後には、テレビを付けてその日のニュースを聞きながら必ずコーヒーを飲む。
何気ないこの時間が、どうでもいいことだが、嫌いじゃない。

「続いてのニュースです。昨夜、アイドルグループ、スターアライズの星野 美咲(ほしの みさき)さんがトレードマークのツインテールを何者かに髪を切られる事件が発生しました。
ネット上では、熱狂的なファンによる犯行ではないかと推測されています。
・・・次のニュースです・・・」

「ハルカ君・・・。
なんだか物騒な世の中になったもんだね。
無理やり女性の髪を切る。全くけしからん連中もいたもんだ!」

「先生。
あなた人の事言えますか?
他人の髪の毛、切ってますよね?」

「僕のは・・・その・・・無理矢理ではない。
相手の同意あってのヘアカットだから・・・一緒にしないでくれ」

ジーっと僕を見つめるハルカの視線が痛い。
視線を返すと、なぜかハルカが遠い目をしている。

ガチャ。

事務所の扉が開く音がして、ハルカがお客を迎える。
そこには、どこかで見たことがあるような黒髪ショートカットの若い女性と高級感のあるスーツを着こなしている20代後半くらいの男性がいる。

「先生。お客様です」

「座ってもらって」

「どうぞ、こちらへ」
そうハルカが案内すると2人は椅子に座ってそうそうに話し始めた。

「こちら、星野 美咲(ほしの みさき)と言いまして、アイドル活動をしております。
そして、私はマネージャーの新城 健吾(しんじょう けんご)と申します。
今回、依頼したい事としましては・・・ご存知かもしれませんが、この星野が、髪切り事件に合いまして、その犯人を捕まえてほしいんです」
そういうと、マネージャーは僕に左手で名刺を渡してきた。

僕とハルカは視線を交わした。
さっきまでニュースでやっていた断髪事件の被害者とマネージャーではないか。
この事務所も弱小ながらも、少しは知名度があがったか?いや、こんな小さな探偵事務所にニュースになるようなアイドルグループのアイドルとマネージャーがやってくるなんて信じられない。
だが、僕は冷静を装い、いつもの受け答えをする。

「存じております。
たしかその・・・トレードマークのツインテールをバッサリと何者かに切られた。という内容だと認識してます。
それで、今はそのショートカットに・・・」

「はい。事件のあった日、アイドルイベントをしてました。
私の所属するアイドルグループは、スターアライズといいまして、私と月野 彩音(つきの あやね)の二人組で活動してます。
イベント会場にはスタッフ、そしてファンの方々が大勢いました。
おそらくファンの方だと思うのですが、控室にいる際に、後ろから声をかけられて、そして気づいたら眠っていました。
そして、目が覚めるとツインテールが切られていてショートカットに・・・。
こんなことがあると、私・・・怖くて。それにグループのアヤネも黒髪ロングヘアーなので、次はアヤネが襲われる可能性もあるんです。
お願いします!犯人を探し出してください!」

アイドルグループ、スターアライズ。ミサキ君にアヤネ君。
スタッフ、ファンの方々。か。
「容疑者は会場内の全員。ということになりますね。
わかりました。このご依頼、お受けします」

「ありがとうございます。月野を安心させてあげたいんです。
ところで報酬の方は・・・」

アイドル事務所。最近人気は低迷気味みたいだけど、それでも稼いではいそうだ。だけど、やはり報酬は。

「報酬は、ミサキ君の髪の毛。で、いかがでしょうか?」

「ちょっと先生。またそんな事を・・・」

マネージャーの新城さんが戸惑って声を失っている。
「探偵さん、その・・・それはちょっと星野も髪を切られたばかりですし・・・」

「わかりました。それで構いません!私の髪の毛、切ってください!」

「ようし、ミサキ君。
良い心構えだ。それでは、君の髪の毛を報酬に、この事件、承ります!」

そういうと、僕はミサキ君の髪の毛をポンポンっと軽く撫でた。

「それでは、聞き取り調査をしたいので、僕があげた人達をこちらの事務所へ読んでいただけますか?そうですね、時間は夕方頃、こちらでハルカ君が夕食を作って待っています」

「はい。わかりました。それでは、夕方頃にまた伺います」
そういうと新城さんは額に汗をかきながらミサキ君と事務所を後にした。

夕方になり、新城さん、ミサキ君。
アイドルの片割れのアヤネ君。そして、ファンの田中 守(たなか まもる)さんが事務所に訪れた。
田中さんは、ファンであり、一般人であることから、タブレット上でリモートでの参加となった。

「皆さん、お集まり頂き、ありがとうございます。
犯行が行われたのは、一週間前の16時頃と伺っています。
その時間、何をしていたか、一人ずつ教えていただけませんか?」

僕が皆にそう伝えると、お互いが目を合わせながらも、ミサキ君が最初に状況を教えてくれた。

「まずは、私から。
私は16時頃は、イベントに参加してました。
ステージが終わって握手会をしてました。
半分くらい終わったあと、休憩で控室に入りました。
控室には誰もいなくて、置いてあったお水を飲み、スマホを見ながら休憩してました。
そして、後ろから声をかけられて、眠らされて、起きたら髪は切られてました」

「ありがとうございます。では次はアヤネ君の状況を教えていただけますか?」

「はい、私もミサキと同様に握手会を行ってました。
休憩に入るミサキを横目で見てましたので、ミサキの髪の毛が切られたであろう時刻はまだ会場で握手をしてました」

「それを証明できる方は?」

「ファンの方なら、証明出来ると思います」

「では、田中さん、その時のアヤネさんの状況覚えてますか?」

「あ、田中です」
右手を挙げて、僕が田中です。といった感じで話を続けた。

「えっとー、ミサミサが席を外したのは覚えてます。
その時、確かにアヤネルはまだ握手をしていたのは覚えてます。ちょうどその時、ぼ、僕はアヤネルの握手の列に並んでましたから」

「なるほど、この話が本当なら、アヤネ君、田中さんにはアリバイがあることになる。では、新城さんはどうですか?」

「私は、その時間はステージのわきにいました。
証明出来る人は・・・月野さん、田中さん、私がステージわきにいたのは覚えてますか?」

「田中です。
僕は、そのマネージャーさんには興味がないので、覚えてないです」

「私も握手していたので、その・・・覚えてないです」

「あ、でも、話しかけられた声ですけど・・・。
新城さんの声ではなかったと思います」

証言が正しければ、怪しいのは新城さん。
新城さんが犯人の場合、話題作りとして自作自演で行った可能性はある。
アヤネ君は、ステージにいたということだから、田中さんの証言が間違っていたとしても、他のファンの人に話を聞けば、その場にいた事はすぐに証明される。
なので、アヤネ君がすぐわかるような嘘を付くとも思えない。
田中さんはファンだから、スタッフ側からは証言が取りづらく、ファン同士でも交流はなさそうなところを見ると、ウソを付くのは容易だ。
と、なると。

「それにしても、ミサキ君のショートカット、とっても似合ってますよね」
僕は新城さんと田中さんに語りかけた。

「そうですね、星野はショートカットも似合うと思ってました。ショートカットになってから更に人気が出ると思います」

「ぼ、僕はやっぱりミサミサはツインテール推しかなぁ〜〜!も、もちろん、ショートカットのミサミサも可愛いけど、ボーイッシュというか、一部のファンからは奇跡のショートカットとか言われてますけど、ぼ、僕はツインテールかなぁ〜」

新城さんは肯定。田中さんは否定。

「あ、あとミサキ君。
当日の事を思い出させて悪いんだが、ツインテールの切られていた状況を覚えているかい?」

「うーんと、眠らされて覚えてないです。
ですが、右側の髪の毛の方が荒く切られていましたけど・・・」

「・・・なるほど」

「それと、控室はステージからすぐだったんですか?
田中さんの様なファンの人が簡単に入れる様な場所でしたか?」

ミサキが答える。
「不可能では無いですが、ファンの方が入るには目立ちすぎます。
服装が白シャツとか清楚な格好であれば、特にスタッフ専用の服装とかもないので、可能だとは思います」

「では、田中さん、当日の服装はどんな感じでしたか?」

「え?ぼ、僕ですか?
白いシャツにスラックスでした」

「あ!思い出しました!田中さん、よくスタッフやファンの人達から、スタッフに間違われるから、その服装やめてほしいって言われてました。
確かにあの服装なら怪しまれないかも・・・」
そういうと、アヤネ君が田中さんを疑った目で見つめている。

「なるほど・・・犯人がわかりました!

犯人は・・・。
っと、その前にせっかくの食事が冷めてしまいます。
夕食にしましょう」

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