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【断髪小説】断髪、なかったことに。(1)能力覚醒&強制断髪

割引あり

ブーーーーーー!!!!!

クラクションの音が鳴り響く。

学校の下校途中、目の前にはクラスのヒロインである結城 天音(ゆうき あまね)がいる。
その瞬間、体が勝手に動いていた。
「ユウキさん!!!」
彼女の手を引き寄せ、強引に引っ張る。

キキーーーーーーーッ!!!!
という音と共にスピードを落とさず車が突っ込んできた。

次の瞬間ーー。

ドンッ!!
強烈な衝撃が全身を襲う。
視界がグルリと回転し、僕は宙を舞った。
僕、時雨 悠夜(しぐれ ゆうや)は車に轢かれてガードレールに叩きつけられたみたいだ。

「…シグレ君!?」
焦った声が聞こえる。
目の前にはユウキさんが驚いた顔でこちらを見つめている。
腰まであるサラサラのロングヘアーを風になびかせて、慌てた様子でこちらへ近寄ってきた。
髪をかき上げ、シースルーバングの間から覗く黒い瞳が印象に残っている。

ーー綺麗な髪だ。

「シグレ君?…だ…大丈夫ですか!?
今救急車呼びますね」
彼女は震える手でスマホを取り出し、119に電話をかけ始めた。
「事故です! …はい…! …はい…! そうです、ここは…えっと…」
必死に僕を助けようとしてくれている。
その姿を見て安心したのか、急に眠くなってきた。

ーーあぁ…そうか、僕ももう終わりなんだろうな…。

思えば18年間生きてきた中で、良い思いも出来なかったな。
遠のく視界の中で、僕は思う。

ーー死ぬ前に、一度でいいから…本当に一度でいいから…。
ーーユウキさんみたいな、長い綺麗な髪を…切ってみたかったな…。

手足が冷たくなり、声を出そうとするも声が出ない。
目の前が真っ黒になり、世界が暗闇に沈んでいく。

ーー意識が途絶えた。




ガヤガヤとした人々が会話する声が、遠くから聞こえてくる。
目を開けると学校付近の下校途中だった。
あれ?僕は事故にあって死んだんじゃ?

何が何だか分からなかったが…幻覚?夢?
この現象に対しての答えは持ち合わせていなかったが、どちらにせよ死んだようには思えなかった。

辺りをキョロキョロとみてみたが、いつもの下校している道で特に変わったことはない。
目の前にはユウキさんの長い黒髪がゆらゆらと揺れているのが目に付いた。
あれ?この光景、前と全く同じ…?
これあれかな?デジャブ?ってやつか?
自分の頭の中では答えが見つからないまま、ユウキさんの黒髪につられながら帰路へ向かった。

ブオオオオオオオオオオオオォォォォォンンンンンンッ!!!

遠くでスピードを出した時の車の音が聞こえてきた。
僕は全身に鳥肌がたった。
徐々に近づいてきている。
やっぱり、この光景は…さっき事故に遭う前と一緒?でも、そんな事って…。

更にエンジン音は大きくなり、いよいよ車が近づいてきているようだった。
一応念のため、さっき夢?で見た時のような事態を避けるため、ユウキさんに話しかけて事故を避ける事にした。

「ユウキさん!」
ふわっと長い髪を揺らしながらこちらを振り向く。
不思議そうな顔をしながらユウキさんは言った。
「シグレ…くん?」

ユウキさんの名前を呼んでおいて何だけど、僕はほとんどユウキさんと話した事がない。彼女がびっくりするのも当然だ。

「あ、いやその…。そろそろ信号変わるから…その危ないかなって思って」
彼女は信号機を見上げて首を傾げた。
「青…だけれども?」
「あぁ…そうだったね。ごめん。見間違えた…かな」

…………………….ブオオオオオオオオオオオオォォォォォンンンンンンッ!!!

僕を先程ひいた車が、激しいエンジン音と共に猛スピードで赤信号を駆け抜けていく。

「え?…」
ユウキさんは驚きを隠せない様子だった。
僕もまた先ほど夢で見た事が現実に起こってしまったと鳥肌がたった。
これは正夢?それとも過去に戻った?どちらにせよ非現実的すぎて受け入れる事ができなかった。
「なんで?」
「え?」
「なんでシグレ君は車が来るって分かったの?」
まずい…。僕は前世で今の車に轢かれて、過去に戻ってやり直してるんだ。
などと言っても信じてもらえないだろう。なんせ僕自身もこの説を信じていない。
「そのー…たまたま。偶然だよ。そんな気がして…」
「そう…なのね。
でも、何はともあれ、ありがとうシグレ君。
助かったわ」
「いえ…僕は何も…」
そういうと彼女は足早にその場を立ち去った。




あの日から僕は色々とこの能力の事を試した。
時間を戻す。
ほんの数秒。
あるいは、数分。

能力と言っているのは、時を戻す能力の事だ。
僕はこの能力のことを時戻しの能力と呼称した。

意識を集中させて「時よ、戻れ!」と口にすると戻りたい時間に戻ることができる。

僕が意識すれば、数分程度なら自由に時間を戻せるらしい。

だけど、日を跨いで時間を遡れるかは分からない。
というかまだ試してない。
言葉では言い表せられないのだが、前日以前に戻すことへの恐怖心みたいなものがあって試せていないのだ。

一つ言えることは、この能力は未来を変える事が出来る。
これはユウキさんの件でも証明済みだ。

そして僕は思いついてしまった。
ある計画をーー。

あの日、僕が死んだあの日。
死ぬ寸前に脳裏に浮かんだ、あの願望を。

ーーユウキさんみたいな綺麗な髪の長い女性の髪を切ってみたかった。
この能力さえあれば、ユウキさんの髪の毛だって切れるはずだと!

とはいえ、いきなりユウキさんの髪の毛を切るのは、もったいない。
なぜなら、あの日以来ユウキさんが僕に対して話しかけてくれるようになったからだ。
二人の距離は遠いが、今の関係性で断髪を決行するのはもったいない。
もう少しユウキさんとの距離が近くなって、良好な関係性になってから髪の毛に触りたい。…いや、切りたいと思っている。
断髪欲が僕の中にふつふつと湧いている。

まずは…練習台が必要だ。

ターゲットは霧島 柚葉(きりしま ゆずは)

僕と同じく高校3年生で同じクラス。
綺麗な黒髪ロングヘアーで腰くらいまである。
きゃしゃな体で色白。
彼女はユウキさん程人気者ではないが、隠れファンが結構多く人気もある。

とはいえ、どうやって彼女の髪の毛を切るか?
ここを考えなければならない。

まずは彼女の行動を把握するために、出来るだけ放課後は学校に残るようにしよう。
だけど部活にも入っておらず、彼女との接点も特にない。

無いのならば、作るしかない。

そう思い、居残りする理由もないと不自然なため、クラスメイトに掃除当番を代わって貰うことにした。
あとはキリシマさんが居残りする理由が必要だ。
そこで思い出したのが、今日は宿題が出ていることだ。
キリシマさんの宿題のプリントを隠しておいて、帰った後にそっと机の中に戻しておくことにした。
これで彼女がプリントを忘れた事に気づきこの場所に戻ってくるはず。
そして、その時にキリシマさんの髪の毛を強制断髪する!




放課後、僕は計画通りにクラスメイトに掃除当番を代わってもらった。
ちゃっちゃと掃除を済ませて、キリシマさんが来るのをそっとカーテンの影に身を潜める。
心臓の鼓動がやたら大きく感じる。
ドクン……ドクン……ドクン……。
思えばこんな大それた計画、本当にやってしまっていいものなのか?
欲望に身を任せて大胆な行動に出ようとしてしまっている。

手には美容ハサミと家庭用バリカン。
家庭用バリカンはアタッチメントを3mmに設定済み。
僕が一番好きなミリ数だ。

放課後の教室は静まり返っていた。
物音ひとつしない空間。
時計の針が進む音すら聞こえてしまうほどの静寂。
そんな中ーー。
コツ、コツ、コツ…
と小走りで歩く音が響いた。

僕はカーテンの隙間から物音がする方へと目を向ける。
黒髪ロングヘアーの女性が教室へ入ってきた。
間違いない、キリシマさんだ。

彼女は自身の机の前までそそくさと近寄ってきて、机の中を覗き込む。
長い髪の毛がスゥ〜っと下に垂れた。
彼女は無意識に髪の毛を手でかきあげた。
その一瞬、僕の心臓がドクンと跳ねた。

「おっかしぃ〜なぁ〜。プリント、カバンに入れたはずだったけどなぁ〜」
彼女が独り言を言いながらプリントを探している。

「あ!あった!」
彼女は大きな声を発した。
その時僕はカーテンから忍足でキリシマさんの後ろに近づいていく。

肩のラインにハサミを入れてーー。

そしてーー。

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