クロスチェンジリーチ考
クロスチェンジリーチにパラダイムシフトが起きている。
その事実が観察されたのは、2023年12月20日に行われた第4回fuzzカップベスト16Aにおいてである。
考察に入る前に、私自身の立ち位置を明確にしておきたい。
中島由矩さんの先行研究において、クロスチェンジリーチに対するスタンスが3つに分類されている。
・ワクワク派
・エンジョイ派
・懐疑派
私は【クロスチェンジリーチエンジョイ派】である。
wつけちゃう派である。
でももちろん矢島亨さんへのリスペクトも忘れていない。
さて、この先行研究において中島由矩さんはクロスチェンジリーチを以下のように定義している。
これは中島さんの定義だが、ではクロスチェンジリーチの生みの親である矢島亨さん自身はどう説明しているのか。
パラダイムシフトが観察された第4回fuzzカップベスト16Aに矢島さんは出場しておらず、選手は市井悠太さん・浅井堂岐さん、箭内健次郎さん、田内翼さんの4名。矢島さんは解説。実況が鴨沢橋英里さん。
この試合の序盤に、矢島さん自身がクロスチェンジリーチの定義を述べている。
一見、たいして違いがないように見える。矢島さんの方が実際の動作部分の説明が省略されて大幅に簡略化されているが、ほぼ同じである。
しかし実は両者は似て非なるものである。
クロスチェンジリーチのパラダイムシフトの内容は、この時点でほぼ明らかにされているのだ。
どこが違うかというと、中島さんの定義には入っていて矢島さんの定義には入っていない単語。すなわち「矢島亨さん」である。
中島さんもそして世の多くの人もそう思っていたと思うが、クロスチェンジリーチは矢島亨さんの必殺技だった。他の人は使ってはいけないと言われてはいないが、それが矢島さんの必殺技だと暗黙の裡に理解していた。ウルトラマンの必殺技スペシウム光線を仮面ライダーが使わないように、クロスチェンジリーチも矢島さんだけの技だと捉えられていた。
だが当の矢島さんが、そうは考えていなかったのだ。いや、当初はそうだったかもしれないが、それは変化している。矢島亨のクロスチェンジリーチから、みんなのクロスチェンジリーチへと、パラダイムシフトが起きている。矢島さんが自ら起こしている。
では以下で、第4回fuzzカップベスト16Aにおいてクロスチェンジリーチに言及したシーンを取り上げていこう。
これを見ることで、パラダイムシフトが起きていることが読者諸氏にもご納得いただけるものと思う。
1回戦東1局。完全イーシャンテンの箭内さん。7巡目のツモでテンパイならず。
矢島さんはここでこう言った。
聞いた時には「ん?」と思った。
7巡目がクロスチェンジ巡目ということはわかるが、卓についているのは矢島亨ではない。
だがこの謎はすぐに解決する。矢島さん自身がこう言ったのだ。
なんと!
ということは、このあと田内さんと箭内さんのクロスチェンジリーチを見ることができるかもしれないってこと?
正直ワクワクした。エンジョイ派だけどワクワクした。
ところがこのあと度肝を抜かれる。
東2局。13巡目。市井さんのクロスチェンジリーチ!
しかも完成度が高い!
驚いたのは私だけではなかった。解説・実況の矢島さんと鴨沢橋さんも大騒ぎ。
私も観ていて大笑いしてしまった。
笑っている場合ではない。観戦記を書くために真剣に観ないといけないのだ。
市井さんのクロスチェンジリーチを、矢島さんのXから動画で。
ところで市井さんは9巡目にまったく同じ牌姿のペンカン③ピン待ちでテンパイしたが、テンパイ取らずの打②ピンとしている。13巡目に再度②ピンを引いて今度はリーチにいったので、こんなやりとりも。
そして1つわかったのは、実況の鴨沢橋英里さんはクロスチェンジリーチエンジョイ派である。観ていて明らかである。
実況・解説のやり取り続く。
そしてどうやら浅井堂岐さんは、クロスチェンジリーチ懐疑派のようだ。
このあと、文字起こしだけだと少しわかりにくいが、矢島さんが鴨沢橋さんにクロスチェンジリーチを使えるか尋ねた。
このやり取りは重要である。
市井さんが使えたことは矢島さんにとっても予想外だったが、田内さんと箭内さんには(おそらく)伝授している。
これにより矢島さんがクロスチェンジリーチを自身の専売特許とは考えておらず、世に広く普及させようとしていることがわかる。
「この熱狂を外へ」
そう考えると矢島さんが直接感知しないところで市井さんがクロスチェンジリーチを放ったのは、好ましいことだということがわかる。矢島さんの手を離れてクロスチェンジリーチが独り歩きする状況は、矢島さんにとって望むところのはずだ。
そして鴨沢橋さんはやじ研のメンバーである。
このやり取りをみると、矢島さんは鴨沢橋さんに直接クロスチェンジリーチの指導を行っていない。だが矢島さんの「使える?」という口ぶりには(使えても不思議ではない・使える可能性が十分にある)というニュアンスが感じられる。これは推測だが、やじ研においてクロスチェンジリーチの研究・練習・情報交換等が自然発生的に行われているのではないか。だからこそ(使えるか使えないか知らないけど、使えても不思議ではない)という問いかけになったのではないか。
市井さんと鴨沢橋さんのケースから、クロスチェンジリーチの潜在的使い手は他にもかなりいると推測できる。そして使い手から使い手へ。現在は爆発的増加前夜ともいうべき状況ではないか。
fuzzカップベスト16Aに戻る。2回戦東1局。
田内さんによるクロスチェンジリーチ!
ただこれは控えめなモーションだった。試合後に田内さんはこう語っている。
「僕めっちゃ練習したんすけど、僕の前の山と上家の山が残ってる時に2回、山ブッシャーやったんで、思い切りよくできなかったんで、それが心残り」
こちらは本家本元、矢島さんの前に山があっても出来るクロスチェンジリーチ!
だが田内さんのクロスチェンジリーチを見ることができ、矢島さんは満足感を滲ませる。
先程の推測を裏付ける矢島さんの発言である。
自分1人でリーグ戦1回のクロスチェンジリーチに留まるより、3人がかりで1回でも多くのクロスチェンジリーチがかかることを望んでいる。
会場の大多数が使い手になり、クロスチェンジリーチが頻発することこそ、矢島さんの希望だろう。
東3局
待ちに待った箭内さんのクロスチェンジチャンス!
7巡目にテンパイ。
ところが六萬を縦置き。
⑤ピンを引くとドラと三色で3翻アップ。ここは(クロスチェンジリーチが)空振り。
以上がfuzzカップベスト16Aで観察されたクロスチェンジリーチである。
最早、答は自明である。
「矢島亨のクロスチェンジリーチから、みんなのクロスチェンジリーチへ」
矢島さんは自ら生み出したクロスチェンジリーチを、自分だけのものにせず、世に開放している。我々はありがたく好意を受け、前の山に注意しながら、カッコよくクロスチェンジリーチを決めようではないか。
でもその時、生みの親であり、かつそれを快く世に送り出してくれた矢島亨さんへの感謝の気持ちを忘れないでほしい。感謝しながら、左に大きくズラそう。
クロスチェンジリーチ講座も行われている。
・ワクワク派
・エンジョイ派
・懐疑派
+実践派。
そしてクロスチェンジは雀卓を飛び出した。