新井宏昌と水口栄二
いったい誰が読むんだ野球noteの第4弾。
今回は「いてまえ打線」の貴重なバイプレーヤー、新井宏昌と水口栄二を取り上げる。
新井は10.19や89年の優勝時に、水口は01年の優勝時に活躍した選手である。
ともに
「俊足巧打の2番打者」
と紹介されることが多いが、巧打はともかく実は2人とも足はさほど速くない。
新井は奇襲的なセーフティバントの名手でもあるが、これは俊足ゆえではなく、バント技術の高さと相手の守備位置等を冷静に見極める判断力ゆえのものである。守備位置を前に出させる意図もあるかもしれない。
足の速くない選手のセーフティーバントといえば、近鉄から巨人に移籍した有田修三捕手も有名(?)だが、さすがに有田よりは新井の方が速い。
新井は傘を持っているような超自然体のフォームから、とにかくメチャクチャよく打った。
首位打者のタイトルを取った87年は打率.366。
今回調べて思ったよりも低いなと感じたが、確か途中までは.380台だった気がする。
この年は184安打を打っているが、これは当時の130試合制での最多安打記録。その後これを上回ったのは94年と96年のイチローだけなので、イチローに次いで最も1シーズンでヒットを打った打者ということができる。イチローを見出したのが当時オリックスのコーチをしていた新井だというのも面白い。登録名イチローの発案者でもあるらしい。
1番大石、2番新井のコンビはベンチからはノーサインで、すべて2人で決めていたという。球界屈指の1.2番コンビだと思う。
そして2番新井、3番ブライアントのコンビも最強で、2点負けていても2番まで回れば、新井が出てブライアントがホームランで、いつでも追いつける!というイメージがあった。
ブライアントがミスター2ランと呼ばれたのは、ゆえなきことではない。
という記憶が非常に強くあったのだが、.366打ったのは10.19の前の年の87年のことで、88年は.286に留まっている。ブライアントの入団が88年なので、どうやらこれは私の勝手なイメージのようだ。
ところでオリックス時代の仰木監督は猫の目打線といわれる日替わりオーダーを組んでいたが、ある時イチローを2番に置いた。確かイチローは3番に置かれることが多かったはずだ。
仰木監督はこうコメントした。
「2番に誰を置くか悩むことが多かった。それならいっそイチローにすればいいと考えた。もともとボクは2番打者最強説だから」
こんなコメントだった。
私は思ったものだ。
(2番最強説! 新井か!)
仰木監督の近鉄時代を通じて、ほぼ2番打者は新井が務めていたのだ。
そしてオリックスの監督になった仰木の下に、打撃コーチとして新井がいた。
水口栄二は2001年優勝時の不動の2番打者。やはりメチャクチャ打っていたイメージがあるが、意外にも打率は.290。さらに現役を通じて.300オーバーが一度もなかった。これはかなり意外。
俊足好打の二遊間の選手といえば同時期に武藤孝司がいて、こちらは本当に俊足。大村直之と1、2番を組めれば、機動力の面でかなりの魅力。だが打撃の安定性で武藤は水口を上回ることができず、武藤でいくと毎年言われながら、結局水口が使われる、というイメージがあった。
ただこれもだいぶ思い込みが入っているようで、武藤は97年は.282、99年が.280、00年に至っては水口が一度も達していない3割越えの.311。思ったよりもかなり打っている。
ただ個人的には打撃の技術としては水口に軍配が上がるように感じていた。水口の打撃は年々完成されていっているように見えた。
水口の打撃の特徴は徹底的な右打ち。すべての球をライト前に運ぼうとしている。
徹底した右打ちなので、内角が弱点かと思われるが、実はこれは逆。
水口の特筆すべきところはカット技術で、内角の厳しいコースをバットを遅れ気味に出して止めて当てるような感じで1塁側にファールを打つのがものすごく巧い。ファールで粘りつつ、内角を狙った球が少し甘く入ると、詰まりながらライト前に落とす。とにかく球数を投げさせられて結局出塁され、そのあとに中村紀洋、ローズが控える超強力クリーンナップにつながるので、相手投手は堪らないと思う。
弱点は実は外角のストレート。内角をカットするイメージで遅れ気味にバットが出てくるので、逆に外の真っすぐは振り遅れる傾向があった。
全試合観ていた私にはそれは明らかだったが、解説者も右打ちのイメージからか外が強いと思い込んでいて、そう話している場面をよく見た。さらに相手投手も内角攻めをしてくることが多かった。もしかすると今ほどコース別のデータなどが揃っていなかったのかもしれない。内角の厳しいところでファールを打たせて、最後は外のストレートが実はもっとも討ち取りやすい。ただし制球を間違えれば簡単にライト前に運ばれるので、簡単ではないのだが。なお外の変化球はタイミングが合うので得意。選球眼もいいので、ボールになる変化球で誘ってもなかなか振ってくれない。
新井・水口とも安定した打撃技術を持つ好打者だが、バントが多いのも特徴的。時にもったいないと感じることもあったが、仰木監督・梨田監督とも初球からバントを命じることが多かった。
水口の時には続くクリーンナップが超強力(中村・ローズ・クラークまたはローズ・中村・礒部)だったので、1番大村出塁、2番水口バント、3番が四球でランナーが貯まり、ここから大量得点というパターンが多かった。
日本シリーズでヤクルトの古田は「あのクリーンナップに打たれるのは仕方ないが、逃げてランナーを貯めるのが最悪」と言って、徹底的に強気に攻めさせて日本一になった。
たとえ怖くても、やはり押すべきところではリスクを取って押すことが大事。